書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

有坂汀さん
有坂汀
レビュアー:
前作の『奇界遺産』から4年。世界の果てまで行って撮影してきたあらゆる珍奇なものを一堂に集めた写真集の第2弾です。佐藤氏の執念にはただただ圧倒され、作品世界にぶっ飛んでしまったことをここに記します。
前作『奇界遺産』の異例のヒットから4年の歳月を経て生まれた続編の写真集が本書であります。フォトグラファーであり、作家の佐藤健寿氏が世界の果てを巡りに巡って、集めに集めた世にも珍奇なる人、物、場所…。それらをギュウギュウに圧縮し、一冊の写真集にまとめたもので、イラストは『無面目・太公望伝』などでも知られる諸星大二郎氏。解説には『世界のアラマタ』こと荒俣宏氏。アートディレクションには古平正義氏がそれぞれ参加し、前作を上回る禍々しいパワーが滲み出ております。

イエメンにある古代摩天楼には、古代のイスラム文化をそのままの形で現代へと伝えるもので、現地の人々のスナップ写真に写し出されている素朴さはこの生活を何百年と守り続けてきたのだな、という「伝統」を感じさせ、中国は北京から車で東で2時間ほど行った先にある東燕郊天子庄園という所には、周辺の建物から文字通り頭2つ分程抜きん出た暴力的な存在感を訪れるものに叩きつけてくれる『福禄寿』という神様たちを模した「天子大酒店」というぶっ飛びホテル。

アメリカはロサンゼルスから東へ300km程行った所にあるスラヴ・シティという町の荒野にそびえ立つサイケデリック感あふれる「サルベーション・マウンテン」(救いの山)。リトアニアにある約5万本とも言われる十字架が所狭しと立てられている「十字架の丘」。ここは度重なる旧ソ連側の殲滅作戦にも屈せず、現在では世界中の敬虔なるカトリック教徒の聖地とされ、多くの信者が巡礼に訪れるのだそうです。

そして、僕が本書を読んで最も衝撃を受けた箇所といえば、あの西原理恵子女史も現地に赴いて造ったといわれているガーナはガ族の文化として定着し、いまや葬式に欠かすことのできない「アフリカン・デザイナーズ棺桶」が取り上げられていたことでした。

魚。ライオン。映写機にカメラ…。なぜこのようなものに包まれて人生の最期を迎えたいのか…。そこには涙なしには語ることのできないエピソードがあったのです。本書によると、時は1960年頃、ガーナ郊外のテシエという小村で、ケーン・クウェイという一人の優秀な大工の母親が亡くなったところから始まります。当時、村の近くには空港が建設され、村中で飛行機についての話題で持ちきりだったそうで、ケーンの母は、その飛行機に乗ることも見ることもかなわず、
「あの飛行機とやらに、一度でいいから乗ってみたかった…。」
という遺言を残して逝去してしまうのです。

「俺が飛行機に乗せてやる!」
そう思い立ったケーンは毎日のように飛行機の発着場へと通いつめ、その形状を頭の中に叩き込み、一心不乱に木材を削って見事、木製の飛行機型の棺桶を造り、それに母親の骸を入れて葬式では盛大に葬ってあげたのだそうです。

ケーンがほっとしたのもつかの間。彼の下には
「赤い魚の棺桶を造ってくれないか」
「美しい玉ねぎと共に眠りたい」
という注文が殺到し、ケーンは彼らの真摯な願いに応えるべく、必死にカンナを振り続け、現在では死を重んじるガ族の習慣の中では欠かすことのできない「文化」となったのだそうです。

ケーン・クウェイの店も代替わりをして、3代目のセディと2代目のソワーがその『暖簾』を守っているそうですが、初代ケーン・クウェイに師事した弟子たちもまた独立して自分たちの店を開き、西原理恵子女史の棺桶の製作を担当した若き「アフリカの匠」である棺桶職人のエリックもまた、この流れを受け継いでいるのだなぁと思うと、とても感慨深くなってしまいました。

この話にとてもびっくりした僕が本書について、
「この本の中にりえぞお先生もお造りになったというガーナの『ファンシー棺桶』が取り上げられていたのを知って死ぬほど腰を抜かした件。」
とツイッターでつぶやいたところ、なんと佐藤氏本人のところに届き、
「ありがとうございます。私もまさか西原理恵子さんが棺桶を作っていたとは知りませんでした。さすがですね。」
と、返事をいただき、これまた二重に驚いてしまいました。

その他にも90歳の老人が村中に描いたフリースタイルの絵画や、フィリピンはパンパンガ州サンフェルナントで行われる『マレルド』というイエス・キリストの最期を『忠実に』再現した奇祭などが取り上げられており、まさに世界の広さと人間の持つ『深さ』というものを今回もまた、つくづく思い知らされたのでありました。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
投票する
投票するには、ログインしてください。
有坂汀
有坂汀 さん本が好き!1級(書評数:2673 件)

有坂汀です。偶然立ち寄ったので始めてみることにしました。ここでは私が現在メインで運営しているブログ『誇りを失った豚は、喰われるしかない。』であげた書評をさらにアレンジしてアップしております。

読んで楽しい:11票
素晴らしい洞察:2票
参考になる:15票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『奇界遺産2』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ