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ぱるころ
レビュアー:
純粋に笑って泣ける、人間味溢れる作品集。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

本書は、向田邦子氏の放送台本を中野玲子氏が小説化したもので、『びっくり箱』『母上様・赤澤良雄』『愛という字』の三作品を収録。

一番面白いと感じた『びっくり箱』を中心に紹介したい。
東京で看護婦をしている22歳の厚子は、結婚相手の良司を母親に紹介するため長野に帰省する。母のとし江は真面目な性格で、夫を亡くして以来、苦労して娘を育ててきた。
母から娘への手紙には、いつも同じ内容が書かれている。
「女一人、生きてゆくことは大変ですが、人に後ろ指を指されない、貧しくとも正々堂々と胸を張った暮らしをして下さい。くじけそうになったら、歯を食いしばって頑張っているお母さんのことを考えて下さい」と…。
良司は高卒の無職で、結婚相手として母親が許すとは考えられない。

厚子は良司を近所のスナック(兼、喫茶店)で待たせ、重い足取りで実家へ向かう。ところが、実家には母親のヒモがいて、突然の修羅場に…!三度の飯から着るものまで母親の世話になっていると白状する男。母親は慌てて取り繕うように「この方は東大出てるのよ」などと言う。そしてヒモがその場を切り抜けるために駆け込んだのが、なんと良司の待つ店だった。

険悪になる母娘と対照的に、男性同士は意気投合。

母娘は互いに無理をしていたけれど、人間なんて蓋を開ければ何が出てくるか分からない、びっくり箱のようなもの。互いのびっくり箱の中身を見せ合った母娘は、最後には笑いながら涙をこぼす。


『母上様・赤澤良雄』
高齢の母しまと同居することになった良雄一家。娘は勝手にカナリアを飼い始め、しまは知人から子猫を貰ってくる。目を離した隙に、嫌な予感は的中…。しまは早々に居心地が悪くなる。タイトルは、良雄が出征前に書いた遺書のこと。親孝行を果たせない無念は、生きて帰った途端、忘れてしまっていた。

『愛という字』
他の2作品では、登場人物の喜怒哀楽が次々と移り変わる様子を描いたのに対し、本作は主人公の女性が夫とは違うタイプの男性に惹かれる心情を繊細に表現する。
画家である男性が自分の知らない色の名前を教えてくれることで一瞬世界が開けたように感じたけれど…、落ち着いてみると、自分の生活の中にもある、知っている色だと気づく。


どの作品も、人間らしい感情の動きの先に、温かな着地点が待っている。向田邦子作品をこれまで観たこと(読んだこと)のない私は、人生損していたかも知れない…!!と思ってしまうほどハマった。
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ぱるころ
ぱるころ さん本が好き!1級(書評数:147 件)

週1〜2冊、通勤時間や昼休みを利用して本を読んでいます。
ジャンルは小説・エッセイ・ビジネス書・自己啓発本など。
読後感、気付き、活かしたい点などを自分なりに書き、
また、皆さんからも学びたいと考え参加しました。
よろしくお願いします。

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