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ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
藪内正幸美術館で……
晴れた秋の日、八ヶ岳南麓にある藪内正幸美術館を訪れた。
『どうぶつのおかあさん』などの絵本や『冒険者たち』などの児童書の挿絵でおなじみの動物画家、藪内正幸。
美術館では、企画展『開館20周年記念 駆けだしの動物画家』を開催中。おもに初期の作品を中心に展示していた。


藪内正幸さんは、高校卒業後に入社した福音館書店で、最初の二年間毎日、国立科学博物館に通い、動物の骨格標本のスケッチを続けたそうだ。
そのスケッチも展示されていた。
藪内正幸さんの絵の中の、躍動する鳥や動物たちの一瞬の姿は、無理なようで無理がない。その姿の内側に確かに骨があり、筋肉の動きが捉えられているせいかもしれない。


絵本や児童書に描かれた動物たちは、一方で本来の動物らしさを保ちながら、もう一方で、私たち人間に通じるような知性や感情をもって暮らしているように感じる。(特に擬人化されていなくても)
図鑑のように正確で丁寧な描写だけれど、魔法を感じる。魔法にかかった動物たち、あるいは魔法が解けた動物たちかな。
藪内さんの絵本に幼いころから親しんだ子どもたちは、絵本の動物たちに共感しながら大きくなる。大きくなって、嘗ての友だちはやがて、空へ森へ、動物本来の性のままに走り出す。成長した子どもも、自分の道を自分らしく駆けていく。そんなふうだといいな、とぼうっと考えていた。



さて、この本『野鳥の図鑑』は、文字通り図鑑だ。
だから、児童書挿画の魔法はなりをひそめている。
この本の鳥たち、何かしゃべっているけれど、それは鳥同志だけに通じる鳥の言葉だ。
それにしても、なんと美しい図鑑だろう。一ページ一ページがそのまま額に入れたくなるような絵画なのだ。
どのページにも丁寧な解説がついているけれど、それを読む前に、この絵を見るだけで鳥の生活が大体わかるように描かれている。
庭や公園に始まり、だんだん遠くへ。山や林へ。海へ。
巻末の「鳥をみるときには」では、さまざまな方向から鳥の特徴がわかりやすくまとめられていて、実際の鳥見の参考になる。
「まえがき」には、こんな言葉がある。
「巣に関しては、鳥の生活のなかでたいせつなことなのですが、身近なものや、とくべつなもの以外はとくに説明してありません。巣のなかの卵やヒナを観察するよりも、せめて、子育てのあいだくらい、そっとしておいてやりたいからです」
時には、何よりも優先される「そっとしておくこと」……かみしめたい言葉だった。



    • 森のなかの小さな美術館。
    • チケットは四種類から選べます。迷う。
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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1742 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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