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Wings to fly
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ほろ苦さも美味しい極上の20皿。
イタリア在住数十年、『ジーノの家 イタリア10景』で日本エッセイストクラブ賞と講談社エッセイ賞をダブル受賞した著者の新作は、イタリアの日常を鮮やかに切り取った20皿のエッセイだ。連作短編のように続いてゆくので、順番に召し上がれ。

イタリア南部のカラブリア州のことを知る必要に迫られた著者は、近所の食堂の料理人からカラブリア出身の三兄弟を紹介される。彼らはミラノの青空市場の魚屋で、商う魚こそ素晴らしいが無口で無愛想な男たち。会話のきっかけにとあれこれ4キロも買い込んだ著者は、友人知人に連絡する。「急な誘いだが自宅で魚づくしをする。食べつくしたらそれでおしまい。同伴歓迎、ワインをお忘れなく。」

以来、市場の三兄弟のもとへ毎週通い、金曜日の自宅は種々雑多な人が集う「魚の日」となる。古い友人にも、ついさっき知り合った人にも、著者はその懐に飛び込んでゆくのが上手い。気取らない食卓へ、人が人を連れてくる。交遊の輪の広がりは、思わぬ料理との出会いを産む。やがて強面の三兄弟も、旬のぷちぷち生シラスを著者に店頭で立ち食いさせたり、シラスと相性抜群のワインメーカーの在り処を教えたりするのだ。

熱々のフライパンの中でイイダコがはじけ、ブイヤベースの中にはウミヘビみたいな物まで入ってる。カチカチのパンはスープとチーズと半熟卵で変身し、クリスマスのパネットーネからは干し果物が甘く香る。「あなたもどうぞ。」三兄弟のママの大きなパニーニに挟んであるのは、売れ残りのイカで作った昨夜の夕食のトマト煮だ。

素朴で滋味豊かな料理の中に様々な人生が映し出され、笑いも涙も得意顔もリアルな息遣いと共に伝わって来る。誰もが避けては通れない孤独と不安、日々のかけらの中にほろ苦さが混じる。読むうちに、ワイングラス片手に一緒に食卓を囲んでいるような気分に誘われる。

私のおつまみは、三兄弟の店の新鮮なイワシのから揚げに、レモンをぎゅっと絞ったのがいい。市場の焼き立てパンに、オリーブの実のオイル漬けとペコリーノチーズを添えてね。

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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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この書評へのコメント

  1. はにぃ2014-04-01 06:58

    友人が中華系の旅行会社のツアーでイタリア旅行に出かけたところ、現地の食事が全て中華料理だったので仕方なく食事をキャンセルして自分でイタリアンを食べに行ったという話を、今朝家族でしていたところでした。
    (私も中華系ツアーでオーストラリアに行ったとき、同じ状況でした)

    もしかして、私にも美味しいひと皿頂けるかな?
    わくわく(((o(*゚▽゚*)o)))
    (強制してる?)

  2. Wings to fly2014-04-01 11:59

    はにぃさん
    旅行に行ったらその国ならではのご馳走が食べたいですよねー!オーストラリアでは中華の他にステーキもちゃんと召し上がりましたか?
    この本には郷土と母の味のイタリアンが山ほど出てきました。内田さんが、村総出で行うトマトの水煮作りに参加する話などわくわくします。大仕事の後はチームワーク良くピザの生地をこねて伸ばして蒔の窯で次々と焼いてゆき、ワイン飲みながら好きなトッピングを大声でリクエスト。お祭りみたい!
    では、まず生地にオリーブオイルを塗りローズマリーを敷いて、自家製粗挽きソーセージをたっぷり乗せたピザをどうぞ!デザートにはチョコクリーム乗せたのもあるよ〜♪

  3. たけぞう2014-04-01 23:19

    中華系ツアーだと、そんなあり得ないプランが組まれているんですね。衝撃です。
    重要情報ありがとうございます。
    それはさておき、イタリアンは好きなので食べたくなっちゃいました。
    マンジャーレ、カンターレ、アモーレ~

  4. 薄荷2014-04-02 07:20

    ウミヘビ入りブイヤベースが気になるんですが(笑)、↑自家製粗挽きソーセージ乗っけたピザと、チョコクリームが乗ってるヤツが、私のハートを盗んでいきました・・・ああ素敵(〃∀〃;)

  5. Wings to fly2014-04-02 07:46

    たけぞうさん
    パスタもお好き?ぶつ切り肉を多めのトマトで煮込んだのがナポリ風、ジェノバでは旬のバジリコをすり潰しパルメザンチーズを卸してたっぷりかけて。どういうのがお好みかな・・・ 
    大きなカツレツと手でちぎったレタスと分厚いトマトを挟んだ丸型のパンは?ぎゅっとパンを押さえて召し上がれ。トマトの汁がカツレツとパンにしみ込んでもっと美味しくなりますよ♪ミラノの市場のランチメニューのひとつです♪

  6. Wings to fly2014-04-02 08:03

    薄荷さん
    ブイヤベースのルーツがイタリアのトスカーナにあった事を初めて知りました。イタリア人が旬のソラマメを生で食べることも。この辺の話も面白かったです!あのブイヤベースには生鮭の頭もドカンと入ってました(笑)
    ワインを買いに行ったら歓待され、村の玉葱のリング揚げから食堂の前の木になったレモンのシャーベットまで、宴会は和気あいあいと結局12時間。楽しそうだけど胃が丈夫じゃないとね。土地の匂いのするご馳走が実に良かったです。シラスとパセリのかき揚げ食べたい!

  7. 薄荷2014-04-02 08:40

    12時間の宴会・・・胃と体重の後日談が怖いですね(^_^;)
    それにしても、書評もおいしそうなら、コメント欄もガッツリおいしそうですねぇ(笑)

  8. Wings to fly2014-04-02 14:46

    薄荷さん
    美味しそうなものがぎっしり詰まった作品なのですが、その中に描かれる人間模様や人生の光と影が、仄かな悲しみを帯びて美しいのです。今年読んだ本のベスト3入り!文章が実に端正です。

  9. Wings to fly2014-04-02 14:47

    内田さんのブログを貼りつけておきます。
    興味のある方は、こちらでお味見を!

    http://column.madamefigaro.jp/culture/uchida-yoko/

  10. No Image

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