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かもめ通信
レビュアー:
気になる一節をさがすために○十年ぶりに手にした本は、当初の目的を忘れさせるほど懐かしく面白かった。
1964年に出版されたこの小説は
大江健三郎氏の初期の作品で、
著者本人を思わせる若き小説家の語り手が
遠くアフリカの地から一通の訃報を受け取るところからはじまる。

亡くなったのは斎木犀吉という美しく多才な青年で
“ぼく”の年下の友人だった。

二人が初めてであったのは斎木犀吉が18歳の時。
熱に浮かされたようにナセル義勇軍への志願を決意した二人の若者は
その資金を調達するために“ぼく”の祖父が住む四国を訪ねることにしたのだった。

気難しいはずの“ぼく”の祖父と意気投合した彼は
二人分の旅費を持ったまま、行方をくらましたにもかかわらず、
数年後に、再会したときには、
昨日別れたばかりのように打ち解けた様子であれこれと語り出すのだった。


語り手である“ぼく”は
筆禍事件の後遺症で、ヒポコンデリアに陥っているのだが、
そんな“ぼく”の前にいつも突然現れる斎木犀吉は、
結局のところ“ぼく”に転機をもたらす運命にある人物のよう。
鬱々とあれこれ考え込みがちで
なかなか動こうとしない“ぼく”とは対照的に
ボクサーを志したかと思えば、映画俳優になり、
商業デザインを手がけたかと思えば、ジゴロにもなる
会うたびに以前とは異なる暮らしをし、以前とは違う相手と共にいるという
メチャクチャな生き方をしている彼は、
それでいてとても繊細で
常に生き生きと周囲はもちろん読者をも引きつけてやまない。


およそ冒険的とは言えない“平和な世の中”にあって
あくまで冒険的に生きようとする青年は
酒浸りでセックスに溺れ、法も秩序もモラルもなく
21世紀の今の世であったなら、たとえ物語の中であっても
ありえない問題人物として物議を醸しそうな設定なのに
どこか懐かしく
若き日の倦怠感と
はっきりしないなにかへの憧れと
あたりに漂う焦燥感とともに、
青臭かった“あの頃”に一気に連れ戻してくれるかのようだった。


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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2229 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2014-11-16 08:51

    これが面白く読めたのだから、もっと気恥ずかしい思い出と直結しているあの本も、楽しく読めるかもしれないなあ。。。。

  2. 小太郎2014-11-16 22:07

    これも懐かしい~~です。

  3. かもめ通信2014-11-16 22:19

    小太郎さん!ですよね!!w

  4. かもめ通信2014-11-17 06:41

    そしてこれ↓が、この本を再読するきっかけになった詩集です。
    http://www.honzuki.jp/book/217611/review/129864/

  5. 三太郎2014-11-17 09:19

    僕は大江健三郎の初期の小説では、個人的な体験に出てくる、主人公の友人「鳥(バード)」を思い出します。彼もアフリカに行くのだったかな。大昔に読みました。

    最近では、「さようなら、私の本よ!」を読みましたが、これに出てくるアメリカ帰りのおじさんも別の小説で出会ったような気がしました。ちょっと力が抜けてマンネリになったかなあ。

  6. かもめ通信2014-11-17 09:37

    三太郎さん!確かに『個人的な体験』も印象深かったですねえ!確か著者によればあの鳥(バード)のモデルはご自身では無いとのことでしたが,それでもある意味とてもリアルで衝撃的でした。
    最近の作品はいくつか積んだまま未読なのですが,これを機会にゆっくり読んでいきたいなあと思っています。
    面白いけれど,体力を消耗するんですよね大江作品はw

  7. かもめ通信2014-11-17 09:57

    ちなみに本書をご存じない方のための豆知識(?)。この『日常生活の冒険』に出てくる斎木犀吉のモデルは故伊丹十三さんだと言われています。

    あ,もしかして,お若い方は伊丹十三さんを知らなかったりするのかしら…(滝汗)

  8. 小太郎2014-11-17 13:03

    大江健三郎の初期作品群は読んだ時期もあっていつまでも記憶に残っています。
    「芽むしり仔撃ち」「性的人間」「飼育」この本などまるで綺羅星のようです、ただそれも「万延元年もフットボール」くらいまでで、その後の本がどうして自分にとって詰まらなくなってしまったんだろう~といつも考えてしまいます。

  9. かもめ通信2014-11-17 14:04

    小太郎さん,私は元々それほど熱心な大江読者だったわけではないのですが
    『取り替え子』(2000年初出)はすごく印象に残っています。
    でも三部作の二作目以降はいまだ積んでいるという……(汗)
    読み進める為にはやっぱり一作目を読み直さないことには……(ごにょごにょ。。。。)

  10. 三太郎2014-11-22 05:57

    >斎木犀吉のモデルは故伊丹十三さんだと

    大江さんの奥様は映画監督の伊丹さんの妹さんでしたよね。二人は義理の兄弟ですね。対照的な印象のお二人ですが。

    僕も中期の大江作品は全然読んでないんです。そのうち、たっぷり時間ができたら読もうかなあ。

  11. かもめ通信2014-11-22 11:20

    三太郎さん、そうです、そうです。大江さんと伊丹さんは義理のご兄弟。
    ちなみに小説の中でも「ぼく」は友人の妹と結婚するのですが、こちらは斎木青年のではなく別の友人の妹さんという設定でした。

    大江作品は自分でも何作か積んでいる他に、先日、実家の母の本棚に私の未読作品が何冊も収蔵されていることを発見したので、おいおい読んでいこうと思っています。

  12. No Image

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