よみかさん
レビュアー:
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あなたの時間、盗まれていませんか?
ある大都市にひっそりと残る円形劇場の廃墟に風変わりな格好をしているが、皆の話を聴くのが上手な小さな女の子が住み着いた。彼女の名前はモモ。その優れた能力で町の人や子供たちに慕われ仲良くなるが、彼女からその大事な友だちを奪おうとする「灰色の男たち」の魔の手が町に忍びよる。彼女を呼び寄せた時間の管理人「マイスター・ホラ」の力を借りて、モモは一人、人間の心から時間を盗んで生きる時間どろぼう「灰色の男たち」と対決する。
子供の頃夏休みに親と田舎に帰省をするのは大仕事だったと思う。列車の切符を取るのに親は1ヶ月前に、朝早くから当時の国鉄の主要駅のみどりの窓口に並んだ。父母ともに同郷だったから親戚へのお土産も二倍。手荷物では持ちきれないので箱に詰めて梱包し荷札をつけて、これまた当時は宅配便なんて無いので主要駅まで自分で運び、先方に着いてもその荷物を現地の主要駅まで取りにいかなくてはならなかった。
乗り物のチケットはインターネットで即座に予約でき、お土産もネットや電話一本で先方の家まで送ることができる今とは大違いである。今は時間や労力を考えたら、合理的で大幅な時間の節約になっているわけで、その分余計に仕事ができたり別の旅行にも行けたりする。でも本当にそうだろうか。ちょっと立ち止まって考えてみる。
確かにそれは便利ではあるけれど、昔は「田舎に行く」ということの時間が今よりゆっくり流れていた気がするのだ。苦労して切符を買った一ヶ月前にその楽しみはスタートし、祖父母やいとこたちに選んだお土産を一人一人の喜ぶ顔を思い浮かべながら荷造りして駅まで運ぶ。いざ列車に乗っても、それは寝台車であったり特急列車であり、日帰りさえ出来る新幹線とは違って時間はかかるものの、その遠さ、時間の長さは田舎のありがたみに比例していたようにも思うのだ。
夏休みという季節柄、読後真っ先に浮かんだのはこの帰省の体験だったのだが「灰色の男たち」に時間を奪われた町の人達はどうだろうか。彼らは合理化と効率化に追われた結果、人生の楽しみや人とのつながり、心の豊かさを失ってしまう。無表情と無気力が町を覆い、人びとの生活は色を失って灰色一色になってしまう。このあたりはエンデの別の作品「はてしない物語」の「虚無」に繋がるものもあるように思う。
モモが取り返そうとしたものは、利便性を追求した結果人が失ったそういう心の豊かさではなかったろうか。合理化されたことによって失われたものの大きさを想うとき、「時間は節約されたのではなく盗まれたのだ」という、ここにエンデのメッセージがあり、モモの闘いを通じてそれに気づかされるのである。
あなたの時間、盗まれていませんか?
子供の頃夏休みに親と田舎に帰省をするのは大仕事だったと思う。列車の切符を取るのに親は1ヶ月前に、朝早くから当時の国鉄の主要駅のみどりの窓口に並んだ。父母ともに同郷だったから親戚へのお土産も二倍。手荷物では持ちきれないので箱に詰めて梱包し荷札をつけて、これまた当時は宅配便なんて無いので主要駅まで自分で運び、先方に着いてもその荷物を現地の主要駅まで取りにいかなくてはならなかった。
乗り物のチケットはインターネットで即座に予約でき、お土産もネットや電話一本で先方の家まで送ることができる今とは大違いである。今は時間や労力を考えたら、合理的で大幅な時間の節約になっているわけで、その分余計に仕事ができたり別の旅行にも行けたりする。でも本当にそうだろうか。ちょっと立ち止まって考えてみる。
確かにそれは便利ではあるけれど、昔は「田舎に行く」ということの時間が今よりゆっくり流れていた気がするのだ。苦労して切符を買った一ヶ月前にその楽しみはスタートし、祖父母やいとこたちに選んだお土産を一人一人の喜ぶ顔を思い浮かべながら荷造りして駅まで運ぶ。いざ列車に乗っても、それは寝台車であったり特急列車であり、日帰りさえ出来る新幹線とは違って時間はかかるものの、その遠さ、時間の長さは田舎のありがたみに比例していたようにも思うのだ。
夏休みという季節柄、読後真っ先に浮かんだのはこの帰省の体験だったのだが「灰色の男たち」に時間を奪われた町の人達はどうだろうか。彼らは合理化と効率化に追われた結果、人生の楽しみや人とのつながり、心の豊かさを失ってしまう。無表情と無気力が町を覆い、人びとの生活は色を失って灰色一色になってしまう。このあたりはエンデの別の作品「はてしない物語」の「虚無」に繋がるものもあるように思う。
モモが取り返そうとしたものは、利便性を追求した結果人が失ったそういう心の豊かさではなかったろうか。合理化されたことによって失われたものの大きさを想うとき、「時間は節約されたのではなく盗まれたのだ」という、ここにエンデのメッセージがあり、モモの闘いを通じてそれに気づかされるのである。
あなたの時間、盗まれていませんか?
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ここのところ踊りに現を抜かして、本が読めておりません。(^_^;)
にもかかわらず、時折、過去レビューをお読みくださりポチッと一票くださる方々がいらして、感謝いたしております。
ありがとうございます。
この書評へのコメント

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- 出版社:岩波書店
- ページ数:409
- ISBN:9784001141276
- 発売日:2005年06月16日
- 価格:840円
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