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指名献本書評
Wings to fly
レビュアー:
黒猫リュシアンは、心に闇を抱えた激情型の青年なのだ。
その店には星の数ほど本があるけれど、お客はめったにやってこない。たったひとり、毎日やってくるのはミルクの配達人カトリーヌだけだ。

織り込められた金色の糸、銀の光
青と薄墨と黒、
夜の闇と、太陽と夜明けの色。


「サンキエムセゾン」(五番目の季節)をめぐる物語は、様々な色を持つ。悲しみの青、薄墨色の秘密。闇の色した猫が前を横切る時、何が起こるか知っている?
黒猫リュシアンが語るお客の話。店主ムッシュ・ワルツの身の上話。そしてカトリーヌの話に至ると、物語は不吉さを増してゆく。

この作品、私には最後まで「夜明けの色」が見えなかった。若い女性が最果ての島で、娘のように可愛がってくれるとはいえ、老人と暮らすことは幸せなのか。束の間の安寧を得ただけではないのか。本に親しむことの意義を教えてくれた人を捜しに旅立つ方が、作品世界での島の位置取り、この本屋の孤独な人々に対する役割を印象付け、物語の奥行が増したのではないか。「黒猫」へのこだわりが、物語をねじ伏せてしまったのではないか。

と、一読した時には感じた。しかし。

黒猫リュシアンは心に闇を抱えた激情型の青年、カトリーヌは彼が恋した女性と想定した時、なるほどと思ったのである。そういう青年なら仄暗い過去があっても不思議ではない。彼女を傷つける者への怒りを抑えきれなかったのも無理はない。愛するワルツさんとカトリーヌに己の性を隠しきれなくなった時、リュシアンの選択は「銀の画鋲」になることだった。もしかしたら、これは悲恋の物語?

どうか僕の夢に、そっと足をしのばせて。
僕の夢なのだから、
天上のクロースをそっと踏んでほしい。


イェーツの詩にそっと託された、作者の気持が伝わってくる。
孤独のやるせなさ、薄れても消えることのない悲しみ。それが霞のように漂う様は、淡い寒色で描かれた水彩画に似ている。


☆献本ありがとうございました。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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