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人を捨て神になれると思ったことがまちがいだった。家臣の心をもっと見るべきだった。

  • 續 信長私記 (講談社文庫)【Kindle】
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  • 出版社:講談社
續 信長私記 (講談社文庫)【Kindle】
「信長私記」は、桶狭間前夜で終わっていた。
「續———」は、桶狭間から始まり、本能寺前夜で終わる。


俺様は唯一絶対の存在だから、いちいち「俺は」とか「俺が」とか、書かなくてもいいのだ。
桶狭間で奇跡の大勝利をおさめてから、信長の心の中に、そんな思いが芽生えたのかもしれない。
信長の一人称で書かれているのは、前の巻と同じだが、「續———」では、信長自身を示す主語が省かれている。「俺が」とか「俺は」とか「余は」とか、いっさい書かれていないのだ。

信長は戦に強い。戦争の天才なのかもしれない。
しかし、連戦連勝というわけではない。負けることもけっこうあるが、粘り強く、勝つまでいくさをやめない。勝つためには手段を選ばない。
敵を欺くためには味方だって欺く。
家臣であろうが肉親であろうが、勝つためには見殺しにする。
約束だって平然と破る。戦争なのだ、勝利こそ正義だといわんばかりに。
血を見るのが好きなのは、生まれついての性分かもしれない。
虐殺の血煙に笑みを浮かべる。

そうやって勝利を積み重ね、天下一統を目前にしたとき、信長の脳裡に夢まぼろしのように浮かぶのは、海を渡り大陸を駆け、広大な世界を侵略し征服し続ける己の姿———もはや神である。

だが、しょせんは人なのだ。だれかに胸の内を開きたくなることもある。
そんなとき話し相手になるのが、祐筆の武井夕庵だ。
もともとは斎藤道三に仕えていた、信長より二十も年上の有能な吏僚。
書き物をしている夕庵に、信長が顔を近づけていくと、もう歳だから衆道はごめんと真顔で手を振るおちゃめな老人だ。
それから料理人の坪内石斎。美小姓の森乱丸。
黒人小姓のサスケの黒い膚は、世界制覇の夢をかきたてる。

人を捨て唯一絶対の神になれると思ったことが間違いだった。
神に叛くものなどいないと慢心があった。
家臣の心をもっと見るべきだった。

本能寺前夜。
信長は乱丸に腰をもませ、(もうすぐ五十か)とつぶやいて、眠りについたのだった。

  • 掲載日:2026/05/23
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