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表紙をよーく見てみると・・・。
緑と赤と青の光が同等にまざりあうとき、それは白に見える。
冒頭に引用されるヘルムホルツの色彩論だ。
この一文をなぞるように緑、赤、青、白と4つの構成によって物語は展開していく。
「緑」の章ではドイツの没落名家に生まれた
ゼバスティアン・フォン・エッシュブルクの幼年期から青年期までが描かれる。
幼いうちに父親と生家を失い、その後息子を顧みない母親は再婚し、
長期休暇以外は寄宿学校で孤独な青年期を過ごしたゼバスティアン。
周囲の大人の事情に振り回され、決して恵まれたとはいえない子ども時代だが
作中で彼の感情が露わになることは殆どなく淡々と語られていく。
ゼバスティアンは物心ついたときから文字に色を感じていた。
電磁波を知覚し、それらを彼の脳は二百の色調や五百の明度、
そして二十種類の異なる白色に置換えた。
万物に人が知覚する以上の色彩を認識する「共感覚」の持ち主だったのだ。
学校を卒業すると写真家となり、才能を開花させた。
仕事は成功し、自分を理解してくれる恋人も得るものの
常に得体の知れない不穏なものを己の内に漂わせている。
この時点では
①少し影のある才能ある不思議系カメラマン、なのか
②単なる危ないカメラ小僧、なのかはよくわかっていなかった。
しかし、「あなたを愛するのは難しい」という恋人の台詞は
彼の中の危うさをこのとき既に示唆していたのかもしれない。
「赤」の章では唐突にゼバスティアンが若い女性の誘拐の容疑で逮捕されている。
ああ、やっぱり②だったのか、ゼバスティアーン・・・。
既に主人公に愛着を持ち始めていただけにショックな展開だが
その後に続く「青」の章の腕弁護士ビーグラーの登場によって物語は衝撃の結末を迎える。
作中で真相をつきとめたビーグラーが路上で踊りだすという愉快な場面があるのだけれど
私達読者もまたゼバスティアンに踊らされていたようだ。
はたしてゼバスティアンは有罪か、無罪か?
最終章「白」の章で描かれるのは事件後のゼバスティアンだ。
緑、赤、青が重なり合って導きだされた「白」を読み終えてようやく静けさが戻ってくる。
そこにはもうあの不穏さはなかった。
あとがきには豪華にも著者本人から「日本の読者のみなさんへ」と始まり
「悪とはなにか」という問いへの答えが真摯に綴られている。
その後の翻訳者あとがきでは表紙にまつわるエピソードが語られ、
表紙を改めて確認し、著者のこの作品へのこだわりを知ると共に背筋が寒くなる。
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【めも】
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- 出版社:東京創元社
- ページ数:238
- ISBN:9784488010409
- 発売日:2015年01月10日
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