喜和子さんと知り合ったのは、十五年ほど前のことです。
主人公のわたしは、小説家になる前でした。
出会った場所は上野公園のベンチです。
当時のわたしはフリーライターで、小説はひそかに書いていた程度です。
小説は誰にも認められておらず、
フリーの記事でなんとか食いつないでいたのです。
上野の国際子ども図書館を取材した帰りに、
わたしはぶらぶらと上野公園に立ち寄り、ベンチに座っていました。
五月の終わり頃で、うららかなとてもいい日でした。
動物園の方向からやってきたその人は、短くて白い髪型で、
端切れをつないだコートを着て孔雀を思わせるようないでたちでした。
「ああ、くたびれた」
まったく躊躇なくわたしの隣に音を立てて座ります。
そして間髪入れずにポケットから煙草を取り出して火をつけたのです。
煙草が苦手なわたしは大きく咳きこみ、
隣の女性とのやり取りが始まりました。喜和子さんとの出会いです。
傍若無人な感じがしましたが、変り者という書き方で
読者を強引に引っ張っていきます。
用事はなに、どんな仕事なのと話が進むにつれ、
小説を書いているとわたしが答えると、喜和子さんがとても喜んだのです。
次に会ったとき、わたしは喜和子さんの小さな長屋の一室に招待され、
お願いをされます。
上野の図書館のことを書いてみないかと言うのです。
図書館の歴史をなぞった小説で、主人公は図書館自身であるという
イメージらしいのです。
自分で書こうと思っていだけれど、どうもうまくいかなさそうで、
小説を書いているわたしに託したいとのことでした。
ここから奇妙な友情が始まります。
物語が進むにつれて、なぜ喜和子さんがそんなお願いをしたのか、
背景が少しずつ明らかにされていきます。
図書館の小説も、断片的に本篇にはさまる形で書かれていくのです。
本が好き! で評判が良くて手に取りました。
中島京子さんの作品は、小さいおうちを呼んで以来で久しぶりです。
あと二冊ほど積んであります。
演出が控えめなところが特徴的で、女性に人気があるように見受けました。
自分的には少し乗り切れない感があったのですが、
それでも喜和子さんのキャラクターは魅力的でした。
文章を丹念に拾って読む人に好まれるように思います。
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