変態ばっかり全面に出してるので一応フォローしとくと
谷崎の文章は本当に読みやすいのだ。
古文なら古文、現代文なら現代文のリズムを
ストーリーの中でBGMのように奏でる。
メガネを取ったらカワイコちゃんというか、
変態仮面の下に美しい日本語が溢れている。
まあ変態仮面のインパクトが強過ぎて気が付かない事もあるのだが(笑)
ソレも含めて大御所だなあと感じる。
が、今回初めて谷崎に物申す。
裕福な財+理解ある夫=余りある時間
で習い事に費やしあそばすセレブな奥さまが主人公。
が、そこで出会った蠱惑的な女に翻弄されていく。
女友達が姉よ妹よと呼び合う、いわゆる「百合」のような関係は
次第に純白さを失い、爛れたものになっていく──
女の毒牙は、アルコールのように効いていく。
度重なる嘘や我儘も何時の間にか
自分が望んだことかのように脳内に沁みて、麻痺してゆく。
セレブ奥とその主人、そして光子の婚約者とあらゆるものを巻き込んで
「卍」の字のように雁字搦めになって動けない。
少々下世話な設定で始まるが
ストーリーが女の手管に飲まれていくあたりから
読者まで檻の無い檻に閉じ込められていくような閉塞感に囚われる。
さすが谷崎、ただの変態ではないと〆たいところだが
今回ばかりは別のことが気になって仕方なかった。
全文関西弁という異色の作品だが
そ ん な ト コ に 「 の ん 」 は い れ へ ん の ん じ ゃ !
微妙な言葉遣いに関西人の血がざわざわする。
伺いましたのんですけど…もう最初のページだけでのんのんのん、余計な「のん」が多過ぎる。
実に長いのんで…
思たりしましたのんですけど…
お邪魔に出ましたのんですけど…
フランス人か!とワケの分からないツッコミをしてしまう。
谷崎は関西弁の美しさを非常に気に入っていたらしい。
ソレは分かる。
作中かなり通な関西弁も使われており、そこは凄いと思うのだが
恐らく谷崎の聴いた関西弁が非常に京都寄りであることと
「のん」という柔らかい響きを谷崎自身が好んだと思われる。
関西弁に伴う変化形は難しい。例えば
来る=「来た」「来はった」「来はる」などがあるが
未然形には「来ぃひん」「来てへん」「来はらへん」「来ゃーへん」など、
命令形には「来てや」「来ぃや」「来(こ)いや」「来んかい」と法則性がない。
個人的には関西弁はリズム重視の言葉であり、
故に似非関西弁に五月蠅いのだと思う。
まあ関西弁講座はおいといて、「のん」も使うことは使う。
京都の「どす」と同じく、言葉をはんなりさせる魔法の1つでもある。
「何をしてるんですか」は「なにしてんねん」で無論OKだが
「なにしてはるのん?」と小首を傾げて言われたら
可愛さが一気に増すじゃろ?つまり、そう言う事だ。(どういうことだ)
多分谷崎もこの魔法にヤられたのであろう。
舞台はどうやら大阪の方らしいのに、
全ての登場人物が京ことば風なのも、どーしても気になる。
赤ペン持って「のん」を消したい衝動に襲われる。
しかしココで気が付いた。
つまり谷崎は 京 都 弁 フ ェ チ なのだ。
それも「のん」縛りというマイナーマニア。
耽美小説に見せかけて、またお前のフェチ小説やったんかい…!
なんてこったい。
やっぱしあんさん、立派な変態ですのん…。(←間違った関西弁)
歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。
年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。
秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。
2018.8.21
この書評へのコメント
- はるほん2015-06-28 08:49
いや別にコメント「のん」縛りやないのんよ?(笑)
>薄荷さん
ええっ、ソッチの「のん」!?(爆)
友人がノンノの雑誌に載った場合「ノンノに載んのん?」という
「チャウチャウちゃうんちゃう?」級のダジャレが生まれると言う
逸話をふと思い出しました。(笑)
>素通堂さん
や、ネイティブじゃない人間が書いたと思えば
凄いレベルだとは確かに思うんですけどね。
こんだけ「のん」を使うのんやったら語尾も「どす」を
使うレベルのコテコテ京都弁の使い手どすやろ。
その違和感がなんや気になりましてん。
(↑こういうとこにも「気になりますのんです」を使うような)
地域差かしれまへんけど、気になりますのえ…。
(大丈夫!ネットなら京都弁ではるほんすらはんなり系に!)クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - Kurara2015-06-28 09:32
はるほんさん♪
そうそう、「のんのん問題」、実際どうなのって思っていました。こんな使うもんだっけって? もう最初は、膝をカクンカクンさせながら歩いているような読みにくさでwまぁ、慣れてしまえば気になりませんでしたが。
関西弁に関しては関西出身の奥様がチェックしていたみたいですけれど、卍はまだ再婚する前だったのか、チェックする人がいなかったのか・・・。だとしたら、おっちゃんがんばったのん。「細雪」は松子さんと完全に夫婦のときの作品だから、そのあたりで改善されているか、読むのがたのしみなってきました。
関西弁の変化形は本当に難しい世界。ネイティブの真似が出来ず、なんちゃって関西弁の違和感はまさにそこなんだと思います~。おっちゃん、東京の人だし、許してあげてww
のんと言えば石野眞子、「のん、の、の、のん~♪今日はわたしのーー失恋記念日です―――♪」(かなり古く自分でも飽きれる)クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - はるほん2015-06-28 09:51
>Kuraraさん
「のんのん問題」って名前までついたーー!(笑)
うん、自分も中盤からは慣れちゃったんですけどね。
成程、タニザキの女性遍歴がカギってのはあるかも。
卍は細君譲渡事件の後で書かれたもので
描き始める頃には松子さんと出会っているようです。
松子さんの言葉の影響もあったろうし、
局部的な関西弁に限られてるのも、そう考えると納得。
むしろ松子さんに接近するために書いたんじゃねーかと
そんな深読みもしてしまう。(笑)しかし
石 野 真 子 は 予 想 外 だ っ た 。(爆)クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
- 出版社:新潮社
- ページ数:199
- ISBN:9784101005089
- 発売日:1988年02月02日
- 価格:420円
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