茜さん
レビュアー:
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静謐にして美しい、小川ワールドの到達点を示す傑作。
「大きくなること、それは悲劇である」。
少年は唇を閉じて生まれた。
手術で口を開き、唇に脛の皮膚を移植したせいで、唇に産毛が生える。
そのコンプレックスから少年は寡黙で孤独であった。
少年が好きだったデパートの屋上の象は、成長したため屋上から降りられぬまま生を終える。
廃バスの中で猫を抱いて暮らす肥満の男から少年はチェスを習うが、その男は死ぬまでバスから出られなかった。
成長を恐れた少年は、十一歳の身体のまま成長を止め、チェス台の下に潜み、からくり人形「リトル・アリョーヒン」を操りチェスを指すようになる。
盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、いつしか「盤下の詩人」として奇跡のような棋譜を生み出す。
今年に入って将棋を題材とした小説を読んで、それが面白かったので春頃から始めたチェスを題材にした小説はないかと思い調べたら、この作品に出会いました。
主人公が名乗ることになるリトルアリョーヒンは彼の身体が十一歳で成長が止まってしまいチェス台の下から、からくり人形を操ることから名づけられた名前。
だけれど、アリョーヒンという名にはちゃんと実在した人物がいてアレクサンドル・アレヒンという名前のロシアのチェスの選手がそうです。
ロシア語表記では彼の名前はАлександр Александрович Алéхинとなっており、発音は、「アレヒン」と「アレキン」の中間、時に「アリョーヒン」と表記されるが母音にトレマはなく読み誤りであるとwikipediaに掲載されています。
彼の名前が付いた「Alekhine's Defense(アレヒンディフェンス)」は(画像参照) 1. e4 Nf6 (白のポーンがe4と進めてきた時の応手としてナイトがf6と指す)のがアレヒンディフェンスです。
本作品はチェスの楽しさを意外な人物から教わることから始まりますが、奇しくも「クイーズ・ギャンビット」の主人公ベスが意外な人物からチェスを教わることを彷彿させます。
考えてもみなかったのですがチェスの可能な棋譜の数は十の一二三乗だそうです。
ちょっと気が遠くなってしまいます(苦笑
リトルアリョーヒンの彼は「クイーンズ・ギャンビット」のベスほどの派手な活躍はしませんが、アリョーヒン同様に彼の棋譜は美しく、アリョーヒンと同じく彼はいつしか盤下の詩人となります。これがまたこの作品の醍醐味と言えるでしょう。
ラストは切ない終わり方になってしまいますがそれでも読んで良かったと思える作品でした。
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初志貫徹、実るほど頭を垂れる稲穂かな
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:373
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