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Wings to fly
レビュアー:
世の中の子どものために、自分の中に生きている子どものために。
彼女がいなかったら、日本の「子どもが読んで楽しむ本」はどうなっていたのだろう。『クマのプーさん』をはじめとする数々の海外名作文学の翻訳。和製ファンタジーの先駆け『ノンちゃん雲に乗る』の創作。質の高い名作を集めた「岩波少年文庫」(岩波書店)の編集。今年40周年を迎えた「東京こども図書館」の設立に貢献し、現在どこの図書館にもある「児童文学コーナー」の種をまいた人、石井桃子。

「彼女が送り出した作品によって、日本の子どもの本はいつしか教訓から自由になり、まぎれもない文学の域に達した。」(序章より)
この評伝には、石井桃子は何を思いどうやってそれを実現したのか、ということが書かれている。
彼女は女子大生時代、菊池寛のもとで海外文学のあらすじをまとめるアルバイトをしていた。そのまま文藝春秋の編集者となり、退社後は新潮社にスカウトされ、山本有三の指揮のもと、子ども向けシリーズ「少国民文庫」の翻訳・編集に携わる。

世界情勢の不安定であった1930年代、40年代に、子どもたちのために、広く世界の文学を読ませたいと願った編集者があったことは、当時これらの本を手にすることの出来た日本の子どもたちにとり、幸いな事でした。(美智子皇后「国際児童図書評議会」での講演より)

戦前戦中の言論統制時代、戦後の混乱期になされた仕事の価値をはじめ、彼女の精神に深く影響を与えた作家たち、交遊関係と秘めた恋、突然農業に従事するに至った理由とその裏にあった気持ちなど。2008年に亡くなるまでの101年を、本人へのインタビューと残された手紙や史料から、実に丁寧に追いかけている。彼女が隠し続けた心情も含めて。

著者は私と同様に石井桃子の本を読んで育った方だ。あとがきの文章にも深い共感を覚えた。
「子どものための文学は、どんなに悲しみや不安を描いても、根底には幸福と希望をたっぷり湛え、幸福を約束していなくてはならない。」
それは「大人になってからのあなたを支えるのは、子ども時代のあなたです。」という石井桃子の言葉に通じる。優れた児童文学は子どもたちに、人生は生きるに値すると信じさせる力がある。

夢がむなしいことではない 「ドコニモナイ国」にいきたいか。
(エリナー・ファージョン作・石井桃子訳『ガラスのくつ』より)

石井桃子の最大の功績は、日本の子どもたちに「ドコニモナイ国」への招待状を贈ってくれたことだと感じた。夢が本当のことである秘密の王国に、心の一部を預けて大人になるために。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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