はるほんさん
レビュアー:
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個人的アクティ祭!その6。
事件名:某山中強姦及び殺人事件
概 要:旅の最中、妻が暴行を受けた後行方不明になり、その夫が殺害された。
近所の者が遺体を発見し、後に警官により容疑者が捉えられる。
証言者:7名
木こり(第一発見者)・旅坊主・警官・妻の母
容疑者・妻・夫(※ただし巫女による憑依)
証言概要
①木こり:就業中に藪の中で遺体を発見
遺体は水干と烏帽子を付け、あおむけに倒れていた
胸に刺し傷があったが、既に血は乾いていた
周囲には縄と櫛が落ちていたが、刃物や馬は見当たらなかった
②旅坊主:前日に関所を過ぎたあたりで夫婦に会った
女は月毛の馬に乗り、男は歩いていた。
女の顔は見えなかったが、男は太刀に弓矢を携えていた。
③警 官:多襄丸という有名な盗人を捕えた。
落馬したらしく、橋の上で倒れていたのをゲット。
以前に捕え損じたときは水干に太刀を差していたが、
今回は弓矢も持っていた。月毛の馬も近くにいた。
ヤツは女好きだし、奴に違いねぇっすよ。
④妻の母:遺体は間違いなく娘婿。
良い婿だったから、怨恨の線はない。
娘は男並に勝気だったが、行方が知れないとは心配だ探してくれ。
えいその多襄丸という盗人がやったのかあな憎し。
⑤容疑者:多襄丸。男は殺したが、女は殺してない。
起・金儲けの話があると持ち掛け、二人を山の中へ連れて行った
さらに男だけを藪の中に連れて行き、縄で縛りあげた
後で女を連れてきた。小刀で抵抗されたが問題なかった
承・で、事が済んだので立ち去ろうとしたら、女が
自分(容疑者)か夫かどちらか死なねば、恥で生きていられないと言う
転・男の縄を解いて決闘をした。自分が勝った
結・女は逃げていなくなっていたから、盗るものだけ盗って逃げた
極刑でもなんにでもするがいい
ココまでなら、普通(?)の事件だったのだ。
後の証言を得た事で、事件の様相は不明瞭になっていく。
⑥妻本人:犯人は私に乱暴をした後、逃げた。
夫に駆け寄ったが、夫は私を蔑んだ目で見た。
そのショックで私は気を失ってしまった。
意識を取り戻し、私と心中する決意をして夫を刺し、また気を失った。
そうして縄を解いてやり、自分も死のうとしたが
どうしても死ねなかった。私はどうしたらいいのだろう。
⑦夫本人:犯人は妻に乱暴した後、妻を口説いた。
妻はそれになびいたように見えた。
その上、俺を殺してくれと犯人に頼んだのだ。
だが犯人は、合図すれば妻を殺してやるぞと耳打ちしてくれた。
が、妻は躊躇している俺を残して逃げた。
犯人は縄を切ってくれた後、俺の武具を持って妻を追いかけた。
俺は自由になった身を起こして、妻の刀で己を刺した。
暫く意識があったが、何者かに小刀を抜かれて死んだ。顔は見てない。
なんと、事件の渦中にある3人(犯人・妻・夫)が
ことごとく食い違う証言をしてしまったのだ。
ホームズも金田一もコナン君も居ないこの国と時代、
この謎を解くのは貴方しかいない。
さあ、藪の中探偵よ!この歪な証言たちを手繰って
たったひとつの真実を探し当てるのだ!
(間)
夫の証言
死人が嘘を吐く必要はないだろうと、うっかり真実と受け止めそうになるが
超能力特番でもなければ、現代の捜査ではまず信用されない。
純粋に証言を見て行こう。
その証言は自殺であるが、「妻が諸悪の根源」だとほのめかしている。
妻が狼藉を働かれたことをさておき、犯人を庇い立てるような風すらある。
巫女が本当に憑依されていたと仮定して、夫には生前から、
何か妻に対して鬱屈した思いが潜んでいたのではあるまいか。
妻の母は娘婿をよい人間だと証言ながらも
婿の死を早々に受け入れ、娘の行方を憂いている。
娘を勝気だと言っているが、遺伝的に考えれば母も相当なのではないか。
ここで二人の家庭に、不和という疑惑が生ずるのである。
犯人の証言
さて、人は何かを隠すために嘘を吐くものである。
しかし隠しきれない嘘は、却って自分の立場を危うくする。
よって真実の中に、少しでも自分を有利にする
「小さい嘘」を織り交ぜる方が有効だ。
つまりは「情状酌量」を狙う訳だ。
犯人ははっきり「俺が殺した」と自白している。
既に極刑を覚悟しており、本来隠すことなど何もない。
───ならば彼が嘘を吐くメリットとは何だろう?
検非違使を小馬鹿にした態度から推察するに
彼は自分の減刑より、検非違使の無能さを証明したいのではないか?
更に、彼は女好きであるとされる。
裏を返せばフェミニストでもあるわけだ。
女の罪を被り、役人どもの采配を高笑いして世を去る──
稀代の怪盗なれば、そうありたいという気概があるのではないか。
妻の証言
犯人と夫の証言から、妻は「現場から逃げた」筈なのに
彼女も「夫を殺した」と自白をしている。
つまり彼女は逃亡後、現場に戻った可能性がある。
しかし彼女の証言で気になるのは勝気とされる性格の割に、
なんともなよなよとしていることだ。
確かに彼女は、限りなくクロに近い。
情状酌量を狙った小悪魔作戦とも取れるが、
「縄」がここで謎ポイントとなっている。
犯人の証言では ①夫を捕縛 ②解いて決闘 ③殺害
夫の証言では ①犯人に捕縛される②妻を追う際に犯人が解いた
妻の証言では ①犯人が夫を捕縛 ②ずっとそのまま ③殺害後に自分が解いた
妻にとって「縄を解かれた夫」は利用度が高い。
「蔑みの眼に耐えられず殺した」とするより
「逆上した夫ともみ合っている内に…」な火サス的証言をして
幾らでも自分に有利な発言が出来た筈なのだ。
人は確かに何かを隠すために嘘を吐くが
逆に絶対言いたい事は、余計でも言ってしまうものだ。
彼女にとっては保身の嘘より、「蔑まれた」という事実が
一番言いたいことだったのではあるまいか?
妻は夫が思うより、夫を愛していたのではなかろうか。
現場に戻り、小刀を胸に刺した夫を
…否、もしくは目の前でこれ見よがしに自殺した夫をみて
己の罪だと思い込むほどに、心神喪失していたのではあるまいか?
被害者は夫であり、その咎を受けるのは多襄丸だろう。
が、そこには夫と盗人に心を殺された妻という
裁かれぬ犠牲者があったのではないか。
無論、すべて妄想ではあるのだが。
芥川の手で生まれた時から、100年近く未解決のままの迷宮入りの難事件。
言葉通り、真相は全て「藪の中」なのだ。
概 要:旅の最中、妻が暴行を受けた後行方不明になり、その夫が殺害された。
近所の者が遺体を発見し、後に警官により容疑者が捉えられる。
証言者:7名
木こり(第一発見者)・旅坊主・警官・妻の母
容疑者・妻・夫(※ただし巫女による憑依)
証言概要
①木こり:就業中に藪の中で遺体を発見
遺体は水干と烏帽子を付け、あおむけに倒れていた
胸に刺し傷があったが、既に血は乾いていた
周囲には縄と櫛が落ちていたが、刃物や馬は見当たらなかった
②旅坊主:前日に関所を過ぎたあたりで夫婦に会った
女は月毛の馬に乗り、男は歩いていた。
女の顔は見えなかったが、男は太刀に弓矢を携えていた。
③警 官:多襄丸という有名な盗人を捕えた。
落馬したらしく、橋の上で倒れていたのをゲット。
以前に捕え損じたときは水干に太刀を差していたが、
今回は弓矢も持っていた。月毛の馬も近くにいた。
ヤツは女好きだし、奴に違いねぇっすよ。
④妻の母:遺体は間違いなく娘婿。
良い婿だったから、怨恨の線はない。
娘は男並に勝気だったが、行方が知れないとは心配だ探してくれ。
えいその多襄丸という盗人がやったのかあな憎し。
⑤容疑者:多襄丸。男は殺したが、女は殺してない。
起・金儲けの話があると持ち掛け、二人を山の中へ連れて行った
さらに男だけを藪の中に連れて行き、縄で縛りあげた
後で女を連れてきた。小刀で抵抗されたが問題なかった
承・で、事が済んだので立ち去ろうとしたら、女が
自分(容疑者)か夫かどちらか死なねば、恥で生きていられないと言う
転・男の縄を解いて決闘をした。自分が勝った
結・女は逃げていなくなっていたから、盗るものだけ盗って逃げた
極刑でもなんにでもするがいい
ココまでなら、普通(?)の事件だったのだ。
後の証言を得た事で、事件の様相は不明瞭になっていく。
⑥妻本人:犯人は私に乱暴をした後、逃げた。
夫に駆け寄ったが、夫は私を蔑んだ目で見た。
そのショックで私は気を失ってしまった。
意識を取り戻し、私と心中する決意をして夫を刺し、また気を失った。
そうして縄を解いてやり、自分も死のうとしたが
どうしても死ねなかった。私はどうしたらいいのだろう。
⑦夫本人:犯人は妻に乱暴した後、妻を口説いた。
妻はそれになびいたように見えた。
その上、俺を殺してくれと犯人に頼んだのだ。
だが犯人は、合図すれば妻を殺してやるぞと耳打ちしてくれた。
が、妻は躊躇している俺を残して逃げた。
犯人は縄を切ってくれた後、俺の武具を持って妻を追いかけた。
俺は自由になった身を起こして、妻の刀で己を刺した。
暫く意識があったが、何者かに小刀を抜かれて死んだ。顔は見てない。
なんと、事件の渦中にある3人(犯人・妻・夫)が
ことごとく食い違う証言をしてしまったのだ。
ホームズも金田一もコナン君も居ないこの国と時代、
この謎を解くのは貴方しかいない。
さあ、藪の中探偵よ!この歪な証言たちを手繰って
たったひとつの真実を探し当てるのだ!
(間)
夫の証言
死人が嘘を吐く必要はないだろうと、うっかり真実と受け止めそうになるが
超能力特番でもなければ、現代の捜査ではまず信用されない。
純粋に証言を見て行こう。
その証言は自殺であるが、「妻が諸悪の根源」だとほのめかしている。
妻が狼藉を働かれたことをさておき、犯人を庇い立てるような風すらある。
巫女が本当に憑依されていたと仮定して、夫には生前から、
何か妻に対して鬱屈した思いが潜んでいたのではあるまいか。
妻の母は娘婿をよい人間だと証言ながらも
婿の死を早々に受け入れ、娘の行方を憂いている。
娘を勝気だと言っているが、遺伝的に考えれば母も相当なのではないか。
ここで二人の家庭に、不和という疑惑が生ずるのである。
犯人の証言
さて、人は何かを隠すために嘘を吐くものである。
しかし隠しきれない嘘は、却って自分の立場を危うくする。
よって真実の中に、少しでも自分を有利にする
「小さい嘘」を織り交ぜる方が有効だ。
つまりは「情状酌量」を狙う訳だ。
犯人ははっきり「俺が殺した」と自白している。
既に極刑を覚悟しており、本来隠すことなど何もない。
───ならば彼が嘘を吐くメリットとは何だろう?
検非違使を小馬鹿にした態度から推察するに
彼は自分の減刑より、検非違使の無能さを証明したいのではないか?
更に、彼は女好きであるとされる。
裏を返せばフェミニストでもあるわけだ。
女の罪を被り、役人どもの采配を高笑いして世を去る──
稀代の怪盗なれば、そうありたいという気概があるのではないか。
妻の証言
犯人と夫の証言から、妻は「現場から逃げた」筈なのに
彼女も「夫を殺した」と自白をしている。
つまり彼女は逃亡後、現場に戻った可能性がある。
しかし彼女の証言で気になるのは勝気とされる性格の割に、
なんともなよなよとしていることだ。
確かに彼女は、限りなくクロに近い。
情状酌量を狙った小悪魔作戦とも取れるが、
「縄」がここで謎ポイントとなっている。
犯人の証言では ①夫を捕縛 ②解いて決闘 ③殺害
夫の証言では ①犯人に捕縛される②妻を追う際に犯人が解いた
妻の証言では ①犯人が夫を捕縛 ②ずっとそのまま ③殺害後に自分が解いた
妻にとって「縄を解かれた夫」は利用度が高い。
「蔑みの眼に耐えられず殺した」とするより
「逆上した夫ともみ合っている内に…」な火サス的証言をして
幾らでも自分に有利な発言が出来た筈なのだ。
人は確かに何かを隠すために嘘を吐くが
逆に絶対言いたい事は、余計でも言ってしまうものだ。
彼女にとっては保身の嘘より、「蔑まれた」という事実が
一番言いたいことだったのではあるまいか?
妻は夫が思うより、夫を愛していたのではなかろうか。
現場に戻り、小刀を胸に刺した夫を
…否、もしくは目の前でこれ見よがしに自殺した夫をみて
己の罪だと思い込むほどに、心神喪失していたのではあるまいか?
被害者は夫であり、その咎を受けるのは多襄丸だろう。
が、そこには夫と盗人に心を殺された妻という
裁かれぬ犠牲者があったのではないか。
無論、すべて妄想ではあるのだが。
芥川の手で生まれた時から、100年近く未解決のままの迷宮入りの難事件。
言葉通り、真相は全て「藪の中」なのだ。
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歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。
年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。
秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。
2018.8.21
この書評へのコメント
- はるほん2014-08-02 20:27
>hackerさん
実はまだ映画「羅生門」見てないので
今回のアクティ祭にみようと思っていたのです!
そうか、「藪の中」もリンクしてるんですね!
これはますます見るのが楽しみになりました!!
>そのじつさん
うわーい、ありがとーございまーす!
「羅生門」ではどんなオチが待っているのか
今からワクワクです!
>junocoさん
そうそう、慣用句になるなんて
大したヤツですアクティってヤツは…!(馴れ馴れしい)
我ながら長すぎる評を読んでいただいてあざーーーす!!
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アクティ祭はあと2~3ほどで終了する予定です。
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- 出版社:
- ページ数:11
- ISBN:B009IX2KU8
- 発売日:2012年09月27日
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