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ぱるころ
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小島信夫と保坂和志の往復書簡。「〈ぜんたい〉を書く小説は、トルストイさんにお任せして…」
小島信夫と保坂和志の、2000年から翌年にかけて全15回に及んだ往復書簡。
先日、保坂和志の『プレーンソング』を再読したこと、また、目次にトルストイやカフカの名前が挙げられていたことから本書に興味を持った。

保坂は小島を「先生」、小島は保坂を「保坂さん」と呼ぶ。年齢差41歳。二人が知り合ったのは1989年、保坂の勤務するカルチャーセンターの企画で、小島に校長を依頼したことがきっかけだそう。

この往復書簡では「小説とは何か」というテーマについて、百年前・百年後をキーワードにして語り合う。小説を読む側も、この語り合いを通して視界が開けていくような感覚を得ることができる。


起点となるのは、トルストイが「ぜんたい」を書いた、ということ。それまでイギリスやフランスで「話」として書かれてきた小説が、トルストイによって自然や人間の「ぜんたい」を書くものになった。『アンナ・カレーニナ』では全ての日常、全ての登場人物の心情が書かれており、一つの一つの出来事や心変わりに読者は共感したり安心したり裏切られたりする。
これに対し、その後に登場したカフカは「部分」を書いた。『変身』は主人公の体が朝起きたら虫になっていたという展開だが、読者にとっては見えない部分が多いまま進んでいく。

どちらが優れているということではなく、問題はここから。保坂は言う。
『百年前の作品だが、そこから少しも文学は進んでいない』
小説のことだけを考えている限り、小説は変わらない。哲学や科学など様々なことを考え、それを表現する手段が小説である、という認識が必要だと保坂は説く。

小説を読む側も同じではないだろうか。私たちは「小説を読む」ということだけをして生きているのではなく、日々いろいろな出来事を経験し、それを積み重ねている。その上で小説を読むからこそ、人それぞれの感想や気付きが生まれ、誰かに伝えたいという考えに至る。

百年前に読んだ人たち、百年後に読む人たちはどう感じるか。そんな視点で小説を読むのも面白い。本書を通して、小説の魅力と可能性を再発見することができた。


最後に、保坂の『プレーンソング』について。この小説は、働かない若者たちと猫たちの、ゆるっとした日常を描く。1990年の発表当初、「この無気力な若者たちは何を考えているんだ」「猫は何を意味するのか」と、批判的な声が多かったそう。しかしバブル崩壊を経て、読者たちはこの世界観を理解した。たった数年でも小説の評価はどうなるか分からない。興味深い裏話であった。



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ぱるころ
ぱるころ さん本が好き!1級(書評数:147 件)

週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。

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