雅也-カヤ-さん
レビュアー:
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恋愛でも変態でもない「変愛」、そろってます。
本書は岸本佐知子氏が編・訳した英米文学アンソロジー
『変愛小説集』『変愛小説集2』に続く『変愛小説集』の日本版。
「変」愛というだけあって人選もかなり変なこだわりを感じます。
多和田葉子、本谷有希子、木下古栗、(岸本さんも実在の方か
不安だったという幻の作家)深堀骨など濃ゆい作家さんが勢ぞろい。
岸本さん曰く
そう、少し変わったものを愛しちゃったり、愛が深すぎて異界へ行ってしまったり、
愛しすぎて姿形が変わったりしちゃうけど、それも全て愛ゆえに。
純粋な愛があるからこそなせる技なのだ。
「形見」 川上弘美
その世界では日本と朝鮮半島が海中トンネルでつながっていて、
2つのアメリカ大陸がくっついている。
これはそんな大陸の形や位置が変わってしまうほどに未来の話。
その世界には「工場」があって動物も植物も食料もそこで作られている。
人間の子どもも。
人が生殖せずに工場で造られた各種動物由来の人間たちが暮らすふしぎな世界。
「工場」によって人々は造られて、死んでいくだけ。
静謐で満たされた世界は人々から人間らしさを奪っていく。
そんな世界で愛の名残のようなものをみつけた。
「韋駄天どこまでも」 多和田葉子
華道教室で知り合った二人の女が大地震を
きっかけに奇妙な形で心身共に結びついて行く物語。
奇抜なストーリーに加えて奇抜な文字遊び。
読者はストーリーに振り回されつつ、視覚的にも振り回されてしまうのだ。
二人の女性が互いの身体をまさぐりあう場面では
漢字があっちこっち跳ね回って遊びどころかもはや超絶技巧。
官能?いいえ、これは漢能小説です。
「藁の夫」 本谷有希子
文字通り、藁で出来た夫とその妻の物語。
藁なのに、車に乗って、ジョギングして、コーヒーを飲む藁の夫。
そんな藁にあくまで夫として接する妻との夫婦の風景はえらくシュール。
幸せそうな夫婦生活に小さなひびが入ったとき妻は夫をみて何を思ったか。
妻の密かな願望が恐ろしい。
「トリプル」 村田沙耶香
カップルではなくて、トリプル。
イマドキの若者世代では恋愛もセックスも3人でするのが当たり前。
内訳は男1:女2でも男2:女1でも女3or男3でもOK。
作中で主人公が言う「正しいセックス」とは
トリプルのセックスであり3Pとは違うらしい。
肉体の穴という穴を互いの体液で埋めていくそれはどこか儀式めいていて、
官能的とも言えるかもしれない。
しかし、カップル世代の母親にはトリプルという概念が理解できず
「まさかトリプルじゃないでしょうね?乱交や3Pは不潔よ」と嫌悪する。
潔癖で教育熱心の母親の口から乱交だとか3Pという単語が
出てしまうあたりが矛盾していてなんとも面白い世界観。
「ほくろ毛」 吉田知子
主人公・彩乃はある日、ほくろから毛が生えていることに気がつく。
それは彩乃にとっての吉兆であり、恋の訪れを示す。
彩乃に思いを寄せる「カレ」とは一体誰なのか。
一見、幸福な恋愛小説とみせかけて、まさかの「カレ」の正体にぶったまげた。
「逆毛のトメ」 深堀 骨
碧いお目目に金色の髪、フリフリドレスのお人形さん。
しかしてその実態はヴァギナにコルクスクリューを仕込んだコルク抜き人形だった。
その名も逆毛のトメ。
踊り子として自我に目覚め、人間達を殺害していくという悪夢をみてしまいそうな物語。
アメリカのホラー映画に出てくる殺人人形チャッキーを思い浮かべたのは私だけかしら。
ユーモアなんだか残酷なんだか。
「天使たちの野合」 木下古栗
前作金を払うから素手で殴らせてくれないか?
でその凶暴な読み心地に心臓をわし掴みにされちゃった古栗さん。
その暴走っぷりは本作でも変わらない。
物語は四人の男たちの待ち合わせの場面から始まる。
一人、また一人と男が登場し、謎の女も登場し、
さあ、あと男が一人登場すれば全ての謎が解けるに違いない。
と、読者を寄せるだけ寄せ付けといて
やっぱり最後にぶっとんだ結末を用意していました。
だーから全然意味わかんねーんだって(笑)
いえいえ、爆発してるのは古栗さんの頭さ(もちろん、いい意味で)
「カウンターイルミネーション」 安藤桃子
探検家の男はとある未開の部族と共に過ごした過去を振り返る。
閉鎖的な土地に伝わる残酷な因習、異世界を思わせる神秘的な空気。
自国へ戻った後も男は忘れることもできず、心はとらわれたままだ。
しかし、それらの残酷さは元々潜在的に主人公の内にあったのもの。
だからこそ男は強く惹かれてしまったのではなかっただろうか。
「梯子の上から世界は何度だって生まれ変わる」 吉田篤弘
童話を読んでいるような感覚に捉われる。
主人公の男の職業は世界中の電球を変える「電球交換士」
そんな主人公が口から風景を吐き出す病に冒された女に出会った。
二人の出会いと別れが短い文章の中で綴られるじんときてしまう切ないラブストーリー。
「男鹿」 小池昌代
女はいつもサイズの合わない靴を履いていた。
しかし、一人のシューフィッターとの出会いで女を自分に合う靴を求めるようになる。
靴、靴、靴、靴、靴。
ある日、女は究極の一足と出会う。
そして、それを履いた女は一匹の獣と化して物語は幕を閉じる。
これは靴への異常なまでの愛を描いた物語?
「クエルボ」 星野智幸
定年退職した男の日常は退屈だ。
妻の趣味に付き合っても、元同僚たちとのサークルに参加してもいまひとつ。
そんな彼が密かに心を通わせていたのが家の前にいるカラス。
ある日、気がつくとなぜか金属ハンガーを拾い集めてリース状のオブジェを作っていた。
またある日もオブジェを作って、しまいには鉄塔に登っている有様。
男は一体何をしようとしているのか。
最後の男の妻のひと言で全てが明らかに。
「ニューヨーク、ニューヨーク」 津島佑子
離婚した妻のトヨ子が死んでしまった。
そして、男は遺された中学生の息子とトヨ子を偲ぶ。
ニューヨークに憧れていたトヨ子。
だけど、結局最後までニューヨークには行けなかったトヨ子。
ママ友とのけちくさい飲み会が唯一の楽しみだったトヨ子。
体が大きくて、服のセンスがなかったトヨ子。
でも、トヨ子はもう死んでしまった。
しんみりとしたトヨ子への慈愛が溢れた物語。
トヨ子、お前なんで死んでしまったんだよぉおお。
『変愛小説集』『変愛小説集2』に続く『変愛小説集』の日本版。
「変」愛というだけあって人選もかなり変なこだわりを感じます。
多和田葉子、本谷有希子、木下古栗、(岸本さんも実在の方か
不安だったという幻の作家)深堀骨など濃ゆい作家さんが勢ぞろい。
岸本さん曰く
変愛は純愛とのこと。
そう、少し変わったものを愛しちゃったり、愛が深すぎて異界へ行ってしまったり、
愛しすぎて姿形が変わったりしちゃうけど、それも全て愛ゆえに。
純粋な愛があるからこそなせる技なのだ。
「形見」 川上弘美
その世界では日本と朝鮮半島が海中トンネルでつながっていて、
2つのアメリカ大陸がくっついている。
これはそんな大陸の形や位置が変わってしまうほどに未来の話。
その世界には「工場」があって動物も植物も食料もそこで作られている。
人間の子どもも。
人が生殖せずに工場で造られた各種動物由来の人間たちが暮らすふしぎな世界。
「工場」によって人々は造られて、死んでいくだけ。
静謐で満たされた世界は人々から人間らしさを奪っていく。
そんな世界で愛の名残のようなものをみつけた。
「韋駄天どこまでも」 多和田葉子
華道教室で知り合った二人の女が大地震を
きっかけに奇妙な形で心身共に結びついて行く物語。
奇抜なストーリーに加えて奇抜な文字遊び。
読者はストーリーに振り回されつつ、視覚的にも振り回されてしまうのだ。
二人の女性が互いの身体をまさぐりあう場面では
漢字があっちこっち跳ね回って遊びどころかもはや超絶技巧。
官能?いいえ、これは漢能小説です。
「藁の夫」 本谷有希子
文字通り、藁で出来た夫とその妻の物語。
藁なのに、車に乗って、ジョギングして、コーヒーを飲む藁の夫。
そんな藁にあくまで夫として接する妻との夫婦の風景はえらくシュール。
幸せそうな夫婦生活に小さなひびが入ったとき妻は夫をみて何を思ったか。
妻の密かな願望が恐ろしい。
「トリプル」 村田沙耶香
カップルではなくて、トリプル。
イマドキの若者世代では恋愛もセックスも3人でするのが当たり前。
内訳は男1:女2でも男2:女1でも女3or男3でもOK。
作中で主人公が言う「正しいセックス」とは
トリプルのセックスであり3Pとは違うらしい。
肉体の穴という穴を互いの体液で埋めていくそれはどこか儀式めいていて、
官能的とも言えるかもしれない。
しかし、カップル世代の母親にはトリプルという概念が理解できず
「まさかトリプルじゃないでしょうね?乱交や3Pは不潔よ」と嫌悪する。
潔癖で教育熱心の母親の口から乱交だとか3Pという単語が
出てしまうあたりが矛盾していてなんとも面白い世界観。
「ほくろ毛」 吉田知子
主人公・彩乃はある日、ほくろから毛が生えていることに気がつく。
それは彩乃にとっての吉兆であり、恋の訪れを示す。
彩乃に思いを寄せる「カレ」とは一体誰なのか。
一見、幸福な恋愛小説とみせかけて、まさかの「カレ」の正体にぶったまげた。
「逆毛のトメ」 深堀 骨
碧いお目目に金色の髪、フリフリドレスのお人形さん。
しかしてその実態はヴァギナにコルクスクリューを仕込んだコルク抜き人形だった。
その名も逆毛のトメ。
踊り子として自我に目覚め、人間達を殺害していくという悪夢をみてしまいそうな物語。
アメリカのホラー映画に出てくる殺人人形チャッキーを思い浮かべたのは私だけかしら。
ユーモアなんだか残酷なんだか。
「天使たちの野合」 木下古栗
前作金を払うから素手で殴らせてくれないか?
でその凶暴な読み心地に心臓をわし掴みにされちゃった古栗さん。
その暴走っぷりは本作でも変わらない。
物語は四人の男たちの待ち合わせの場面から始まる。
一人、また一人と男が登場し、謎の女も登場し、
さあ、あと男が一人登場すれば全ての謎が解けるに違いない。
と、読者を寄せるだけ寄せ付けといて
やっぱり最後にぶっとんだ結末を用意していました。
だーから全然意味わかんねーんだって(笑)
分かるだろう? PASMOの残高が足りなくなるような奴の頭は爆発するもんさ
いえいえ、爆発してるのは古栗さんの頭さ(もちろん、いい意味で)
「カウンターイルミネーション」 安藤桃子
探検家の男はとある未開の部族と共に過ごした過去を振り返る。
閉鎖的な土地に伝わる残酷な因習、異世界を思わせる神秘的な空気。
自国へ戻った後も男は忘れることもできず、心はとらわれたままだ。
しかし、それらの残酷さは元々潜在的に主人公の内にあったのもの。
だからこそ男は強く惹かれてしまったのではなかっただろうか。
「梯子の上から世界は何度だって生まれ変わる」 吉田篤弘
童話を読んでいるような感覚に捉われる。
主人公の男の職業は世界中の電球を変える「電球交換士」
そんな主人公が口から風景を吐き出す病に冒された女に出会った。
二人の出会いと別れが短い文章の中で綴られるじんときてしまう切ないラブストーリー。
「男鹿」 小池昌代
女はいつもサイズの合わない靴を履いていた。
しかし、一人のシューフィッターとの出会いで女を自分に合う靴を求めるようになる。
靴、靴、靴、靴、靴。
ある日、女は究極の一足と出会う。
そして、それを履いた女は一匹の獣と化して物語は幕を閉じる。
これは靴への異常なまでの愛を描いた物語?
「クエルボ」 星野智幸
定年退職した男の日常は退屈だ。
妻の趣味に付き合っても、元同僚たちとのサークルに参加してもいまひとつ。
そんな彼が密かに心を通わせていたのが家の前にいるカラス。
ある日、気がつくとなぜか金属ハンガーを拾い集めてリース状のオブジェを作っていた。
またある日もオブジェを作って、しまいには鉄塔に登っている有様。
男は一体何をしようとしているのか。
最後の男の妻のひと言で全てが明らかに。
「ニューヨーク、ニューヨーク」 津島佑子
離婚した妻のトヨ子が死んでしまった。
そして、男は遺された中学生の息子とトヨ子を偲ぶ。
ニューヨークに憧れていたトヨ子。
だけど、結局最後までニューヨークには行けなかったトヨ子。
ママ友とのけちくさい飲み会が唯一の楽しみだったトヨ子。
体が大きくて、服のセンスがなかったトヨ子。
でも、トヨ子はもう死んでしまった。
しんみりとしたトヨ子への慈愛が溢れた物語。
トヨ子、お前なんで死んでしまったんだよぉおお。
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■ 登録日 2012/07/26
■2024年 近況■
某サイトで読んだり、備忘録的に記したり、
BLソムリエとしても色々楽しく参加中。
【めも】
2013/4/14 50書評 到達。
2013/11/19 100書評 到達。
2014/10/26 150書評 到達。
2019/1/15 200書評 到達!
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- 出版社:講談社
- ページ数:314
- ISBN:9784062190657
- 発売日:2014年09月05日
- 価格:1944円
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