武藤吐夢さん
レビュアー:
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三島作品の中ではエンタメ寄りなため読みやすいが、モチーフを掘り下げると重みをずっしり感じます。

自殺に失敗した青年がいる。
彼は、そうだ、命を売るのはどうだと考える。
>>命売ります。お好きな目的にお使いください。二十七歳男子。秘密は一切守り、決して迷惑はおかけしません。
金が貰えて死ねる。彼にとっては一石二鳥なのです。
最初の依頼は、金持ちの爺さんで妻がヤクザの愛人になって出て行った。復讐したいというもの。
その絶世の美女の間男となり、相手のヤクザに激怒され妻と一緒に殺されてくれというものだった。
だが、ヤクザは二人の情交をスケッチしただけで彼は無事に帰還できた。
ただし、後日、女が水死体で見つかる。
二つの目のミッションは・・・麻薬レシピを書かれた本を売るのの手伝い。実験材料にされて死ぬという依頼。これも彼を好きになった依頼者の女が自ら犠牲になり・・・。
三番目の依頼は自称吸血鬼という未亡人の相手をすることに・・・、だが、途中で貧血になり入院。その間に婦人は自殺。
ようするに、死にたいのに死ねないのです。
いつしか、彼は死にたくないと思うようになる。
さて、この心境の変化は何なのか?
彼は金もあり、仕事も成功していたが、何かよくわからないが空しくなり自殺しようとした。死にたいと思ったわけです。
つまり、心が虚無に支配されてしまった。
だが、いざ、死を自分から求めると、死のほうが彼を拒絶した。
それは偶然なのか、それとも神の意志なのか。
彼は死に対して不安を感じることはなかった。
だが、死にたくないと思い始めると感覚が変化していった。
>>生きることが、すなわち不安だという感覚を、ずいぶん久しい間、彼は忘れていたような気がする。
この時、彼は虚無の病から解放され、生きようと思うようになったのかと思います。
何も感じない人間は不安なんて感じません。不安を感じる=生きているということです。
この本のモチーフを違った視点から解釈すると、こうもとれます。
売文家である三島にとって、生命を売るとは、小説についての妥協を意味するのではと思うのです。
つまり、書きたくない作品を書く、もしくは不本意な改変を受け入れる。
それは有名になるためとか、大金を得るためということになります。
それが生命を売るという比喩なのかと感じました。
そういうことは、この世界、どこにでもあります。
少し前に、ドラマの原作者が、自分の作品を大きく改変されたことを理由に自殺しましたが、そこに、この命を売るという行為は繋がっていくように感じます。
そのつもりでいて、売ったのだけど、それに抵抗する得体のしれない何かが産まれて、命を売りたくないという自分が産まれる。それを小説で表現したような気が僕はするのです。
こんなはずじゃなかった。
命を売りたくない。
三島さんの作品は深いので、読み手によって解釈が色んな風に委ねられるのが面白い。百人いたら百人の解釈があるのかもしれません。
僕はこういう奥の深い作品が好きです。
2024 6 14
彼は、そうだ、命を売るのはどうだと考える。
>>命売ります。お好きな目的にお使いください。二十七歳男子。秘密は一切守り、決して迷惑はおかけしません。
金が貰えて死ねる。彼にとっては一石二鳥なのです。
最初の依頼は、金持ちの爺さんで妻がヤクザの愛人になって出て行った。復讐したいというもの。
その絶世の美女の間男となり、相手のヤクザに激怒され妻と一緒に殺されてくれというものだった。
だが、ヤクザは二人の情交をスケッチしただけで彼は無事に帰還できた。
ただし、後日、女が水死体で見つかる。
二つの目のミッションは・・・麻薬レシピを書かれた本を売るのの手伝い。実験材料にされて死ぬという依頼。これも彼を好きになった依頼者の女が自ら犠牲になり・・・。
三番目の依頼は自称吸血鬼という未亡人の相手をすることに・・・、だが、途中で貧血になり入院。その間に婦人は自殺。
ようするに、死にたいのに死ねないのです。
いつしか、彼は死にたくないと思うようになる。
さて、この心境の変化は何なのか?
彼は金もあり、仕事も成功していたが、何かよくわからないが空しくなり自殺しようとした。死にたいと思ったわけです。
つまり、心が虚無に支配されてしまった。
だが、いざ、死を自分から求めると、死のほうが彼を拒絶した。
それは偶然なのか、それとも神の意志なのか。
彼は死に対して不安を感じることはなかった。
だが、死にたくないと思い始めると感覚が変化していった。
>>生きることが、すなわち不安だという感覚を、ずいぶん久しい間、彼は忘れていたような気がする。
この時、彼は虚無の病から解放され、生きようと思うようになったのかと思います。
何も感じない人間は不安なんて感じません。不安を感じる=生きているということです。
この本のモチーフを違った視点から解釈すると、こうもとれます。
売文家である三島にとって、生命を売るとは、小説についての妥協を意味するのではと思うのです。
つまり、書きたくない作品を書く、もしくは不本意な改変を受け入れる。
それは有名になるためとか、大金を得るためということになります。
それが生命を売るという比喩なのかと感じました。
そういうことは、この世界、どこにでもあります。
少し前に、ドラマの原作者が、自分の作品を大きく改変されたことを理由に自殺しましたが、そこに、この命を売るという行為は繋がっていくように感じます。
そのつもりでいて、売ったのだけど、それに抵抗する得体のしれない何かが産まれて、命を売りたくないという自分が産まれる。それを小説で表現したような気が僕はするのです。
こんなはずじゃなかった。
命を売りたくない。
三島さんの作品は深いので、読み手によって解釈が色んな風に委ねられるのが面白い。百人いたら百人の解釈があるのかもしれません。
僕はこういう奥の深い作品が好きです。
2024 6 14
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よろしくお願いします。
昨年は雑な読みが多く数ばかりこなす感じでした。
2025年は丁寧にいきたいと思います。
この書評へのコメント
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- 出版社:筑摩書房
- ページ数:269
- ISBN:9784480033727
- 発売日:1998年02月01日
- 価格:714円
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