ホセさん
レビュアー:
▼
創業者吉田俊夫の伝記に見えるが、周りを固める者、後を継ぐ者も記して、「山の上ホテル」が主人公のお話にまとめあげている。
常盤新平の淡々としながら、時々「パシッ」と軽く肩を叩かれるような文章も心地よいぞ。
195 常盤新平 「山の上ホテル物語」
山の上ホテルの創業者である吉田俊夫の伝記に見えるが、周りを固め後を継ぐ者もしっかりと記して、「山の上ホテル」が主人公のお話にまとめあげている。
常盤新平の淡々としながら、時々「パシッ」と軽く肩を叩いてくれるような文章も心地よいぞ。
「作家で最初のお客さまは川端康成さんでした」からお話は始まる。
そう、山の上ホテルは、作家が缶詰めになる場所として有名だ。
仕事だけでなくプライベートでも良く利用していた、山口瞳と池波正太郎が親しい間柄とは知らなかった。
山口が、前支配人の秋山を「秋山小兵衛(剣客商売)」、和食天ぷらの近藤を「梅安(仕掛人)」、フルーツ・パーラーの川口を「鬼平(犯科帳)」と親しみをこめて呼んでいた件には微笑んでしまう。
75部屋に6つの飲食施設というバランスが、このホテルの方向性を強く示していると常盤新平は言う。
レストランが多すぎるのだ。
でも、食事も三食しっかりと出せる小さなホテル、旅籠、Innという考え方だから、それは当然なんだ。
予約受付係は、電話の第一声を聞いて、「角田さま♪」って常客へ名前を呼びかけるそうだ。
吉田俊夫は宣言している、
「もし、人が他人へ与へられる最高のものが誠意と真実であるなら、ホテルがお客様に差し上げられるものもそれ以外にはないはずだと思ひます」と。
この人は、いい意味で狂っている。最高だ♪♪
こうした小さくもホスピタリティに溢れているホテルとして、常盤新平はニューヨークのアルゴンクィン、パリのプラザ=アテネを挙げている。
他にも秋山らの研修旅行を通して、欧州を主体に良いホテルの名前が幾つもでてくる。
かの地に駐在してる友人に本著を送って、泊まってきて貰い、あとで話を聞こうかな♪(頼むよ(^^)/)
秋山らが若い頃に仰せつかって行った研修旅行を纏めた、「ホテル屋の見たヨーロッパのホテル」という本が、本著に大きく寄与している。
吉田から命じられた「毎日こなす事」が、すこぶる面白い。
泊まるホテルは勿論一流どころ(そして吉田の紹介状を見せたら、多くのホテルが無料にしてくれた、粋だ♪)
・その土地の魚河岸、問屋、野菜市場をはじめ、すべてのその土地固有の商店を見てくること
・日に一度は必ず一番安いメシ屋で、その土地の労働者の食べるものを食べろ
その他もろもろあり、こなすのだけで結構疲れてしまったそうだ。
その途中、車で移動していた最中、オーストリアで森のなかで、ちょっと昼食にと寄った居酒屋で、そこが旅籠である事に秋山は気づき、二階の部屋の案内を乞う。
そして、400年前からあるダブルベッドの部屋から、秋山はこう述べている。
「窓の外には桜が匂い、森の遠景も美しい。三食付きのこの片田舎の宿に滞在したらどんなに頭の洗濯になることか」
この余裕というか客観的に物事を見る事が、きっときっと、吉田が知ってもらいたい事なのだと確信した。
本著の半分くらいは吉田俊夫に纏わる話だが、彼を継いでいく秋山や関口・井口らの修行のお話しも効果的だ。
部屋が埋まらず、外人の客を集めるために、羽田空港で到着した外人に声をかける担当であったり、
銀座の日本航空の事務所に詰めて、そこで宿を探す外人を掬い上げたりしていた。
最終便の客が終わったら、日航の事務所の火を落とすことも我々の仕事だ。
まさに駅前旅館だったんだと言う。
彼ら従業員を吉田が徹底的に鍛えるとともに、イタリアマフィアのようにどこまでも面倒をみているところが凄い。
吉田の厳しさと徹底ぶりは生半可ではなく、少なくないスタッフは去り、
本著に登場する後を継いだ者たちでさえも、一度ならず逃げたりしている。
吉田はマニュアル化を許さず、人間的対応(判断)をその都度求めていく。
(マニュアル化を許さない、ってのは俺が会社に入って年下の人に引き継ぐ度に主張していた事。マニュアル的な質問には全て「答えを直ぐ求めたらダメ、で、君はこれをどうしたらよいと考えてみたの?ってね♪。楽しい限りだ)
想像力、好奇心を緩めさせない。
客を迎えるという視点で、全く妥協させない。
そして、これがきっと凛とした、山の上ホテルの空気を熟成していったのだろう。
もう20数年前、友人の披露宴で本ホテルを初めて訪れた時は、「ちと古いかな」と最初に感じたものの、
直ぐになんだか落ち着き始めた事を覚えている。
(披露宴でけっこうな大役を仰せつかり、ホテルに着くまでは台本メモと睨めっこだったのだが、深呼吸できた♪)。
吉田が見つけてきて、社員に金を渡して「食いに行って来い」と言い付ける店が幾つか記されており、
一度行ってみたいものだ。
南千住の鰻「尾花」、人形町の洋食「芳味亭」に「㐂寿司」。
東京に住んでいると、東京の宿にはなかなか泊まる機会がないのだが、いつか少し余裕ができたら是非泊りにいってみたい。
いや、その前に小金ができたらご飯を食べにいったらいいんだ。
「山の上ホテルが作り出してきた空気」に触れる事ができるのは、きっと大変贅沢な事だろうから。
(2016/7/4)
PS そういえば、若い頃に「ホテル西洋銀座に、今に一度泊ってやる!!」、って考えていたけれど、閉まっちゃったなぁ・・・
PPS 竣工から86年を迎える建物の老朽化への対応を検討するため、2024年2月13日より当面の間、休館している。
山の上ホテルの創業者である吉田俊夫の伝記に見えるが、周りを固め後を継ぐ者もしっかりと記して、「山の上ホテル」が主人公のお話にまとめあげている。
常盤新平の淡々としながら、時々「パシッ」と軽く肩を叩いてくれるような文章も心地よいぞ。
「作家で最初のお客さまは川端康成さんでした」からお話は始まる。
そう、山の上ホテルは、作家が缶詰めになる場所として有名だ。
仕事だけでなくプライベートでも良く利用していた、山口瞳と池波正太郎が親しい間柄とは知らなかった。
山口が、前支配人の秋山を「秋山小兵衛(剣客商売)」、和食天ぷらの近藤を「梅安(仕掛人)」、フルーツ・パーラーの川口を「鬼平(犯科帳)」と親しみをこめて呼んでいた件には微笑んでしまう。
75部屋に6つの飲食施設というバランスが、このホテルの方向性を強く示していると常盤新平は言う。
レストランが多すぎるのだ。
でも、食事も三食しっかりと出せる小さなホテル、旅籠、Innという考え方だから、それは当然なんだ。
予約受付係は、電話の第一声を聞いて、「角田さま♪」って常客へ名前を呼びかけるそうだ。
吉田俊夫は宣言している、
「もし、人が他人へ与へられる最高のものが誠意と真実であるなら、ホテルがお客様に差し上げられるものもそれ以外にはないはずだと思ひます」と。
この人は、いい意味で狂っている。最高だ♪♪
こうした小さくもホスピタリティに溢れているホテルとして、常盤新平はニューヨークのアルゴンクィン、パリのプラザ=アテネを挙げている。
他にも秋山らの研修旅行を通して、欧州を主体に良いホテルの名前が幾つもでてくる。
かの地に駐在してる友人に本著を送って、泊まってきて貰い、あとで話を聞こうかな♪(頼むよ(^^)/)
秋山らが若い頃に仰せつかって行った研修旅行を纏めた、「ホテル屋の見たヨーロッパのホテル」という本が、本著に大きく寄与している。
吉田から命じられた「毎日こなす事」が、すこぶる面白い。
泊まるホテルは勿論一流どころ(そして吉田の紹介状を見せたら、多くのホテルが無料にしてくれた、粋だ♪)
・その土地の魚河岸、問屋、野菜市場をはじめ、すべてのその土地固有の商店を見てくること
・日に一度は必ず一番安いメシ屋で、その土地の労働者の食べるものを食べろ
その他もろもろあり、こなすのだけで結構疲れてしまったそうだ。
その途中、車で移動していた最中、オーストリアで森のなかで、ちょっと昼食にと寄った居酒屋で、そこが旅籠である事に秋山は気づき、二階の部屋の案内を乞う。
そして、400年前からあるダブルベッドの部屋から、秋山はこう述べている。
「窓の外には桜が匂い、森の遠景も美しい。三食付きのこの片田舎の宿に滞在したらどんなに頭の洗濯になることか」
この余裕というか客観的に物事を見る事が、きっときっと、吉田が知ってもらいたい事なのだと確信した。
本著の半分くらいは吉田俊夫に纏わる話だが、彼を継いでいく秋山や関口・井口らの修行のお話しも効果的だ。
部屋が埋まらず、外人の客を集めるために、羽田空港で到着した外人に声をかける担当であったり、
銀座の日本航空の事務所に詰めて、そこで宿を探す外人を掬い上げたりしていた。
最終便の客が終わったら、日航の事務所の火を落とすことも我々の仕事だ。
まさに駅前旅館だったんだと言う。
彼ら従業員を吉田が徹底的に鍛えるとともに、イタリアマフィアのようにどこまでも面倒をみているところが凄い。
吉田の厳しさと徹底ぶりは生半可ではなく、少なくないスタッフは去り、
本著に登場する後を継いだ者たちでさえも、一度ならず逃げたりしている。
吉田はマニュアル化を許さず、人間的対応(判断)をその都度求めていく。
(マニュアル化を許さない、ってのは俺が会社に入って年下の人に引き継ぐ度に主張していた事。マニュアル的な質問には全て「答えを直ぐ求めたらダメ、で、君はこれをどうしたらよいと考えてみたの?ってね♪。楽しい限りだ)
想像力、好奇心を緩めさせない。
客を迎えるという視点で、全く妥協させない。
そして、これがきっと凛とした、山の上ホテルの空気を熟成していったのだろう。
もう20数年前、友人の披露宴で本ホテルを初めて訪れた時は、「ちと古いかな」と最初に感じたものの、
直ぐになんだか落ち着き始めた事を覚えている。
(披露宴でけっこうな大役を仰せつかり、ホテルに着くまでは台本メモと睨めっこだったのだが、深呼吸できた♪)。
吉田が見つけてきて、社員に金を渡して「食いに行って来い」と言い付ける店が幾つか記されており、
一度行ってみたいものだ。
南千住の鰻「尾花」、人形町の洋食「芳味亭」に「㐂寿司」。
東京に住んでいると、東京の宿にはなかなか泊まる機会がないのだが、いつか少し余裕ができたら是非泊りにいってみたい。
いや、その前に小金ができたらご飯を食べにいったらいいんだ。
「山の上ホテルが作り出してきた空気」に触れる事ができるのは、きっと大変贅沢な事だろうから。
(2016/7/4)
PS そういえば、若い頃に「ホテル西洋銀座に、今に一度泊ってやる!!」、って考えていたけれど、閉まっちゃったなぁ・・・
PPS 竣工から86年を迎える建物の老朽化への対応を検討するため、2024年2月13日より当面の間、休館している。
掲載日:
投票する
投票するには、ログインしてください。
語りかける書評ブログ「人生は短く、読むべき本は多い」からの転記になります。
殆どが小説で、児童書、マンガ、新書が少々です。
評点やジャンルはつけないこととします。
ブログは「今はなかなか会う機会がとれない、本読みの友人たちへ語る」調子を心がけています。
従い、私の記憶や思い出が入り込み、エッセイ調にもなっています。
主要六紙の書評や好きな作家へのインタビュー、注目している文学賞の受賞や出版各社PR誌の書きっぷりなどから、自分なりの法則を作って、新しい作家を積極的に選んでいます(好きな作家へのインタビュー、から広げる手法は確度がとても高く、お勧めします)。
また、著作で前向きに感じられるところを、取り上げていくように心がけています。
「推し」の度合いは、幾つか本文を読んで頂ければわかるように、仕組んでいる積りです。
PS 1965年生まれ。働いています。
この書評へのコメント
 - コメントするには、ログインしてください。 
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:白水社
- ページ数:243
- ISBN:9784560720912
- 発売日:2007年02月01日
- 価格:1080円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。









 
  
 













