三太郎さん
レビュアー:
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終戦の年の春に陸軍諜報部に入った初年兵の主人公が、8月の終戦の日に見た光景が描かれています。
西川美和さんのことは映画監督だと認識していた。僕が見たのは「ゆれる」、「夢売るふたり」や「永い言い訳」で、後の2作品は面白いと思った。でも小説もいくつか書いていて、自作映画のノベライズや逆に自作の小説を映画化したりしている。
この小説は終戦を知らせる天皇の放送があったその日の早朝に、東京発の長距離列車に乗って広島に帰る初年兵だった主人公の見た光景を描いている。
主人公は著者の伯父さんがモデルだとか。主人公は体が弱くて徴兵検査に合格せずに軍需工場で働いていたが、終戦の年の春に陸軍諜報部に徴兵され、関東の山奥でモールス信号の特訓を受けることになる。しかし終戦直前には軍役を解かれ、階級章のむしり取られた軍服のままで焼野原の東京駅から故郷へ向かう長距離列車に乗った。
昼頃列車が途中の駅で長時間停車したが、その時ラジオで天皇が自分の声で戦争の終結を伝えた。同席していた子連れの若い女が主人公に米軍が撒いたビラをこっそり見せた。日本の降伏を告げるビラだった。彼女はそのビラの字が南方に出征した兄の字にそっくりだというが、主人公には似ているようには見えなかった。
伯父さんの目を通した戦争が描かれているので、人を殺したり殺されたり爆弾で焼き殺されたりする場面は出てこない。しかし主人公の周囲では町が焼かれ夥しい人が死んでいた。原爆投下から10日後の瓦礫になった広島の町に降り立った主人公は、道なき道をわが家へ向かうが、途中で大きな荷物を自転車に積んだ姉妹に出会った。彼女らは火事場から焼け残った家財を盗んで仮の住処へ帰る途中だった。飛行機を作りたかった伯父さんは戦後は東京でエンジニアとして活躍したそうだ。
主人公のモデルとなった叔父さんは僕の両親と年代が近そうです。母は戦時中は北関東の軍需工場で飛行機の組み立てをやらされて米軍による夜間爆撃も経験したそうです。父は戦前の工業高等専門学校で冶金学を専攻し、卒業後は関西の企業に技師として就職したのですが、実際には勤務せずに海軍の士官学校に入れられ、訓練で中国大陸にも行ったとか。でも大企業から預かった技術者だったからか、冶金学は戦争には直接役立たなかったからか、前線には行かされずに終戦を迎えたとか。その父は、偶然ですが、広島に原爆が投下された日に呉にいて、遠くに原爆の閃光を見たらしいです。その直後父は広島市内の役場を訊ねましたが、爆心地に近かった役場はもぬけの殻で、結局父はそのまま呉へ戻ってきたらしい。たぶん父はそこで多くの遺体を見たはずです。
この小説は終戦を知らせる天皇の放送があったその日の早朝に、東京発の長距離列車に乗って広島に帰る初年兵だった主人公の見た光景を描いている。
主人公は著者の伯父さんがモデルだとか。主人公は体が弱くて徴兵検査に合格せずに軍需工場で働いていたが、終戦の年の春に陸軍諜報部に徴兵され、関東の山奥でモールス信号の特訓を受けることになる。しかし終戦直前には軍役を解かれ、階級章のむしり取られた軍服のままで焼野原の東京駅から故郷へ向かう長距離列車に乗った。
昼頃列車が途中の駅で長時間停車したが、その時ラジオで天皇が自分の声で戦争の終結を伝えた。同席していた子連れの若い女が主人公に米軍が撒いたビラをこっそり見せた。日本の降伏を告げるビラだった。彼女はそのビラの字が南方に出征した兄の字にそっくりだというが、主人公には似ているようには見えなかった。
伯父さんの目を通した戦争が描かれているので、人を殺したり殺されたり爆弾で焼き殺されたりする場面は出てこない。しかし主人公の周囲では町が焼かれ夥しい人が死んでいた。原爆投下から10日後の瓦礫になった広島の町に降り立った主人公は、道なき道をわが家へ向かうが、途中で大きな荷物を自転車に積んだ姉妹に出会った。彼女らは火事場から焼け残った家財を盗んで仮の住処へ帰る途中だった。飛行機を作りたかった伯父さんは戦後は東京でエンジニアとして活躍したそうだ。
主人公のモデルとなった叔父さんは僕の両親と年代が近そうです。母は戦時中は北関東の軍需工場で飛行機の組み立てをやらされて米軍による夜間爆撃も経験したそうです。父は戦前の工業高等専門学校で冶金学を専攻し、卒業後は関西の企業に技師として就職したのですが、実際には勤務せずに海軍の士官学校に入れられ、訓練で中国大陸にも行ったとか。でも大企業から預かった技術者だったからか、冶金学は戦争には直接役立たなかったからか、前線には行かされずに終戦を迎えたとか。その父は、偶然ですが、広島に原爆が投下された日に呉にいて、遠くに原爆の閃光を見たらしいです。その直後父は広島市内の役場を訊ねましたが、爆心地に近かった役場はもぬけの殻で、結局父はそのまま呉へ戻ってきたらしい。たぶん父はそこで多くの遺体を見たはずです。
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1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:121
- ISBN:9784103325819
- 発売日:2012年07月31日
- 価格:1260円
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