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かもめ通信
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「着眼点はものすごくいい。だけどちょっと軽いんだよねえ。」「だいたい中堅編集者がそんな認識でどうするの!」と読み始めた当初は上から目線とお局モード全開だったが、次第に翻訳の魅力に取り憑かれていった。
大手出版社に勤務する中堅文芸編集者・真壁は、共に新人時代からコンビを組んで切磋琢磨してきたやってきた売れっ子作家・樫木の死から一年経った今も立ち直れずにいた。

そんなある日真壁は、樫木が子どもの頃別れたきりの日本語を全く解さないドイツ人の父に、自分の作品を届けて欲しいと願っていたことを知り、自伝的小説である代表作『君を包む雨』のドイツ語での翻訳出版を実現させようと決意する。
だがそのとき彼は、日本語が超マイナー言語であるという認識もなければ、翻訳には単なる実務面だけでなく、実に様々な問題があることを全く理解していなかったのだった。


辞書の編纂を手がける 『舟を編む』、文芸編集部の若手編集者を描いた『クローバー・レイン』など、出版社勤務の編集者を主人公に据えた物語はこれまでにも沢山あったが、日本の小説を翻訳して海外に送りだそうという設定はなかなか新鮮だ。
ドイツで1年間に出版される日本の文芸書の数は18点にすぎず、しかもその中には太宰や鴎外といった“現代文学”とは言い難い作品も複数含まれているといった、作中に盛り込まれている翻訳出版をめぐる情報も興味深い。
 
しとしと、ざあざあ、さめざめと雨音だけでも沢山の表現がある日本語のニュアンスをいかにつたえるか、あえて言葉に出さないような想いをどうやってとどけるのか。
直訳、意訳、超訳、「言葉」を捨て「意味」をとってもいいものか。
日本語から外国語への翻訳の難しさを改めて考えさせられると同時に、日頃から大変お世話になっている外国語を日本語に訳す翻訳者の方々の苦労にも思いをはせる。

熱い編集者も必要だが、作品を理解しこよなく愛する翻訳者がいなくては、翻訳小説を読むことは叶わないのだと改めて認識させられる1冊だった。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2229 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2016-05-23 20:51

    国際文芸誌World Without Borders日本特集
    http://wordswithoutborders.org/current-issue/

    私にはすらすら読める語学力はありませんが,英語で紹介される日本の作品,なかなか興味深いものがありますねえ。
    この特集記事をみて,自分が現代日本の文芸作品を全然読んでいないことを改めて実感しました。(汗)
    とりあえずこれでも読んでみようかな。。。。

  2. かもめ通信2015-03-04 08:51

    そうそう,レビューでは触れませんでしたが,海外でよく読まれている日本の現代作家に,村上春樹氏はまあ当然として,吉本ばななさんの名前があがっていることにはちょっと驚きました。
    あと…ドイツで鴎外って……ドイツの人は舞姫をどう読むのか…気になるところですね!

  3. SET2015-03-04 20:36

    角田光代さんや古川日出男さん、知ってる名前がアルファベットで書かれているだけで、なんだか嬉しいですね。よしもとばななさんは結構色々読んでいるので、それも嬉しいです。

    海外の人はどんなふうに読んだのかと思って、前にNicolBolasさんが紹介していた英語書評サイトを覗きに行ったら、キッチンだけでかなりたくさんありました。1,465 reviews だそうです。すごい。
    http://www.goodreads.com/book/show/50144.Kitchen

    英語得意じゃないんですけど、ある人が「GoodReadsを好きな理由は、読む前に“friends”の意見を見ることが出来るからです、Mariel, Oriana, and Jason Pettusが紹介していなかったら、キッチンを読むことはなかったでしょう」みたいなことを書いていて、規模は違うけど海外版「本が好き」だ! と一人で盛り上がってました。

  4. かもめ通信2015-03-04 21:21

    やや!SETさん、英語なんか読めない!と思いつつ、思わずキッチン評を眺めてきてしまったではありませんかw
    中には翻訳にダメ出ししている人がいるかと思えば、「ばなな」という変な名前の作家とか言っている人もいて、そういうところも本が好き!に似ているかもしれませんねww

  5. SET2015-03-04 22:47

    「変な名前の作家」って面白いですね。確かにそうなんですけど……(笑)。やっぱり、バナーナ・ヨシモトって発音するんでしょうか、向こうの人は。

  6. かもめ通信2015-03-05 05:58

    「カツ丼」は英語で「pork cutlet bowl」??
    言い方はともかく、料理そのものをイメージできるのかしら??

  7. SET2015-03-05 07:43

    意外なところで翻訳家の方の苦悩に繋がってきましたね。あの場面で出てくるカツ丼、伝わってるといいですね~。

  8. かもめ通信2015-03-05 09:50

    カツ丼が伝わるかどうかは重要だよねww
    ところで~ベルリン・フンボルト大学には森鷗外記念館があるんだって。
    http://4travel.jp/overseas/area/europe/germany/berlin/kankospot/10332956/
    階段の手すりにそって日本語で舞姫の一節がかいてあるらしい。
    エリスの運命を考えると……ドイツ人,寛容だなあ(><)

  9. Wings to fly2015-05-08 18:10

    祝!図書新聞掲載!
    おめでとうございます ♪(*^^)o∀*∀o(^^*)♪

  10. かもめ通信2015-05-08 19:32

    えへ(*^_^*)ありがとうございます。
    私は内輪ネタで書くことが多いので、こういうコラボ企画にはご縁はなさそうだな~と思っていたのですが……意外なレビューが?!

    実家の母がとっても喜んでいるようなので、母の日のプレゼントということにww

  11. No Image

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