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かもめ通信
レビュアー:
芸の肥やしは必要悪なの?!
主人公のモデルは誰それに違いないとか、
作者の実体験が反映されているとか、
誰々の影響を受けているとか、
小説については作品の背景をあまり気にすることなく
その作品一作で好き嫌いを判断しがちな私だが、
絵画や彫刻などの美術作品については
あれこれ知っていた方がより楽しめるのではないかと
常々思っている。

例えばこの本に登場するジェロームの『ピュグマリオンとガラテア』。
私にとっては前々から是非一度本物を観てみたいと熱望している絵なのだが、
ギリシャ神話に登場するピュグマリオンの伝説を知らなければ
描かれたシーンの意味を理解するは難しい。
印象派以前のヨーロッパの絵画はギリシャ神話やキリスト教と深く結びついているから
鑑賞にあたってはこうした予備知識はあった方が良いに違いない。

一方近代芸術はというと、
ピカソが描いた女性達が彼とどんな関係にあったのか、
あるいはムンクの描いた『マドンナ』がどんな女性だったのか、
知らなくても絵を楽しむことはできるが
知らないのと知っているのとでは見えてくるものが違ってくる気もする。
もっとも私にはそれが“鑑賞”にとってプラスなのかマイナスなのか今ひとつ解らない。
そう言いつつも
ピカソの描いた『泣く女』はなにゆえあんなに号泣しているのか、
やっぱり知りたくなってしまうのだ。

ohaさんのレビューで知ったこの本は、
モディリアーニやピカソ、ジェロームやドガ、マネやモネ、
ルノワール等が取り上げられているのだが、
画家の恋愛遍歴を、その絵に投影して読み解いてゆくという試みが興味深い。

モディリアーニの妻ジャンヌの悲恋伝説の真相、
巨匠ピカソのあまりにも激しい女性遍歴
ロダンとの恋に身を滅ぼしたカミーユ・クローデルの悲劇、
印象派台頭前後のあれこれ

既に知っていたエピソードも含め、
画家たちの作品やその作品に影響を与えたとされる先人達の作品を見比べながら
新たな視点をもって絵の中の世界に思いをはせる。

とりわけ印象的だったのは次のくだりだ。

芸術家の恋人を、創作に必要な霊感を与えてくれるミューズとみなす感覚は、一見すると女性への崇拝とも思えるのだが、その恋人がミューズとしての霊験を失ってしまえば、新たなミューズに席を譲るべきであるという暗黙の前提を含んでいる。その結果、芸術家の恋愛を、多情であるのが当然とみなしてしまうことにもなる


画家に限らず、芸術家という者は古今東西“芸の肥やし”を必要とするものなのだろうか?
あの繊細で美しい曲線を掘り出すカミーユ・クローデルの作品を思い浮かべて
時代の制約があったとはいえ
ロダンとの恋を肥やしにして乗り越えられなかった彼女の悲劇を思い
あるいはあれこそが嫉妬深いミューズのなせる技かもしれないなどと
埒もないことを思いめぐらせてため息をついた。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2238 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. 祐太郎2015-07-07 05:51

    若手作家さんたちと話す機会がありますが、やっぱり、芸術家のみなさんは、「ふつう」じゃないです。そうじゃないと、たぶん、非日常世界は厳しいのかなと思えてきました。

  2. かもめ通信2015-07-07 06:07

    おおっ!コレクター祐太郎さんがおっしゃるとなんだか現実味が!
    しかし~ピカソみたいな人が周りにいたらものすごく大変だろうなあ。
    ましては親族だったりしたら……考えただけでもイヤだわww

    でもこの本を読んで、太宰をはじめ文豪たちの乱れた私生活も“芸の肥やし”なのかしらんと思ったり……(><)
    いやいや決して肯定するわけではないのですが(苦笑)

  3. 祐太郎2015-07-07 06:30

    ちなみに若手アーティストの中では「精神が良くなると作品が詰まらなくなる」という話まであります。

  4. たけぞう2015-07-07 20:42

    クリムトには激しいイメージを持っています。
    ベルト・モリゾも、そういった面はどうだったのかとても気になっています。読みたい本リストに入れておきますね。

    ところで聞かれていないのに勝手に書きますが、お絵描きを初めて1年ちょっと、芸の肥やしはまだまだ遠い夢なのでした(単にいけていないだけ

  5. かもめ通信2015-07-07 21:26

    たけぞうさん、ダメ!絶対!!
    絵の腕は磨いても愛妻家路線は踏み外さないでね!!

    それはさておき、この本にはクリムトもモリゾもほとんど出てこないのですが
    ベルト・モリゾとその周辺のことに興味をお持ちならこちら↓の本がお薦め。
    マネの姪で、モリゾの娘ジュリーの日記を元に綴られていて、絵や写真もたっぷり。
    ドガやルノワールの印象も変わるかも?!

  6. たけぞう2015-07-07 21:16

    さすが博識! さっそくカーリル君に聞いてみたら、県内に一冊しかないのでした(T^T
    図書館にない本のリクエストをしたことはないのですが、借用可能か聞いてみようと思います(どきどき

  7. かもめ通信2015-07-07 21:33

    たけぞうさんが利用する図書館になくても、きっと相互貸出でどこかから借りてきてくれると思いますよ。
    10代の少女の日記!いろんな意味ですごいですよ~ww

  8. oha20062015-07-09 14:49

    カミーユは本当に可哀想。いまやロダン以上という評価ですね。ロダンって奴は、どうしようもないな、カミーユからいろいろ盗んだんですよ!

  9. かもめ通信2015-07-09 15:43

    ohaさん!ですよね(><)
    もう随分前のことになりますが,上野で開催されたカミーユ・クローデル展を観に行って圧倒された思い出が。
    私もロダンよりカミーユ!と思う一人です!

  10. No Image

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