武藤吐夢さん
レビュアー:
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死者が蘇るという設定は面白い。しかし、分人にこだわりすぎで不快だった。

平野さんというと分人という思想を思い出す。
この作品のモチーフもそれだ。
なんと、本作に100回くらい( ´艸`)、この言葉が出てくる。
さすがに、いい加減にしてよと言いたくなる。
ひつこい。
せっかく、死者が蘇る。その死因が自殺という面白い設定だったのに
後半の分人、分人、分人で台無しだった。
佐伯というキャラがいい。
こいつは、主人公を殺害したと疑われている警備員だ。
性格が悪く。
口汚い。
疲れまくっていた彼に、佐伯は、あなたの奥さんとSEXがしたいなどと軽口を叩く。
彼が死んでからも奥さんにつきまとう。
生活に困っているからと、デリヘルの仕事を斡旋する。
断ると、職業差別をしているのかと逆切れし
さらに、その佐伯の経営しているデリヘルのパンフチラシに勝手にデリヘル嬢として紹介され
そのチラシを家の近所にばらまかれたのだった。
この屈折した佐伯の中に、僕は著者を見た。
平野さんの作品には、ときどき、こういうエキセントリックな人物が登場し、小説をかく乱します。
平野さんの分人という思想は、その場その場で、その人の考えは変化する。
色んな性格が同時にその人に存在するというような考え方で
軽い多重人格みたいな印象を僕は持っている。
それは同意する。個性の強い人と話すと、その人の思想などの影響を受けて自分が変化することはありますから。
僕は、平野さんは少し多重人格なのかと感じていて
通常の平野さんは人格者でリベラルな考えの人なのですが、ときどき、この佐伯のような過激な人物像が見え隠れすることがあります。
それが人間の複雑さであり魅力なのでしょうが・・・。
本書は、それがひつこいくらい強調されていて少し不快でした。
このあきよしの言葉が面白い
>>必死こいて頑張って少し贅沢しても格差だなんだと言われて、たいして気分も良くないしな。今の日本は何やっても褒められないから辛いよ。幸せになるとなんか後ろめたいというのは間違っているよ。
これが平野さんの本心のように感じる。
格差はいけないというリベラルな発言をしているんだけど、どこかで、こういう心がある。
この二重人格なところが人である。
分人という思想は、平野啓一郎が自己を正当化するために生み出した思想のような気もしないではない。
こうでも、しないと自己の同一性が保てないのだ。
本音と建て前という言葉があるが、人はそれを使い分けている。
それが人なのであり、分人という言葉をわざわざ作らなくても
そういうものなんであり、そんなのは平野さんに解説されなくてもわかっているのです。
復活した彼に言った上司の言葉は辛辣だ。
>>人間一人死ねば、その一人分の穴があく・・・けど、その穴をいつまでもほおっておくわけにはいかんだろう。みんなで一生懸命埋める。仕事の穴、家族の穴、残された人の心の穴・・・無理にこじ開けようとすると破れてしまうぞ
そこには彼の居場所がないという現実を表していた。
死をやっと受け入れたところに、死者が蘇るということは残酷だ。
とくに、彼の場合は自殺だ。
妻は自分のせいかもしれないと思っていた。
そんなところに戻ってくるというのは、傷口に辛子を塗り付けるようなものに思えた。
死者の復活なんて、あまり良いとは思えない。
人は今を生きている。それは現在進行形であり、その今は常に変化していて
そこに過去が入り込んできても、それは邪魔にしかならないと思う
2024 7 17
この作品のモチーフもそれだ。
なんと、本作に100回くらい( ´艸`)、この言葉が出てくる。
さすがに、いい加減にしてよと言いたくなる。
ひつこい。
せっかく、死者が蘇る。その死因が自殺という面白い設定だったのに
後半の分人、分人、分人で台無しだった。
佐伯というキャラがいい。
こいつは、主人公を殺害したと疑われている警備員だ。
性格が悪く。
口汚い。
疲れまくっていた彼に、佐伯は、あなたの奥さんとSEXがしたいなどと軽口を叩く。
彼が死んでからも奥さんにつきまとう。
生活に困っているからと、デリヘルの仕事を斡旋する。
断ると、職業差別をしているのかと逆切れし
さらに、その佐伯の経営しているデリヘルのパンフチラシに勝手にデリヘル嬢として紹介され
そのチラシを家の近所にばらまかれたのだった。
この屈折した佐伯の中に、僕は著者を見た。
平野さんの作品には、ときどき、こういうエキセントリックな人物が登場し、小説をかく乱します。
平野さんの分人という思想は、その場その場で、その人の考えは変化する。
色んな性格が同時にその人に存在するというような考え方で
軽い多重人格みたいな印象を僕は持っている。
それは同意する。個性の強い人と話すと、その人の思想などの影響を受けて自分が変化することはありますから。
僕は、平野さんは少し多重人格なのかと感じていて
通常の平野さんは人格者でリベラルな考えの人なのですが、ときどき、この佐伯のような過激な人物像が見え隠れすることがあります。
それが人間の複雑さであり魅力なのでしょうが・・・。
本書は、それがひつこいくらい強調されていて少し不快でした。
このあきよしの言葉が面白い
>>必死こいて頑張って少し贅沢しても格差だなんだと言われて、たいして気分も良くないしな。今の日本は何やっても褒められないから辛いよ。幸せになるとなんか後ろめたいというのは間違っているよ。
これが平野さんの本心のように感じる。
格差はいけないというリベラルな発言をしているんだけど、どこかで、こういう心がある。
この二重人格なところが人である。
分人という思想は、平野啓一郎が自己を正当化するために生み出した思想のような気もしないではない。
こうでも、しないと自己の同一性が保てないのだ。
本音と建て前という言葉があるが、人はそれを使い分けている。
それが人なのであり、分人という言葉をわざわざ作らなくても
そういうものなんであり、そんなのは平野さんに解説されなくてもわかっているのです。
復活した彼に言った上司の言葉は辛辣だ。
>>人間一人死ねば、その一人分の穴があく・・・けど、その穴をいつまでもほおっておくわけにはいかんだろう。みんなで一生懸命埋める。仕事の穴、家族の穴、残された人の心の穴・・・無理にこじ開けようとすると破れてしまうぞ
そこには彼の居場所がないという現実を表していた。
死をやっと受け入れたところに、死者が蘇るということは残酷だ。
とくに、彼の場合は自殺だ。
妻は自分のせいかもしれないと思っていた。
そんなところに戻ってくるというのは、傷口に辛子を塗り付けるようなものに思えた。
死者の復活なんて、あまり良いとは思えない。
人は今を生きている。それは現在進行形であり、その今は常に変化していて
そこに過去が入り込んできても、それは邪魔にしかならないと思う
2024 7 17
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よろしくお願いします。
昨年は雑な読みが多く数ばかりこなす感じでした。
2025年は丁寧にいきたいと思います。
この書評へのコメント
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- 出版社:講談社
- ページ数:498
- ISBN:9784062180320
- 発売日:2012年11月27日
- 価格:1680円
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