ホセさん
レビュアー:
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住み始めたアパートに転がり込んできた猫と、若き浅暮青年の3年間のお話。
猫がクローズアップされているが、彼らは守護霊のようなもので、これは浅暮くんの青春記だ。
634 浅暮三文 「嘘猫」
住み始めたアパートに転がり込んできた猫と、若き浅暮青年の3年間のお話。
猫がクローズアップされているが、彼らは守護霊のようなもので、これは浅暮くんの青春記だ。
「ダブエストン街道」(メフィスト賞)で不思議な世界を楽しませてくれた、浅暮三文の自伝的小説、
と聞き及んで読むことにした。
24歳の僕は、コピーライターの丁稚奉公をするために上京した。
友人の家からプロダクションに通い、一週間後に荻窪の六畳一間のアパートを借りる。
天井板の一枚に、片方だけの靴跡がくっきりとついていた。
常盤荘の一階、部屋番号は「ち号(5ではなく、いろはの「ち」)」
1年ほどたった梅雨の日曜、週明けまでの仕事を部屋でしていると、自室の窓の下で猫が鳴いている。
どさん、激しい音がして窓を開けると、大きな肥った猫が窓の桟にいた。
僕は猫を抱え上げて、部屋に入れた。ミヤと名付けた。
仕事などで部屋を出るときには、ミヤも外に出す。
帰ってくると分かるようで、入れろと窓の外から鳴く。
3日目の晩に入れて仕事をしていたら、ミヤの声がコーラスになっていた。
ミヤは僕の布団で子供を産み落としていた。
ミヤと五匹の子猫との共同生活と、僕の仕事のことや会社の人のことが、交互に綴られていく。
五匹をシロ、茶々、三番、カケフ、五番と名付けた。
カケフが車に轢かれて死んでしまい、
通りかかった女性に、茶々が貰われていった。
ミヤはあまり帰ってこなくなり、子猫たちが残る。三匹。
猫用に開けていた小窓から、新しい子猫が投げ入れらていたが、脳に障害があり数日で死んでしまった。三匹
アパートの玄関先で猫と遊びながら、通りすがりの人に声をかけて、五番を貰ってもらった。チロと三番の二匹。
三番が帰ってこなくなる。裏の神社で見つけて声をかけると「ニャー」と返事をするが帰ってはこない。チロの一匹。
僕はコピーで賞をもらった。会社以外のコピーのアルバイトも順調だ。
チロがあまり帰ってこなくなる。
アパートから緩い立ち退きを迫られ、収入も増えた僕は、チロを連れて2キロほど離れた天沼へ引越した。
チロは新居でも、部屋と外を行き来していたが、時折違う猫もチロに招かれて来るようになった。
そしてある日、チロは帰らず、他の猫も来なくなった。
1ヶ月ほど近所を探したが見つからず、僕は常盤荘へ向かった。
裏の神社で「チロよ、チロよ」と声をかけて回っていたが、反応が無い。
諦めて家に戻る途中、チロが寄っていた寺の本堂で手を合わせた。
つぶっていた目を開けたら、少し遠くで猫が鳴いた気がした。
==
ドタバタと振り回される事、この上ないほどの猫との共同生活を、浅倉青年は
「コピーライターとしてがんばってこられたのは、猫たちとのおかしな事件、
おかしな行動、ともに暮らしてきた時間のお陰」と思っている。
何かに打ち込んでいた時期に、打ち込んでいた事と関係の無い人が姿を現している事が私にはあった。
打ち込む時期が終わると、その人もなぜか姿を消した。
終わって暫く時間が経たないと、「あ~、あの時だけ居たんだ」と気づかない。
「あった」とはっきり言いきれるのに、
いつのどの件で、どんな人が現れたのか、私は思い出す事ができないでいる。
ただその人たちを「丸くて暖かい色」として、記憶しているだけなのだ。
(2024/2)
PS 本著がハマった人には、高野秀行「ワセダ三畳青春記」をお勧めする。
若き高野青年が、楽しそうにもがいている。
第一回酒飲み書店員大賞(2005)
住み始めたアパートに転がり込んできた猫と、若き浅暮青年の3年間のお話。
猫がクローズアップされているが、彼らは守護霊のようなもので、これは浅暮くんの青春記だ。
「ダブエストン街道」(メフィスト賞)で不思議な世界を楽しませてくれた、浅暮三文の自伝的小説、
と聞き及んで読むことにした。
24歳の僕は、コピーライターの丁稚奉公をするために上京した。
友人の家からプロダクションに通い、一週間後に荻窪の六畳一間のアパートを借りる。
天井板の一枚に、片方だけの靴跡がくっきりとついていた。
常盤荘の一階、部屋番号は「ち号(5ではなく、いろはの「ち」)」
1年ほどたった梅雨の日曜、週明けまでの仕事を部屋でしていると、自室の窓の下で猫が鳴いている。
どさん、激しい音がして窓を開けると、大きな肥った猫が窓の桟にいた。
僕は猫を抱え上げて、部屋に入れた。ミヤと名付けた。
仕事などで部屋を出るときには、ミヤも外に出す。
帰ってくると分かるようで、入れろと窓の外から鳴く。
3日目の晩に入れて仕事をしていたら、ミヤの声がコーラスになっていた。
ミヤは僕の布団で子供を産み落としていた。
ミヤと五匹の子猫との共同生活と、僕の仕事のことや会社の人のことが、交互に綴られていく。
五匹をシロ、茶々、三番、カケフ、五番と名付けた。
カケフが車に轢かれて死んでしまい、
通りかかった女性に、茶々が貰われていった。
ミヤはあまり帰ってこなくなり、子猫たちが残る。三匹。
猫用に開けていた小窓から、新しい子猫が投げ入れらていたが、脳に障害があり数日で死んでしまった。三匹
アパートの玄関先で猫と遊びながら、通りすがりの人に声をかけて、五番を貰ってもらった。チロと三番の二匹。
三番が帰ってこなくなる。裏の神社で見つけて声をかけると「ニャー」と返事をするが帰ってはこない。チロの一匹。
僕はコピーで賞をもらった。会社以外のコピーのアルバイトも順調だ。
チロがあまり帰ってこなくなる。
アパートから緩い立ち退きを迫られ、収入も増えた僕は、チロを連れて2キロほど離れた天沼へ引越した。
チロは新居でも、部屋と外を行き来していたが、時折違う猫もチロに招かれて来るようになった。
そしてある日、チロは帰らず、他の猫も来なくなった。
1ヶ月ほど近所を探したが見つからず、僕は常盤荘へ向かった。
裏の神社で「チロよ、チロよ」と声をかけて回っていたが、反応が無い。
諦めて家に戻る途中、チロが寄っていた寺の本堂で手を合わせた。
つぶっていた目を開けたら、少し遠くで猫が鳴いた気がした。
==
ドタバタと振り回される事、この上ないほどの猫との共同生活を、浅倉青年は
「コピーライターとしてがんばってこられたのは、猫たちとのおかしな事件、
おかしな行動、ともに暮らしてきた時間のお陰」と思っている。
何かに打ち込んでいた時期に、打ち込んでいた事と関係の無い人が姿を現している事が私にはあった。
打ち込む時期が終わると、その人もなぜか姿を消した。
終わって暫く時間が経たないと、「あ~、あの時だけ居たんだ」と気づかない。
「あった」とはっきり言いきれるのに、
いつのどの件で、どんな人が現れたのか、私は思い出す事ができないでいる。
ただその人たちを「丸くて暖かい色」として、記憶しているだけなのだ。
(2024/2)
PS 本著がハマった人には、高野秀行「ワセダ三畳青春記」をお勧めする。
若き高野青年が、楽しそうにもがいている。
第一回酒飲み書店員大賞(2005)
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語りかける書評ブログ「人生は短く、読むべき本は多い」からの転記になります。
殆どが小説で、児童書、マンガ、新書が少々です。
評点やジャンルはつけないこととします。
ブログは「今はなかなか会う機会がとれない、本読みの友人たちへ語る」調子を心がけています。
従い、私の記憶や思い出が入り込み、エッセイ調にもなっています。
主要六紙の書評や好きな作家へのインタビュー、注目している文学賞の受賞や出版各社PR誌の書きっぷりなどから、自分なりの法則を作って、新しい作家を積極的に選んでいます(好きな作家へのインタビュー、から広げる手法は確度がとても高く、お勧めします)。
また、著作で前向きに感じられるところを、取り上げていくように心がけています。
「推し」の度合いは、幾つか本文を読んで頂ければわかるように、仕組んでいる積りです。
PS 1965年生まれ。働いています。
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- 出版社:光文社
- ページ数:206
- ISBN:9784334737467
- 発売日:2004年09月10日
- 価格:500円
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