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表題のデンドロカカリアでは、主人公のコモン君は突然顔がひっくり返ると植物に変身してしまう・・・ギリシャ神話をモチーフにし、戦後間もなくに発表された、安部公房流の変身譚。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
  • 水中都市・デンドロカカリヤ
  • by
  • 出版社:新潮社
水中都市・デンドロカカリヤ
また昔話から・・・僕はこれまで小説をあまり読んでこなかったのだけれど、安部公房の短編小説は高校生の頃、当時出たばかりの文庫本で読んで、強い印象を受けた記憶がある。何故読もうとしたのか覚えてないのだが。

安部公房は1924年3月生まれで、1923年8月生まれの司馬遼太郎と同じく、僕の亡くなった父と同世代だった。司馬と僕の父は専門学校を卒業後軍に徴兵された(司馬は陸軍、父は海軍)。しかし安部は大学の医学部生だったため、軍隊には入らず敗戦を迎えた。また安部は満州育ちだったことも司馬や私の父との大きな違いだ。

安部や司馬と僕の父を並べる理由はあまりないのだけれど、ある時、司馬の書いたものから、彼が戦時中は父と似たような境遇だったことを知り、司馬の著作から戦時中の父を想像したりした。

しかし、安部の作品からは戦時中かれが何を思って過ごしたかを直接伺うことはできそうにない。

ではあるが・・・この、敗戦から丁度4年経った1949年8月に発表された短編小説「デンドロカカリア」には、どこか敗戦後の、というか、当時はまだ連合軍の占領下にあった、日本人の生き方への失望感が感じられないだろうか。

突然、顔が裏返って全身が植物に変身する発作を起こすようになったコモン君は、ある日女文字でかかれた手紙を受取る。

あなたが必要です。それがあなたの運命です。
明日の三時に、(珈琲舗)カンランで・・・・
Kより

Kが誰か心当たりがないのにコモン君は、それが未知の恋人からだと決めつけていそいそとその店に行くと、見知らぬ黒い詰襟の大男がやってくる・・・

その大男は植物園の園長で、コモン君は実はデンドロカカリア・クレピディフォリアという珍しいキク科の植物だという。因みにこの植物は小笠原諸島に実在するらしいです。

お終いのシーンで、コモン君は植物園の用意した温室で、最後の変身を遂げる。
コモン君は弱々しくうなずいた。
眼を閉じ、まだ昇っていない太陽の方へ静かに両手を差しのべた。
たちまちコモン君は消え、その後に、菊のような葉をつけた、あまり見栄えのしない樹が立っていた。

死んだわけではないコモン君は絶望する必要はないのかも知れない。でも、控え目にみても、作者が未来に大きな希望を抱いているようには、僕には読めなかったなあ。
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  • 掲載日:2016/01/15
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この書評へのコメント

  1. ぽんきち2016-01-15 21:51

    Dendrocacalia crepidifolia、和名はワダンノキというようですね。キク科としては珍しい木本で、同じ属に1種しかなく、小笠原の固有種だそうです。

    http://www.t-webcity.com/~plantdan/mokuhon/syousai/wagyou/wadannnoki.html

    おかげさまで勉強になりました。

    著者がなぜこの木を選んだのか、なかなか意味深長な感じがします。

  2. 三太郎2016-01-15 22:05

    ほんきちさん、こんにちは。

    安部公房の最後の作品、カンガルー・ノートを読もうとしていて、高校生の頃、デンドロカカリアに強い印象を受けたことを思い出したのですよ。

    安部は戦前の英才教育を受けた秀才だったようです。彼の作家人生が、このような作品から始まったことは記憶しておくべきかな。終戦直後の日本社会に対するシニカルな態度を感じることもできますよね。

  3. やどかり2024-01-09 09:39

    デンドロカカリヤ好きたちを発見!安部公房はデンドロカカリヤを植物園で観たのだけど、実際に小笠原諸島のデンドロカカリヤは見てない説を唱えた本があるのです。

  4. 三太郎2024-01-09 09:52

    なるほど、小石川植物園にあったのですね。当時小笠原へは行けなかったでしょうからね。

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