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三太郎さん
三太郎
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山崎ナオコーラの旅と男女に関する六つの短編。
山崎ナオコーラ氏の作品を読むのはこれが三冊目。最初の本は好きな映画の原作だったこともあり期待度が高すぎたみたい。二冊目で著者の書くものがちょっと好きになり、この三冊目ではかなり好きだと言えるようになった。この本は山崎氏にはめずらしい短編集。著者の短編は悪くないです。長編より密度が高い感じがする。

あとがきによれば著者は旅行が大好きなのだとか。この六つの短編はそれぞれ異なる都市に旅をした男女が主人公ですが、男女比は4:2で、やはり著者は男性を主人公にした小説が得意みたいです。旅先は、アルゼンチン、ニューヨーク、パリ、クアラルンプール、上海、そして東京。いくつかを紹介します。

「慧眼」は還暦を過ぎてから妻と二人でマレーシアのクアラルンプールに移住した男性が主人公。彼は40代でサラリーマンが辛くなり脱サラして喫茶店を始めた。ピンチの度に奥さんが「離婚資金」だというヘソクリを百万円単位で出してくれた。

お店の経営は初めは順調で2号店を出したあたりから下り坂に。チェーン店のコーヒーショップが増えたこともあり赤字経営に。奥さんの一声でお店を畳んで、クアラルンプールで喫茶店を開いた甥のお店を手伝うことにした。

彼は子供の頃に戦争を経験したが、自分が生きた時代を悪く思う気になれない。苦労もしたが、面白い映画も見たし山登りもできた(なんだか僕自身のことを言われているような気がしてきた)。

甥の店では現地のアルバイトの男の子がラジオの音楽に合わせて歌いながら楽しそうに働いている。主人公は、日本でお店をやっている時も従業員にこんな風に楽しく働いてもらってもらったらよかったと思う。

主人公は、自分はこれまで泡のように生きてきたと思う。奥さんからはこれまで一緒にやってこれてよかったと言われる。奥さんは主人公を彗眼の人だという。

「スカートのすそをふんで歩く女」の主人公は大学四年生の女子学生。ゼミが一緒の男子学生三名といつも一緒だ。男子の三名はもう就職が決まっているが、主人公は内定していた会社への就職を辞退してしまう。男子三名が卒業旅行の相談を始めるが彼女は誘われない。自分も一緒に行くというと、男子の中には彼女がいるものもいて、女子と一緒の旅行はどうかと言われる。しかし同意してくれる男子もいて、結局は四人でパリに行くことになる。パリの人はみんないちゃいちゃしていると思う。老夫婦も手をつないで歩いている。

彼女は男子と親友になりたいと思ってきた。女同士の付き合いはつまらない。でも実際には男たちに恋人ができ、結婚してそれぞれの生活にはいると、男子と親友になれる可能性がどんどんなくなっていくとは思っていなかった。この主人公は作者の分身なのかも。

表題作の「男と点と線」の主人公は40歳前後の男性。幼馴染の女性と彼女の十二歳の娘と三人でニューヨークに旅行する。彼女とは幼稚園に入る前から一緒に遊んだ中だが、彼女は裕福な家庭で育ったお嬢さんで、主人公の家は中流家庭だった。四十年来の友人だと思う。彼女は結婚して離婚して今は独身だ。

ニューヨークでは「ブルーノート」でジャズを聴き、ブロードウエイでミュージカルを見てから、リンカーンセンターでロシア語のオペラを観る。

中高生の頃には幼馴染とは口もきけなくなり、二十代では彼女が次々恋人を作るのを指をくわえて見ていた。三十代になっても彼女に対して素直になれなかった。

彼女に対して「美しい、あなたが好きだ。」と言ってみた。彼女からは「嬉しい。でも私はもう結婚しないよ」といわれる。「構わないよ」と答える。彼は、彼女のおかげで精神的な愛とはなにかが分りかけてきたと思う。


この短編集では著者の書きたいことが素直に伝わってきた気がする。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:829 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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