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Wings to fly
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与謝野寛(鉄幹)・晶子夫妻の長男の回想録。「石川啄木に会ったことがあるのは、もう僕ぐらいのもんでしょう、ねえ・・・。」
本書は与謝野晶子没後50年に出版された聞き語りである。語り手の与謝野光氏は、晶子と寛の長男で慶応大卒の医師、東京都衛生局長など要職を歴任した方だ。その穏やかでユーモア溢れる語り口は、父母そして与謝野家と親交のあった人々の素顔を生き生きと伝える。

光氏がお医者さんになったのは、息子を森鴎外みたいにしたいと父が密かに思っていたからだ。しかし、この歌人夫妻の11人の子どもは誰も文学の道に進まなかった。
「芸術は世襲制度でやるのが一番いけないことで、“その人”がなきゃいけないって(両親が)言ったことが非常に影響しているわけで・・・」

家族ぐるみの付き合いがあり、与謝野夫妻を支え続けた森鴎外。晶子を「与謝野のかみさん」と呼んでいた夏目漱石。貧乏だから父に可愛がられた石川啄木と、それが面白くなかった北原白秋。子供たちにいつもお土産を持ってきてくれた優しい高村光太郎。光氏が語るエピソードは、とにかく人間的で面白い。

詩歌機関誌「明星」が廃刊に追い込まれてから夫が大学で教え始めるまで、晶子は筆一本で夫と11人の子供の生活を支えた。
「父は、あんまり経済のことなんか考えないから、母は、わずかな原稿料とか色紙を書いて一銭でも稼がなきゃならない。そういうの見てますからね。」
兄弟仲が良いのも、自分と弟の秀氏(外交官、元衆議院議員・与謝野馨氏の父)が早く独立して母を助けようと勉強に励んだのも貧乏だったからとおっしゃるが、言葉の端々に品性と心の優しさが見受けられる。与謝野家は精神的には豊かな家庭だったに違いないのだ。

趣味の絵を二科会に持っていったら「歌とは雲泥の差だからお止めなさい。」と言われた母。結婚する時、「女の人がヒステリーを起こすのは、経済がどうにもなんない時だから、お金に困らせないように。」と言った父。
笑い話を織り交ぜながら、真っ直ぐで妥協を知らない与謝野寛の人柄と、この世の美しさを見る目、心に抱く夢を大切にしていた与謝野晶子の姿を浮かび上がらせている。明治35年生まれの光氏は、平成4年に亡くなった。

<余談>
6月17日、与謝野晶子の未発表直筆2首が愛知県で見つかりました。

くれなゐの牡丹咲く日は大空も 地に従へるここちこそすれ
春の夜の波も月ある大空も ともに銀糸の織れるところは

光氏の話では、晶子の歌は「日記」だそうです。どんな一日を彼女は過ごしたのでしょうか。

<与謝野晶子・関連書評>
『金魚のおつかい』(童話)
『晶子曼陀羅』(評伝)
『私の生ひ立ち』(随筆)
『女らしさとは何か』(評論)



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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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