忘れられた巨人
失った記憶は取り戻したい。しかし、それが悪い記憶だったらどうだろう?
カズオ・イシグロの作品には、上っ面な感想に逃げられない厳しさがある。その意味を捉えないと、物語が読め…
失った記憶は取り戻したい。しかし、それが悪い記憶だったらどうだろう?
カズオ・イシグロの作品には、上っ面な感想に逃げられない厳しさがある。その意味を捉えないと、物語が読め…
浮き彫りにされるのは、夜空に切り込んでいく搭乗員たちの使命感。
星や月のかすかな光を頼って郵便物を運ぶ夜間飛行。その荷は、命よりも大切という。「三万人の恋人たちに生…
普通の恋が、どうしてこんなに感動的に描けるんだろう。
心臓が早鐘を打つ、燃えあがるような大恋愛……とは正反対の物語。読者はきっと「平凡な二人の姿がなぜ、こ…
飼い主のみなさん、猫に感謝しましょう。
「うちの猫はわがままで困る、と言う人は、そのわがままさ加減を愛している」。作者の家に愛猫トトが来てか…
完全なものへの愛、不完全なものへの愛。
悲しい物語とするのは、あたらないと思う。80分しか記憶がもたない博士と家政婦親子の間に横たわる、幸福…
秩序は去った中で、毅然と生きることの難しさ。
周囲を振り回すスカーレットが、レットの愛をもすり切らせてしまい…という展開で完結。何とも彼女らしい …
3人の女の、歪な友情。
3人の女性が、ある男を自分たちのものにしようとして引き起こした悲劇。幼少期の事件と重ね合わせつつ、大…
人の都合で生み出された存在に、情けをかけるべきだろうか?
共感しえない者の嘆きや怒りに思いを至らせることが、読書の醍醐味だ。ディストピアを描いたこの長編で、私…
怪物と、それを生み出した科学者。どちらが悪い?
言わずと知れた物語には、底なしの深みがあった。醜悪な怪物の姿が、人間の持つ歪さを鏡のように映していく…
「終戦」と「戦後」を結び付けるべく、情熱が激突した一日。
「終わらせる」ということは、実はけっこう難しい。膨大な労力を投下していたり、多くの人間を巻き込んで…
どんなに快適であっても、帰してくれないそれは「魔の山」なのです。
社会人になった。こうして自由に文章を綴ることも難しくなるだろう。文体をより凝縮させ、短い文で読者を…
「わたしは、作家か、ジャーナリストになりたい」。本が好き、文章が好きな、すべての人へ。
自分用に書いた日記と、公表を期して清書した日記、「アンネの日記」が二種類存在したことはあまりにも…
とにかく面白い傑作長編。富貴に目が眩む世の中にあって、大切なものを見出すのは難しいことなんですね。
貧しい鍛冶屋のジョーに養われて育った少年ピップは、クリスマス・イヴの夜、寂しい墓地で脱獄囚の男と…
「わが尻啖え!」。乱世を踊り歩いた「子ども」の一代記。
個性豊かな戦国武将のうちでも、ひときわ異彩を放つ雑賀孫市は、信長最強の敵である石山本願寺の侍大…
一族は過ぎ去った。それは何もないのと同じであった。最後の数十ページで「孤独」は姿を現し、完成する。
蜃気楼の村マコンド。その草創、隆盛、衰退、ついには廃墟と化すまでのめくるめく百年を通じて、村…
「文化資本」という言葉をご存知ですか。僕にとっては、なかなか恐ろしい言葉です。
「文化資本」という概念を用いて、教育を分析した一冊。支配階級のもつ文化が学校システムにおいて収…
類まれな才能を葬り去った、政治の苦み。
肥前佐賀藩に生まれた江藤新平。国政への参画と自分の栄達をかけて藩の外交を担い、京へ上った。卓抜…
精神なき職業、精神なきシステム、それらに征服されつつある精神なき人間。
営利の追求を敵視するピューリタニズムの経済倫理が実は近代資本主義の生誕に大きく貢献したのだという…
誰もが、「見られている」と思って暮らしている。
測量士のKは深い雪の中に横たわる村に到着するが、仕事を依頼された城の伯爵家からは何の連絡もない。…
真実の中を生きていたいなら、不愉快な現実から目を逸らしてはいけない。
優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終…