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mono sashi
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極私的・浅見光彦シリーズ5選 ~内田康夫先生を偲んで~
浅見光彦シリーズで有名な内田康夫先生が、先週の十三日、敗血病のため亡くなりました。私が内田先生の著作にふれたのは、高校時代までさかのぼります。それからずいぶん時が経ち、多くの本を読んできましたが、本の世界へ踏み込む出発点となったのは、この浅見光彦シリーズがきっかけでした。内田先生を偲び、これまで読んできたものから、つよく記憶に残った作品を5つご紹介したいと思います。


★mono sasiがオススメする、浅見光彦シリーズ5選



藍色回廊殺人事件

徳島県・吉野川可動堰問題に絡んだ事件を追う社会派ミステリー。賛否の割れる可動堰問題もさることながら、河川域に住む人々の思いが作品に深い陰影を与える、風土色の強い作品に仕上がっている。なお「藍色回廊」とは、当時、徳島県が「阿波歴史文化回廊構想」を掲げて、吉野川流域を「藍色回廊」と名付けたことに由来する。また「藍色」とは、かつてこの流域が、藍染の産地だったことから付けられている。旅情ミステリー作家として名高い内田先生だが、社会派の作品もまた味わい深い。



高千穂伝説殺人事件

内田作品のタイトルには、地名+殺人事件の組み合わせが多く採用されている。こうした組み合わせは、一見すると、読者に無味乾燥な印象をあたえ、食指を伸ばしづらいことも否めない。しかし、本書を読んだ者からすれば、嫌厭するのは本当にもったいない。手に汗にぎる展開と、ラストまで一気読み必至の本書は、内田作品の地名+殺人事件シリーズの中でも屈指のおもしろさを誇る。本作に登場するヒロイン・本沢千恵子は、浅見光彦最後の事件と銘打たれた「遺譜」においても、重要な役回りで登場することになる。



不知火海

『鐘』『箱庭』『蜃気楼』につづく文字シリーズの第4弾。熊本県と鹿児島県にまたがる八代海では、たびたび”不知火”という自然現象が観測されている。不知火とは、沖合に浮かんだ漁船の灯火が、温度差の生じた空気層にあたり光が増殖する、蜃気楼の一種である。本作では、夜の沖合にならぶ鬼火のような幻想的な光景を、男女の深まりを示す象徴的なシーンにもってきたところに、私はグッと掴まれてしまった。また秀逸なプロローグにも注目していただきたい。当時高校一年生の中川雅子さんが発表した『見知らぬわが町』を、本書で知ったことも付記しておく。



化生の海

ニッカウヰスキーで有名な北海道・余市を訪れた浅見光彦は、5年前、父親が不慮の死を遂げたという娘・園子から事件のあらましを聞き、独自の捜査に乗り出すが……。歴史・伝説・童謡などの多くのモチーフを作品に取り込む内田作品だが、本作は「北前船」をキーワードに置いた500ページを超える長編小説だ。第1章の余市川にかかる橋のたもとから、娘が父親を述懐するシーンにひとたび引き込まれれば、あれよあれよという間に、結末までたどり着くこと間違いなし。「北前船」という歴史モチーフを背景に、日本海のあらぶる波風と、娘に対する父親の想いが、読者の胸に切々と吹き込んでくる、シリーズ指折りの出来栄えとなっている。



中央構造帯 上下巻

「巨大銀行」と「将門の祟り」とをモチーフに、バブル崩壊後の世相を取り込んだ社会派ミステリー。「将門塚」の隣に建つ日本長期産業銀行のエリート社員が、次々と将門ゆかりの地で謎の死を遂げる。調査に乗り出した浅見光彦は、その発端が終戦末期に起こったある悲劇と、ひとつながりになっていることを見出してゆく。銀行員が次々と犠牲になり事件が拡大していく過程が、謎が謎を呼び、読者の胸をワクワクさせてくれる。将門祭りなどのニュースに接すると、本書を思い出すまでになった。将門の怨霊・祟りというエッセンスが非常に上手く機能している。

以上、5作品をご紹介しました。お気づきになりましたでしょうか。実はピックアップした作品の傾向には共通点があるのです。というのも、いずれの作品も重厚な作風で、社会派ミステリーと呼ばれるところに特徴があります。地名+殺人事件に代表される旅情ミステリーには、長さという点であっという間に読み終えてしまうため、よりスケールの大きい作風を好む傾向があるようです。

本を読む習慣がなかった私にとって、本を読む楽しさを教えてくれたのは、浅見光彦シリーズに手を伸ばしたことがきっかけでした。高校時代から読み継いできたシリーズ作品が読めないことを思うと非常に残念でなりません。本の世界に導いてくださった内田先生へ感謝を申し上げるとともに、心よりお悔みを申し上げます。合掌。


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mono sashi
mono sashi さん本が好き!1級(書評数:91 件)

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ごめんちゃい。
(2019/11/16)

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