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Wings to fly
レビュアー:
「歌に上達しようと思うなら恋をしなさい。」by与謝野晶子
やは肌のあつき血潮にふれも見でさびしからずや道を説く君
明治33年創刊の詩歌機関紙「明星」に載せられた歌は、文壇にセンセーションを巻き起こした。奔放さの中に溢れるロマンが若者を惹きつけたのだ。歌人の名は、鳳晶子という。

古典を読むことが生き甲斐だった少女は短歌に出会い、「明星」の主宰者・妻子ある与謝野鉄幹に恋をする。姦通が厳しく斬罪され、女に人生選択の自由など無い時代であった。家出して恋人のもとに走った激しい恋情、どうしようもなく湧き出る歌への理解者を求めた心。本書は歌人与謝野晶子の半生を描いた小説、1955年の読売文学賞受賞作である。

くろ髪の千すぢの髪の乱れ髪かつ思ひかつ思ひみだるる(晶子)
秋風にふさはしき名をまゐらせむそぞろ心のみだれ髪の君(鉄幹)


やがて二人は結ばれるが、晶子の成功と引き換えに、鉄幹は世に忘れられてゆく。そこに山川登美子という女性が現れる。
それとなく紅き花みな友にゆづりそむきて泣きて忘れな草つむ
かつて晶子と鉄幹の寵を競った末、こんなしおらしい歌を残し身を引いたはずが。夫を奪われた晶子はノイローゼに陥る。

登美子に心を傾けたくせに、彼女が病死した途端「もういいじゃん。無かったことにしようぜ。」とはあまりに身勝手な情けなさ。
みづからの恋の消ゆるをあやしまぬ君は御空の夕雲男
妻は夫を家長として敬い従うべきとされた時代に、夫を「夕雲男」と詠う妻なのであった。

しかし、庭で蟻を叩きつぶす夫の姿に、あっ!この人は自分のせいで気が狂うかもしれない・・・晶子は、歌から一時身を引く。『源氏物語』の現代語訳はその時期の仕事である。印税の前借りで夫をヨーロッパ外遊・立ち直りの旅に送り出し、自らも後を追ってゆく。これは愛?それとも執着心?

すべての芸術、わけても詩歌のたぐいはホルモンの変形、過剰ホルモンの昇華作用だと思われる。
こう述べた作者の佐藤春夫も詩人である。歌人晶子の姿を通し、詩歌はいかにして生まれ出るかを描いた作品とも読める。

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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2014-05-12 07:15

    確かに見たり聞いたりすると生々しい恋愛沙汰も、歌に詠むとぐっとくるものがあるのよねえ。そうか、それは昇華作用だったのか!

  2. Wings to fly2014-05-12 16:01

    かもめ通信さん
    情念の精髄というかエッセンスが、歌とか詩に宿るんでしょうね。昇華させられる力量こそ詩才なのかな。
    夕雲男の方も「ふたなさけ」という詩を発表していましたww
    芸術家って自分の心にフタをすることが出来ないから、夫婦になったら大変なのかも。でもこの夫婦、11人の子どもの親なのです。

  3. No Image

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