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二十日鼠と人間の、最善をつくした計画
 アメリカのノーベル賞作家、ジョン・スタインベックの中篇小説。一章が一場になるように作劇の手法で書かれており、自身の脚色でブロードウェイでの上演もされた著者の出世作。二人組の労働者に起こる悲劇をとおして、雇われ労働者たちの過酷な現実を描く。

 ジョージとレニーは農場を渡り歩く二人組の季節労働者である。レニーは知的障害のある大男で、面倒事を起こしては仕事を続けていられなくしてしまう。ジョージは悪態をつきながらも、いっしょにいてもらいたいんだと、レニーの世話を焼く。二人は過酷な労働と不安定な暮らしに閉塞感を抱え、いつか自分たちの土地を手に入れて、農場をやり、家畜を飼い、だれからも使われない生活を手に入れたいと夢を描く。

 二人の夢は、不安定で過酷な仕事に従事する農場の労働者のだれもが描く夢である。おなじ農場で働く黒人の馬丁クルックスは繰り返し言う。たいそうなことは望まないでも、ちっとばかりの土地は、だれだってほしいんだ。だけど、おれは、まだ、ほんとにやった者を見たことがねえんだ。

 だれもが望む夢だが、だれもやった者はいない。そんな夢物語を信じないといいながらも、二人の夢に同調する労働者たちの心の動きは胸を打つ。ジョージとレニーの農場は夢の中で練りあげられ、その詳細な描写と、夢の実現を信じる純粋さは、とっくに諦めを抱いていたかれらを揺さぶり、どうしょうもなく魅了するのだ。
そこは十エーカーばかりの土地なんだ、小さな風車がついてな。 それからウサギだよ、ジョージ。

 かれらの夢は悲劇にくじかれる終結をとるが、それが叶わなかったのは、決して偶発的な事故によるものではない。かれらの夢を打ち砕く布石はさまざまに打たれていて、その悲劇が起こらなくとも、別の何かがかれらを阻むに違いない。だれもやった者がいないということは、そういうことなのだ。まことやるせない、けれど、人の温かさに救いの残る、味わい深い作品。
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b-be-b
b-be-b さん本が好き!1級(書評数:82 件)

文芸中心に読んでいきます。

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この書評へのコメント

  1. b-be-b2014-02-01 23:23

    みなさんの先行書評あります。
    ※同じ新潮文庫ですが、古い版で翻訳者が違ったので別登録しました。

  2. ツンドク2014-02-01 23:30

    レニーをジョン・マルコヴィッチ、ジョージをゲイリー・シニーズ(監督も)が演じた映画も良かったですね。

  3. b-be-b2014-02-01 23:47

    ツンドクさん
    ご紹介ありがとうございます。
    映画詳しくないので、教えてくださってうれしいです。
    何だか泣いてしまいそうですが、いずれ見てみたいと思います。

  4. あずま2014-02-02 00:13

    へえ、新潮文庫なのに訳者が違う版があるんですね!
    いい情報をありがとうございます。そのうち買って読んでみたいです。

  5. kon吉2014-02-02 15:21

    この本大好きで、ツンドクさんご紹介の映画もみました。
    ゲイリーシニーズが強く印象に残っています。

    多分20年ほど前に読んで、それきり再読もしていなかったのですが、
    b-be-bさんの書評が素晴らしく、ありありと世界観がよみがえりました!

    なんか切ないけど、きれいな雰囲気の小説だったなあ。
    ありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ

  6. b-be-b2014-02-02 16:50

    あずまさん
    こっちのほうは何せ古いので、新本ではないと思います。
    BOの105円コーナーとかにありそうです。
    訳違いでもお読みになられたいというのは、本書はあずまさんにとって大切な本なんですね。
    短いのに、本当に心に残る作品ですね。

  7. b-be-b2014-02-02 16:56

    kon吉さん
    わ、ありがとうございます。
    わたし、何かくどくど書いてしまいましたが、kon吉さんがさらっと言われた「なんか切ないけど、きれいな雰囲気の小説」で、もう全部表せちゃってます。

    kon吉さんからも、さらにおすすめなので、近いうちに映画も見てみます。

  8. あずま2014-02-02 17:09

    追加情報をありがとうございます。
    一度国外の舞台を見てから、そのイメージも頭に焼き付いて
    ますます好きになってしまった本なんです!

    ただ読み出すと止まらず、何度でも読み返してしまうほどの好き加減なので、
    普段は本棚の奥深くに封印してあります (^^;

  9. No Image

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