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ゆう5000
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たとえ、女手ひとつで砂を掻きだせるのだとしても。
1月のある日の日記から。

こうして毎日、のこのこと雪に降られてはたまらないわねぇ。一日に何度、雪片付けをしなくちゃならないのか。


窓の外をながめては、いい加減嫌気がさして、ほぅとため息をつく。
しかし、それも仕方がないこと。ここに生まれて、ここに住み付くものの定めというもの。

そうして、降り積もりゆく雪をながめて思い浮かぶのは、安部公房の「砂の女」。
夏の物語であるのに、ふしぎ。


「八月のある日、男が一人、行方不明になった。」の文章ではじまるこの物語。砂丘へ昆虫採集に出掛けたはずの男が、一晩泊めてもらった家から出られなくなってしまう。正確に言うと家の外へは出られるのだが、そこから抜け出すことができない。それも、突拍子もない事件が起こるわけでもなく、淡々と「出られなってしまう」のである。


10代で初めて読んだ時は、エロくてこわい大人のおはなしだと思った。出られなくなる男も、出て行けない女も哀れだった。


夫が単身赴任のアラフォー女は、家に男手がなければ、切れた電球も自分で替えるし、重い雪片付けだってこなす。重たい灯油缶を両手に抱えて、アパートの階段を五階までだって運び上げる。男だって、彩りのいいお弁当を自分で作る時代だもの。

今なら、自分の生活を支えるために、男を無理やりに手元に置く必要はないのだろうか。

それでも、冷え切った窓からの景色を一緒にながめるだれかは、いて欲しい。


「男だから」とか「女だから」なんて考えは、古くてナンセンスと片付けられてしまうけれど、男だ女だということは、やっぱりあって当たり前だろう。
あたたかい部屋にごろんと転がり、いつまでも止まなそうな雪を尻目に、あのころは思い至らなかった、そんなことを考えてみたりする。

だってほら、まだ家がつぶれそうなほどに降り積もってるわけじゃないからね。

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ゆう5000
ゆう5000 さん本が好き!1級(書評数:152 件)

ブログで10代におすすめの本を紹介しながら、こちらにマイペースにレビューを投稿させていただいています。
児童書やYA文学が多めです。

読んで楽しい:10票
参考になる:19票
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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2015-07-21 06:01

    実は私、コレ、随分長いこと積んだままなの。
    レビューを拝見して今度こそ読もうと何度目かの決心をしました(^^;)

  2. はるほん2015-07-21 06:54

    かもめ通信さんと同じく。
    やっと本棚から出して数日が過ぎましたが(笑)、次こそ読みます!
    背中を押していただいてありがとうございます!

  3. 薄荷2015-07-21 07:43

    私はゆう5000さん同様10代の頃に読みまして、同様に『エロくてこわい大人のおはなし』だねーっと思ったきり忘れてました。
    今読んだら、もっと何か違う景色が見えるかしらん?

  4. タカラ~ム2015-07-21 10:12

    二十歳前後くらいに安部公房にどハマりしていた時があって、本書をはじめ、「箱男」とか「他人の顔」とか読んだ記憶があります。

    あと、「砂の女」は映画化もされてて、岸田今日子が怖かった!

    久しぶりに映画も見返したいけど、レンタルとかあるのかな?

  5. ゆう50002015-07-21 19:03

    >かもめ通信さん、はるほんさん
    嬉しいコメントありがとうございます♪この季節、肌に砂がざらつくような感じがより暑さを増してくれておすすめですよ。えっ、私!? もちろん、夏には読みません(^_^;)


    >薄荷さん
    読むごとに見えるものが変わる作品こそが「純文学」というものだろうか、と最近、勝手に定義づけているのですが、この作品もそうですよね。男性であれば、男を哀れながらもどこかうらやましく読むのかもしれないですね。

    >タカラ~ムさん
    私は「壁」で挫折しました。「箱男」いつか読みたい作品です。映画「砂の女」は、私もお気に入りです。岸田今日子さん、ぴったりすぎてびっくりしました。モノクロだと女優さんがみんな美人に見える。

  6. No Image

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