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はるほん
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この本はどういうキモチで読めばいいんだろう。
いじめを題材にした7の短編集。
これ、なかなか思い切ったアンソロジーだと思う。
社会的に「予定調和」で終わってはならない類のものであり、
かといってただドキュメンタリーなものであれば、小説にする必要が無い。
微妙な題材をどう扱っているのか、不謹慎ながら興味が湧いた。

いじめには3つの視点があると思う。
①いじめる側。②いじめられる側。③そしてそのいじめを看過する側。
どの視点で書かれたものなのかを、書いておく。

緑の猫/江國香織
②の友人視点、といったところか。
ただ友人がノイローゼ気味な資質からクラスで無視されたような設定で
なんとなく「微妙なお題」を遠ざけた感がある。
亀をいじめる/大岡玲
②だったものが大人になり、教員になったという話。
かといって正義感の強い熱血教師になったわけではなく
寧ろ今でもその影響を引きずっている部分がうすら寒い。
空のクロール/角田光代
②。泳げないのに水泳部に入った女生徒。
結構リアルにイジメを描いているあたりが、さすが角田さん。
女生徒の持つ強さは「予定調和」ではなく、何処か爽快感がある。
ドロップ!/野中柊
②。途中からやや不条理ホラーっぽい話になり
やっぱり微妙な設定から逃げた感。
リターン・マッチ/湯本香樹実
①が②と距離を近くしていく話。
設定はいかにも小説チックではあるけれど読ませる。
ここに来て初めて少年が主人公だが、男の子ならではの話かも知れない。
潮合い/柳美里
①視点が中心で、時々②が入る。
題材からわざとそうしているのかそういう作風なのか、全く共感できない。(笑)
かかしの旅/稲葉真弓
②が家出をして、何人かに手紙をつづる形の書簡形式。
これも主人公は少年。個人的にラストに来るのにふさわしい話。
読後感のよくない話の中で、唯一ふっと肩の荷が下りる。

圧倒的に②が多く、③はない。
まぁある意味、モブとして出ているキャラが全員③ではあるのだが。
また①を扱った場合は、多くが親の不仲や放置を遠因としている。

さて、この本はどういう気持ちで読めばいいのだろうと
ちょっといろいろ考えてしまった。
親や教師は基本ちょっと悪者扱いになっているようで
子供だけで、もしくは子供たちだけで
イジメと言う過酷な状況に立ち向かっている印象を受ける。

実際、そうなのかもしれない。
子供は案外色んな事に気を遣っていたりするものだし、
大人が介入することで悪化を恐れる部分もあるのだろう。
そうすることで視点が狭くなっている子供の様子は
どの作品にもよく表れており、リアルであると思う。

けれどこれを本当にいじめを受けている子供が読んだとき、
却って「自分で解決せねばならないと」思う事にならないだろうか。
7作品中主人公が殆ど女の子と言うのも含めて、
視点が余りにも「大人目線」であることがちょっと気になった。

イジメ自体は、大人社会にもあるだろう。
だが大人は、対処する方法や心の持ちようを知っている。
会社を辞めるのも1つの手だし、生活と計りにかけて妥協できることもある。
だが子供は、そんな「簡単な事」が出来ない。
「簡単な事」ではないからだ。

親が教師が「そんな時は逃げていいんだよ」と言ってくれれば
子供の心の負担は随分と違うだろう。
負け犬になるのではない。
世界に道は沢山あって、今歩んでいる道はその内の1つでしかないと
子供は自分では気付けない事が多い。

そういう意味で、最後の「かかしの旅」は
主人公が逃げた先で心の安寧を知る話になっており、
最上の解決ではないのかもしれないが、腑に落ちた。
大人がその道標を示したのではなく
主人公自身がその道を見いだしたのではあるが。

勉強とか社会的地位とか世間体とかそんなものは、後からなんとかすればいい。
「僕は生きていてもいいの?」という疑問に
何を後回しにしても、真っ先に「YES」と答えてあげられるような
そんな大人が全ての子供に付いていて欲しいものだ。

まぁでもこれが「イジメ」というモノの、一般的なイメージなんだな、きっと。
コドモだけじゃない。
もうちょっと相談とかされるように、オトナも頑張ろうぜって思った。
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はるほん
はるほん さん本が好き!1級(書評数:684 件)

歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。

年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。

秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。

2018.8.21

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