ぽんきちさん
レビュアー:
▼
古今東西、語り伝えられてきた、犬と人との物語
1987年刊であるので、少し古い本である。とはいえ、ここで取り上げられているのは太古の神話・伝説・昔話のお話なので、この程度の古さは誤差範囲だろう。
犬は、最古の家畜といわれ、1万数千年以上前(一説には3万数千年前)から人と暮らし始めたといわれる。人と共同生活する動物の代表格である。
犬がなぜ人と暮らすようになったのか、犬とは人々にとってどういう存在であるのか、その起源や捉えられ方を窺わせる神話や伝説が世界各地に残っている。そうした伝承から、犬と人との結びつき、延いては人の世界観を探ってみようというのが本書のねらいである。
本文中には各話が主に要約で記載されるが、巻末には原典がきちんと記されており、元資料にあたることも可能となっている。
犬のフォークロアに関する和書の単行本としては最初の本だという。
構成は:
「犬の由来譚」は、なぜ犬が人とともに暮らすことになったかを説明する話である。さて、人と暮らすようになったのは、他の動物たちにいじめられたから? それとも神様にそう命じられたから?
「犬祖伝説」は犬と人との間に生まれた子供がある一族の祖となったとする話であり、驚いたことに、これが意外に世界各地にある。ある意味、馬琴の『南総里見八犬伝』もこうした流れを汲む話と言えよう。生物学的には考えにくいが、犬と人との精神的結びつきの強さの現れということか。
信仰の中の犬には、不吉な意味合いを帯びるものと、人を守る役割のものがある。犬は冥界に結びつけられることも多い。特に四つ目の犬(両目の上に斑点があるもの)は不吉とされた。一方で、守護神や導き手とされることもあり、犬自身が安産であることから子安信仰の対象ともなっている。
星座になった犬もいれば、月に住む犬もいる。
不思議な霊力を持って人を助けるとされることもある。白い犬は特に霊力と結びつけられ、その中でも赤い耳のものは妖性を持つとされる例が日本でもイングランドでも見られる。
忠犬伝説というのもよく知られ、主人を救ったのに誤解されて殺され、その後、誤解が晴れて祀られるタイプの話が多くある。
章立てを別にして特に取り上げられているのが「花咲爺」と「竹篦太郎」の話である。
花咲爺は日本の昔話の代表といってもよい話だが、国内でもさまざま類型があり、黄金を生んだり猪を捕ったりする例がある。アイヌの伝説や中国・朝鮮の昔話にも、犬が善人に富を与え、妬んだものには汚れたものを与えるといった形の話が見られる。
竹篦(しっぺい:僧が座禅の時、気がゆるむとぴしぃ!と肩を打ってもらう道具)太郎は、人身御供に関わる物語である。神に化けた猿や狸が生贄を求める。毎年、村の娘が犠牲となって食われるが、化け物が「このことを○○の国の『竹篦太郎』には知らせるな」と歌い囃すのをある者が聞き、竹篦太郎を探しに行く。探し当てた竹篦太郎は犬であり、これを連れ帰り、無事に化け物を退治することができた、というものである。国は近江であったり丹波であったり信州であったり、また竹篦太郎も一平太郎だったり七八太郎だったり、バリエーションがある。名前が大仰で、すぐには犬とわからないところがミソである。
こうした話の中には、アールネ・トンプソンの『昔話の型』やトンプソンの『民間文芸主題索引』により、分類されているものも多い(余談だが、二大巨頭であるアールネとトンプソンの他にも分類を行っている研究者はおり、本書でも日本人研究者として関敬吾、池田弘子といった名前が出てくる)。人が思いつくことは似ていることがあるということか、あるいは好まれる話が語り継がれ残ってきたということか、いずれにしろ類話というのは結構多いものなのだなぁ、という印象である。
おおらかな話、悲しい話、わくわくする話、ちょっと不気味な話、と伝承はさまざまである。
太古の昔に人に選ばれ、そして人との暮らしを選んだ犬たち。犬を通じて、人は野生を、そして自然を感じ取った。
多様な物語は、人が犬とどのように接してきたか、そして周囲に暮らす犬やその他の動物たちをどのように見てきたかを浮き彫りにしていく。それは遙かなる昔の記憶の痕跡なのかもしれない。
犬は、最古の家畜といわれ、1万数千年以上前(一説には3万数千年前)から人と暮らし始めたといわれる。人と共同生活する動物の代表格である。
犬がなぜ人と暮らすようになったのか、犬とは人々にとってどういう存在であるのか、その起源や捉えられ方を窺わせる神話や伝説が世界各地に残っている。そうした伝承から、犬と人との結びつき、延いては人の世界観を探ってみようというのが本書のねらいである。
本文中には各話が主に要約で記載されるが、巻末には原典がきちんと記されており、元資料にあたることも可能となっている。
犬のフォークロアに関する和書の単行本としては最初の本だという。
構成は:
第一章 犬の由来譚
第二章 犬祖伝説
第三章 信仰と神話の犬
第四章 犬と星の伝承
第五章 伝説の猟人
第六章 霊犬伝説
第七章 忠犬伝説
第八章 花咲爺の犬
第九章 竹篦太郎伝説
第十章 犬の習性と特徴を説明する昔話
「犬の由来譚」は、なぜ犬が人とともに暮らすことになったかを説明する話である。さて、人と暮らすようになったのは、他の動物たちにいじめられたから? それとも神様にそう命じられたから?
「犬祖伝説」は犬と人との間に生まれた子供がある一族の祖となったとする話であり、驚いたことに、これが意外に世界各地にある。ある意味、馬琴の『南総里見八犬伝』もこうした流れを汲む話と言えよう。生物学的には考えにくいが、犬と人との精神的結びつきの強さの現れということか。
信仰の中の犬には、不吉な意味合いを帯びるものと、人を守る役割のものがある。犬は冥界に結びつけられることも多い。特に四つ目の犬(両目の上に斑点があるもの)は不吉とされた。一方で、守護神や導き手とされることもあり、犬自身が安産であることから子安信仰の対象ともなっている。
星座になった犬もいれば、月に住む犬もいる。
不思議な霊力を持って人を助けるとされることもある。白い犬は特に霊力と結びつけられ、その中でも赤い耳のものは妖性を持つとされる例が日本でもイングランドでも見られる。
忠犬伝説というのもよく知られ、主人を救ったのに誤解されて殺され、その後、誤解が晴れて祀られるタイプの話が多くある。
章立てを別にして特に取り上げられているのが「花咲爺」と「竹篦太郎」の話である。
花咲爺は日本の昔話の代表といってもよい話だが、国内でもさまざま類型があり、黄金を生んだり猪を捕ったりする例がある。アイヌの伝説や中国・朝鮮の昔話にも、犬が善人に富を与え、妬んだものには汚れたものを与えるといった形の話が見られる。
竹篦(しっぺい:僧が座禅の時、気がゆるむとぴしぃ!と肩を打ってもらう道具)太郎は、人身御供に関わる物語である。神に化けた猿や狸が生贄を求める。毎年、村の娘が犠牲となって食われるが、化け物が「このことを○○の国の『竹篦太郎』には知らせるな」と歌い囃すのをある者が聞き、竹篦太郎を探しに行く。探し当てた竹篦太郎は犬であり、これを連れ帰り、無事に化け物を退治することができた、というものである。国は近江であったり丹波であったり信州であったり、また竹篦太郎も一平太郎だったり七八太郎だったり、バリエーションがある。名前が大仰で、すぐには犬とわからないところがミソである。
こうした話の中には、アールネ・トンプソンの『昔話の型』やトンプソンの『民間文芸主題索引』により、分類されているものも多い(余談だが、二大巨頭であるアールネとトンプソンの他にも分類を行っている研究者はおり、本書でも日本人研究者として関敬吾、池田弘子といった名前が出てくる)。人が思いつくことは似ていることがあるということか、あるいは好まれる話が語り継がれ残ってきたということか、いずれにしろ類話というのは結構多いものなのだなぁ、という印象である。
おおらかな話、悲しい話、わくわくする話、ちょっと不気味な話、と伝承はさまざまである。
太古の昔に人に選ばれ、そして人との暮らしを選んだ犬たち。犬を通じて、人は野生を、そして自然を感じ取った。
多様な物語は、人が犬とどのように接してきたか、そして周囲に暮らす犬やその他の動物たちをどのように見てきたかを浮き彫りにしていく。それは遙かなる昔の記憶の痕跡なのかもしれない。
お気に入り度:







掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:誠文堂新光社
- ページ数:287
- ISBN:9784416587096
- 発売日:1987年03月01日
- 価格:2831円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。






















