ぽんきちさん
レビュアー:
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地獄とは現世の写し絵なのか
怪談(『怪談牡丹灯篭 怪談乳房榎』)、幽霊画(『幽霊名画集―全生庵蔵・三遊亭円朝コレクション』)と来て、地獄絵でございます(--)。
おとなの「旅」の道案内、太陽の地図帖シリーズの1冊。
「地獄絵」を追って日本を旅します。そしてこの旅はまた、地獄を巡り、地獄に対する人々のイメージを追う旅でもあります。
*中には、かなりグロテスクで凄絶な絵もありますので、ある程度、覚悟して手に取られた方がよいかと思います。
地獄絵の成立は古代にまで遡ります。最古の地獄絵は、東大寺二月堂本尊の光背に刻まれているそうです。これが8世紀。下って12世紀、中尊寺の大般若経に地獄の獄卒が描かれているとのこと。清少納言の枕草子にも、地獄絵を見たとの記述があります。芥川龍之介の『地獄変』も時代設定としては似た頃でしょうかね。
こうした地獄絵・地獄の観念の元になっているのは、恵心僧都源信の『往生要集』(985年)。末法思想のただ中です。念仏によって末法を乗り切るよう、教え諭した書でありますが、一方で、これに従わなかった場合には、こうなるぞ、という克明な描写がなされています。
地獄道・餓鬼道・畜生道・阿修羅道・人道・天道、以上併せて六道。ここを逃れて極楽往生を遂げるためには、念仏に頼るしかない、というのです。
この教えが広まっていくと、人々は極楽にあこがれる一方で、怖ろしい六道とはどのような姿なのか、という思いも抱いていきます。斯くして、中世以降、地獄絵は大きく発展していくのです。
源信の教えには、閻魔大王は出てきません。これは、日宋貿易を機に中国から伝わった十王(閻魔を含む、冥界の10人の王)の説話が六道思想と結びついたものです。
これにさらに、各神社仏閣の縁起などが織り込まれた形で、地獄絵が各地で描かれ、地獄思想が人々に身近なものとなっていったようです。
さて、地獄絵を通して、実際に地獄巡りをしましょうか。
三途の川では死者の衣服をはぎ取る奪衣婆がいますね。
三途の川には渡り方が三通りあって、善人は橋を渡り、普通の人は船に乗って、悪人は激流に投げ込まれます。地獄に着く前に、すでに待遇が違うのですね・・・。
地獄では、罰の種類もさまざまで、よくこんな罰を思いついたなぁと感心させられるほどです。獣に食われるとか、獄卒に刺し貫かれるとかはともかくとして、水を飲もうとすると火に変わってしまっていつまでも渇きがいやされない、とか、素手で煮えたぎる鉄を掴まされる、とか、何かもうすごいイマジネーションです。罪の分類も細かくて、「旅人に酒を飲ませ、ものを盗んだり殺したりした者」とか「水で薄めた酒を売った者」とか「枡目の計量をごまかしたもの」とか、何だか妙にピンポイントです。こう細かいと、むしろ、身に覚えがある人は、「あ、オレ」とぎょっとするかもしれません。
絵師たちの筆も非常に熱が籠もっていて、火焔の熱気や、獄卒の怒声や、毒虫の針の鋭さも感じられるようです。
地獄は六道の最下層にあるもの。これは地底にあるとされていて、地獄の中も8つに分かれており(八大地獄)、一番下の無間地獄は、二万由旬(由旬は古代インドの距離の単位、約7kmとされています)地下にあるそうです。何だか変に具体的ですねぇ・・・。
・・・ん? 地球の直径が約1万2千キロだから、二万由旬≒14万キロ、地球突き抜けてるんじゃないかって・・・?
いやいや、そんなことを言ってはいけません!! 屁理屈をこねると地獄に堕とすぞ!なんて言われたら大変!!! そのくらい、とんでもなく深い、ということです。
そんな深い深ーい地獄にもしも堕ちてしまったら、出てくるには、自身の信心や子孫による供養が大切とのこと。
ひぃーん、悪いことはしないから、閻魔様、地獄には落とさないでくださいよう・・・。
さて、何とか現世に戻って参りました。
しかし、この本には、もう1つ山があるのですねぇ・・・。
すなわち、現世を描いた「餓鬼草紙」、「病草紙」、「九相図」。このうち「餓鬼草紙」は、餓鬼道に堕ちた者が、一部、密かに現世に住み着いているさまを描いたものです。餓鬼は、決して満たされない飢えを人のおこぼれで満たそうとする哀しい存在です。これは、ある意味、想像の中ですが、「病草紙」、「九相図」となると、これは現実にかなり近いものと見た方がよいでしょう。実際に様々な病に苦しむ人々、生前美しかった人が死後に辿る様相が、相当リアルな筆致で描かれています。実際に病に罹った人、朽ちていく人を見ていなければ描けない、と思います。
まるで、地獄のような苦しみ。現世こそが地獄、いや、地獄は現世の写し絵だったのかもしれません。
さまざまに考えさせられる1冊です。
*うーむ、これはいずれ『往生要集』を読んでみなくてはなー(--)。『神曲』と併せて読んでみたりすると興味深いのですかねぇ・・・。
・太陽の地図帖既読本
『郷土菓子: ふるさとの味を旅する』
おとなの「旅」の道案内、太陽の地図帖シリーズの1冊。
「地獄絵」を追って日本を旅します。そしてこの旅はまた、地獄を巡り、地獄に対する人々のイメージを追う旅でもあります。
*中には、かなりグロテスクで凄絶な絵もありますので、ある程度、覚悟して手に取られた方がよいかと思います。
地獄絵の成立は古代にまで遡ります。最古の地獄絵は、東大寺二月堂本尊の光背に刻まれているそうです。これが8世紀。下って12世紀、中尊寺の大般若経に地獄の獄卒が描かれているとのこと。清少納言の枕草子にも、地獄絵を見たとの記述があります。芥川龍之介の『地獄変』も時代設定としては似た頃でしょうかね。
こうした地獄絵・地獄の観念の元になっているのは、恵心僧都源信の『往生要集』(985年)。末法思想のただ中です。念仏によって末法を乗り切るよう、教え諭した書でありますが、一方で、これに従わなかった場合には、こうなるぞ、という克明な描写がなされています。
地獄道・餓鬼道・畜生道・阿修羅道・人道・天道、以上併せて六道。ここを逃れて極楽往生を遂げるためには、念仏に頼るしかない、というのです。
この教えが広まっていくと、人々は極楽にあこがれる一方で、怖ろしい六道とはどのような姿なのか、という思いも抱いていきます。斯くして、中世以降、地獄絵は大きく発展していくのです。
源信の教えには、閻魔大王は出てきません。これは、日宋貿易を機に中国から伝わった十王(閻魔を含む、冥界の10人の王)の説話が六道思想と結びついたものです。
これにさらに、各神社仏閣の縁起などが織り込まれた形で、地獄絵が各地で描かれ、地獄思想が人々に身近なものとなっていったようです。
さて、地獄絵を通して、実際に地獄巡りをしましょうか。
三途の川では死者の衣服をはぎ取る奪衣婆がいますね。
三途の川には渡り方が三通りあって、善人は橋を渡り、普通の人は船に乗って、悪人は激流に投げ込まれます。地獄に着く前に、すでに待遇が違うのですね・・・。
地獄では、罰の種類もさまざまで、よくこんな罰を思いついたなぁと感心させられるほどです。獣に食われるとか、獄卒に刺し貫かれるとかはともかくとして、水を飲もうとすると火に変わってしまっていつまでも渇きがいやされない、とか、素手で煮えたぎる鉄を掴まされる、とか、何かもうすごいイマジネーションです。罪の分類も細かくて、「旅人に酒を飲ませ、ものを盗んだり殺したりした者」とか「水で薄めた酒を売った者」とか「枡目の計量をごまかしたもの」とか、何だか妙にピンポイントです。こう細かいと、むしろ、身に覚えがある人は、「あ、オレ」とぎょっとするかもしれません。
絵師たちの筆も非常に熱が籠もっていて、火焔の熱気や、獄卒の怒声や、毒虫の針の鋭さも感じられるようです。
地獄は六道の最下層にあるもの。これは地底にあるとされていて、地獄の中も8つに分かれており(八大地獄)、一番下の無間地獄は、二万由旬(由旬は古代インドの距離の単位、約7kmとされています)地下にあるそうです。何だか変に具体的ですねぇ・・・。
・・・ん? 地球の直径が約1万2千キロだから、二万由旬≒14万キロ、地球突き抜けてるんじゃないかって・・・?
いやいや、そんなことを言ってはいけません!! 屁理屈をこねると地獄に堕とすぞ!なんて言われたら大変!!! そのくらい、とんでもなく深い、ということです。
そんな深い深ーい地獄にもしも堕ちてしまったら、出てくるには、自身の信心や子孫による供養が大切とのこと。
ひぃーん、悪いことはしないから、閻魔様、地獄には落とさないでくださいよう・・・。
さて、何とか現世に戻って参りました。
しかし、この本には、もう1つ山があるのですねぇ・・・。
すなわち、現世を描いた「餓鬼草紙」、「病草紙」、「九相図」。このうち「餓鬼草紙」は、餓鬼道に堕ちた者が、一部、密かに現世に住み着いているさまを描いたものです。餓鬼は、決して満たされない飢えを人のおこぼれで満たそうとする哀しい存在です。これは、ある意味、想像の中ですが、「病草紙」、「九相図」となると、これは現実にかなり近いものと見た方がよいでしょう。実際に様々な病に苦しむ人々、生前美しかった人が死後に辿る様相が、相当リアルな筆致で描かれています。実際に病に罹った人、朽ちていく人を見ていなければ描けない、と思います。
まるで、地獄のような苦しみ。現世こそが地獄、いや、地獄は現世の写し絵だったのかもしれません。
さまざまに考えさせられる1冊です。
*うーむ、これはいずれ『往生要集』を読んでみなくてはなー(--)。『神曲』と併せて読んでみたりすると興味深いのですかねぇ・・・。
・太陽の地図帖既読本
『郷土菓子: ふるさとの味を旅する』
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
この書評へのコメント
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- 出版社:平凡社
- ページ数:95
- ISBN:9784582945560
- 発売日:2013年06月27日
- 価格:1296円
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