古の旅人たちは山坂を越えて熊野古道を辿り、熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社を参詣する熊野詣に神仏の光を求めたといいます。今も昔も熊野を訪れる旅人にとって、このエリアは旅の中心になる場所。熊野三山の起源は自然崇拝にあったといわれています。神仏習合の後に熊野の神々が熊野権現と呼ばれ、熊野詣が盛んになるにつれ薄れていきましたが、今も尚、この地が特別なエネルギーの降り注ぐ場所であることが感じられます。
熊野特有の、濃密な緑に覆われた巨岩がひっそりと息づくこのエリアの神社や祭祀跡は、自然のエネルギーが凝縮された磁場のような場所。熊野が生んだエコロジスト南方熊楠が、明治時代に神社合祀の嵐から守った御神木の引作の大楠や、神木のイヌマキのような美しい巨樹の姿からは、古代より熊野は、人々のさまざまな思いやりや願いを受けとめてきた祈りの森であった記憶を、しっかりと感じとることができるでしょう。熊野ならではの巨石と巨樹が同居する森は、そこに立つだけで私たちの心を捕らえ、ここではない何処へ、異界の時空間へと誘うのです。
陸の孤島と呼ばれる熊野の中でも、奈良県最南部に位置する十津川村から和歌山県北山村にかけての奥熊野エリアは、急峻な山と谷が織りなす地形に、カモシカや猪、熊などの野生動物が多く生息する日本有数の秘境地帯です。十津川、北山ともに良質の温泉が湧き、緑豊かな山々の間を縫って奇岩が続く壮大な渓谷や、夏でも冷たい水が流れる谷川、滝と、まさに熊野ならではの「水と緑の王国」を感じさせる場所でもあります。
熊野古道とは、大きく捉えると熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社という熊野三山を結ぶ参詣道のこと。古の人々への感謝、自然への畏敬の念を持ちながら古道を歩き終えれば、知らないうちに、いつの間にか心の重荷が軽くなっているのを実感するでしょう。古道を歩いて気持よく汗をかき身体の細胞が活性化することと、立ち止まって静かに祈るという行為が相乗効果を生み、歩いただけで心身が癒され新鮮な気持ちになれます。これこそが、「祈りの道」熊野古道体験の醍醐味だといえます。
熊野にはかつて巨大な火山があり、1400万年前に噴火した際、日本最大規模のカルデラがここに形成されました。その大火山の影響で、この地方には多くの温泉が湧いています。 那智勝浦温泉のように海の近くに湧く温泉もあれば、湯の峰温泉・川湯温泉・渡瀬温泉を含む本宮温泉郷のような山あいの温泉、そして湯量が豊富で、全村すべての温泉施設が源泉かけ流しという十津川温泉、湯泉地温泉といった山奥の温泉など、さまざまな温泉郷が点在しています。また、渓谷の自然を活かした露天風呂も多く、山里ならではのひなびた湯治場の和み感が味わえるとともに、勇壮な大自然を丸ごと体感できる温泉を楽しめるでしょう。
スピリチュアルバースアドバイザー、歌手。22 歳で渡米し、カリフォルニア山中にて結婚、出産。屋久島を経て、熊野の山奥に移住。三男一女の母親として、持続可能な未来を目指し自然と共存するシンプルな暮らしを実践中。電気もガスも使わない山奥暮らしや、自宅出産、自然育児体験をもとに、母と子の魂の絆を大切にしたスピリチュアルなお産と子育てに関する講演活動を行っている。
また、知られざる熊野のスピリチュアルスポットや滝、川などの自然を巡る旅を企画し、夫婦ふたりで旅のガイドを行っている。
主な作品に、映画音楽「みえない学校」、アルバム「ひとつらなりのいのち」他。著作に「奥熊野かづら工房」(さんびいむ)、「地球のまわる音を聞きながら」(光文社)
ホームページ : http://www.ki-art.net