Yasuhiroさん
レビュアー:
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この「完全・友愛・単純美」の小説を五芒星に例えてみる試み
お仲間のがらくたさんが小川洋子にはまっていきそうなので、今更な感じもするのですがこの小説のレビューをブクレコの倉庫の中から引っ張りっだして再掲してみます。
書いた当時は「会心の出来!」なんて悦に入ってたのですが、以前こちらへ再掲しようとして読み返したところ、あまりにも恥ずかしい文章なので封印しておりました。まあ自分で悦に入るとろくなことはない、という見本ですね。とりあえず話のタネにでもなれば幸いです。
ちなみに私の小川洋子ベスト3は「博士の愛した数式」「薬指の標本」「ブラフマンの埋葬」です。
『 五芒星 』
星形を一筆書きで書くとできる、正五角形を中心に五つの先端を持つ簡単な図形である。しかし単純であるにもかかわらず、五つの線分の長さはいずれも等しく、三つの黄金比を内包し、線対称であるとても美しい図形なのだ。
この小説はこの五芒星を思い起こさせる。
先ず中央に「数学の真美」という五角形の宝石がある。
そして五か所の先端に
1: 事故で80分しか記憶が保てなくなった数学博士
2: 博士の世話をすることになった家政婦である「私」
3: 博士から「ルート」というニックネームをもらった私の息子
4: 黄金の左腕だった阪神時代の江夏豊
5: 博士の義姉で庇護者である老婦人
の五人が位置している。シンプルでかつ美しい均衡が保たれた小川洋子作品の中でもとりわけ「完全」な構成の小説だと思う。
数学の定理や数式もシンプルであるほど美しいそうだが、この小説もその「真美」一点に物語を収斂させるべく、実に巧妙に計算され尽して書かれている。大のダイガースファンである小川洋子さんが江夏豊の背番号28が完全数*であることを発見した時、この小説の成功は約束されたのだろう。
それにしても数学の美しさの描写には何度読んでも惚れ惚れする。
ルート、素数、双子素数、アルティン予想、友愛数、完全数、オイラーの公式、フェルマーの最終定理、いずれもシンプルなほど美しい。例えばオイラーの公式の
『 e^{ iπ } +1=0 』
の潔いまでの簡潔さはどうだ。「私」と博士の義姉がもめた時、博士はこの数式を提示することにより、その場を収めてしまった。
博士の80分しか記憶が保てない、正式な用語でいうと「前向健忘」に関しては、あくまでもこの小説を成り立たせるための一つの設定とだけ考えようと思う。率直なところツッコミどころは満載なのだが、だからと言って不思議とそれをあげつらう気にはなれなかった。
そのような瑕疵でこの小説の「完全・友愛・単純美」が損なわれることはない。そしてフェルマーの定理がついに解き明かされたように、第五の先端である老婦人と博士を結ぶ線分がもう一度綺麗に引き直されるとき、この五芒星は突然に光り輝くのだ。
*:その数自身を除く約数の和が、その数自身と等しい自然数のこと。 28 = 1 + 2 + 4 + 7 + 14 で完全数である。
書いた当時は「会心の出来!」なんて悦に入ってたのですが、以前こちらへ再掲しようとして読み返したところ、あまりにも恥ずかしい文章なので封印しておりました。まあ自分で悦に入るとろくなことはない、という見本ですね。とりあえず話のタネにでもなれば幸いです。
ちなみに私の小川洋子ベスト3は「博士の愛した数式」「薬指の標本」「ブラフマンの埋葬」です。
『 五芒星 』
星形を一筆書きで書くとできる、正五角形を中心に五つの先端を持つ簡単な図形である。しかし単純であるにもかかわらず、五つの線分の長さはいずれも等しく、三つの黄金比を内包し、線対称であるとても美しい図形なのだ。
この小説はこの五芒星を思い起こさせる。
先ず中央に「数学の真美」という五角形の宝石がある。
そして五か所の先端に
1: 事故で80分しか記憶が保てなくなった数学博士
2: 博士の世話をすることになった家政婦である「私」
3: 博士から「ルート」というニックネームをもらった私の息子
4: 黄金の左腕だった阪神時代の江夏豊
5: 博士の義姉で庇護者である老婦人
の五人が位置している。シンプルでかつ美しい均衡が保たれた小川洋子作品の中でもとりわけ「完全」な構成の小説だと思う。
数学の定理や数式もシンプルであるほど美しいそうだが、この小説もその「真美」一点に物語を収斂させるべく、実に巧妙に計算され尽して書かれている。大のダイガースファンである小川洋子さんが江夏豊の背番号28が完全数*であることを発見した時、この小説の成功は約束されたのだろう。
それにしても数学の美しさの描写には何度読んでも惚れ惚れする。
ルート、素数、双子素数、アルティン予想、友愛数、完全数、オイラーの公式、フェルマーの最終定理、いずれもシンプルなほど美しい。例えばオイラーの公式の
『 e^{ iπ } +1=0 』
の潔いまでの簡潔さはどうだ。「私」と博士の義姉がもめた時、博士はこの数式を提示することにより、その場を収めてしまった。
博士の80分しか記憶が保てない、正式な用語でいうと「前向健忘」に関しては、あくまでもこの小説を成り立たせるための一つの設定とだけ考えようと思う。率直なところツッコミどころは満載なのだが、だからと言って不思議とそれをあげつらう気にはなれなかった。
そのような瑕疵でこの小説の「完全・友愛・単純美」が損なわれることはない。そしてフェルマーの定理がついに解き明かされたように、第五の先端である老婦人と博士を結ぶ線分がもう一度綺麗に引き直されるとき、この五芒星は突然に光り輝くのだ。
*:その数自身を除く約数の和が、その数自身と等しい自然数のこと。 28 = 1 + 2 + 4 + 7 + 14 で完全数である。
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馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8
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