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Wings to fly
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辛いことがあったら、この人たちに慰めてもらいたい。
ロンドン下町にあるギディアンおじさんの工房では、今日も炉の火が赤々と燃え、戸口の上の外壁には飛び跳ねる青いイルカが4匹飾られている。両親を亡くし、故郷を離れロンドンにやってきた9歳のタムシンを、おじさん一家は温かく迎え入れた。

活気溢れる鎧作りの工房と、その上の階に住む家族たちの、春からクリスマスまでを描いた物語。無口だが心の広いおじさんは腕のいい鎧師、おばさんはお茶目な少女ように明るい人だ。個性的ないとこが4人、末っ子は幼いおちびさん、人懐こい犬もいる。

いいなあ、子どもに戻れるならこんなお家で暮らしたい。いとこたちと手を繋いで五月祭を見物し、夕闇には窓辺に座って町に灯火が揺れるのを見よう。ハロウィーンの夜には、林檎が焼ける暖炉の前で、デボラおばさんが妖精のお話をしてくれるだろう。作りかけのプレゼントから礼儀正しく目を逸らし、魔女に違いないおばあさんがくれた「チューリップ」という珍しい花が咲く、クリスマスイブの夜を待つのだ。

タムシンの悲しみ、自分だけが他人という疎外感や、故郷のマーティンおじさんを恋しく思う気持ちは、日々の小さな喜びが洗い流してゆく。だがタムシンの心からは、海と遠い異国への憧れが消えない。船乗りだった父さんから受け継ぎ、故郷の港町で育まれたタムシンの夢がそっと、物語に潮風を運んでくる。明るいお話に添えられた一抹の切なさが、淡く淡く心に広がる。

時は16世紀、国王ヘンリー8世のもと、イギリスにはもうすぐ大航海時代の幕が開く。市場の向こうには帆船が見え、ロンドンの町は平和で賑やかだ。大人たちが談笑している声を夢うつつに聞きながら、暖炉の前で眠っちゃっても、誰かがきっとベッドに運んでくれる。子ども時代には確かにあったのに、大人になると絶対に味わえない、あの安心感に包み込まれていた。この人たちの愛情や温もりに、いつまでも浸っていたかった。幸せに泣ける本って、素晴らしい。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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