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はるほん
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個人的アクティ祭!その2。
こちらも「奉教人の死」より。
自分が持っているのは古い版だが
今の新潮社版と中に入っている作品は同じだと思う。
「煙草と悪魔」「さまよえる猶太人」「奉教人の死」
「るしへる」「きりしとほろ上人伝」「黒衣聖母」「神神の微笑」
「報恩記」「おぎん」「おしの」「糸女覚え書」の11編。

切支丹物と言われる作品なので、教会や神父が出てくるものが多いのだが
これを古典調にしてあるので「天主教(キリスト教)」「提宇子・泥鳥須(デウス)」
などの字が使われていたり、教会を南蛮寺と呼んだり、
はたまたDS如来(デウス如来=多分神の事であろう・笑)と言うぶっ飛んだ表現もある。
なんかこう↑↑→XXYみたいなコマンド押したくなるね。

馬鹿なツッコミはさておき、本編。
イエズス会宣教師のオルガンティノは
教会の中にある庭をぼんやり眺めながら。
正体不明の重苦しい想いに鬱々としていた。

────この地は美しく、気候も穏やかだ。
土人(国民)も親しみやすい性質で、最近は寺や信徒も増えてきた。
なのに自分は、この国を立ち去りたくて仕方がない。
ホームシックと言うのではない。
御主よ、この想いは一体何処から来るのでしょう──?

そんなオルガンティノの前に、突如1人の老人が現れる。
彼は神ではないし、悪魔でもないと名乗る。
だがゆっくりと、オルガンティノの中にある想いの正体を解き明かしていく。

天主教を広めることは悪いことではないが
きっと最後に負けてしまうだろうと、老人は言う。
オルガンティノは、全知全能の主に勝てぬものはないと反論するが
老人は日本と言う国の来し方を話し始める。

大陸から文字を初めとする多くの文化を取り入れながら
この国はそれらをすべて征服してきたのだと。
牽牛織女銀河という言葉を、彦星棚機津女天の川という文字に変え
大陸からやってくる舟を、幾度も嵐に沈めた。
印度より渡った仏陀の御姿ですら、大日如来に被せてしまう。

この国の者は破壊はしない。
だが作り替えるのだ。
天主も長い時を変えて、この国の土人になってしまうだろう。

うむ、やはり芥川のツッコミは鋭い。
いや、大なり小なり文化とは他国のモノを受け付けないか、
自国風に取り入れることではあるのだが
確かにこれほど小さい国で、また流行に乗りやすい国民性を持ちながら
染まらない文化を築く日本は面白い国だ。

日本のキリスト教徒は2%ほどとされる。
だが最近の結婚式はほぼ洋式だし
クリスマスにはほぼ全国民が便乗する。
更にはバレンタインと言う独特の宗教(?)態勢を作り上げ
ホワイトデーまで合体させ、そこそこ普及させている。
現代ではハロウィーンが破竹の勢いで勢力を伸ばしていると言う。

だがおそらくその根底に宗教意識はなく、
最近定着してきた「恵方巻」となんら変わりはないのだ。
唯一神なんてサミシイジャナイ。
カバンにお守りを2~3個つけちゃうように
神様と縁起物は数打ちゃ当たるものでいいのだ。

これも余談だが、友人の結婚式が洋式で
チャペルでもないのに、事前に神父講座が必須だったとか。
ちなみに神式でやる場合は、その神父が神主に変わるんだそうだ。
本格的というより、不真面目としか思えない。(笑)

で、その神父が新郎新婦に祈りをささげてくれるんだが
突如「アーメンっっっっッ!!!!」というお祓いのような気合一番の声がとどろいて
厳粛な式の途中、鼻から吹き出しそうになって困った。
いや今日アンタ神主じゃないから。

芥川の「日本」は過去の話ではないのだ。
大樹の根にも鮮やかな新緑にも、
舞い散る桜にも小川のせせらぎにも鐘の音響く夕闇にも、
風光明媚な景色のあちこちに、今もひっそり息づいているのだ。

エキゾチック・ジャパンの横顔に、他国の皆様はゆめゆめ油断なされますまい…。
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はるほん
はるほん さん本が好き!1級(書評数:684 件)

歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。

年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。

秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。

2018.8.21

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