ペルセウス座流星群 (ファインダーズ古書店より)



人は自身の認識の枠内にあるものだけを現実世界と思い込み生きがちだ。しかしその世界は矮小で脆弱、不確かでどこか虚ろだ。本書に描かれているのは、そんな現実世界にふと現出した未知と人々との邂逅の物語である。
何気ない日常のふとした瞬間、これまでの見知った世界とは異質などこかへとつながる扉がひらき、そのむこう…

本が好き! 1級
書評数:154 件
得票数:858 票
小説を読んだり書いたり。
日本やロシアの純文学を中心として、童話やミステリ小説にも手を出しています。そしてその何倍もの漫画を読んでいます。
本が好きなのです。



人は自身の認識の枠内にあるものだけを現実世界と思い込み生きがちだ。しかしその世界は矮小で脆弱、不確かでどこか虚ろだ。本書に描かれているのは、そんな現実世界にふと現出した未知と人々との邂逅の物語である。
何気ない日常のふとした瞬間、これまでの見知った世界とは異質などこかへとつながる扉がひらき、そのむこう…



人にさまざまあるように、働くことが与えてくれるものにもさまざまあり、ある人にとってはそれが生きがいであったり、将来の夢であったりする。この本に書かれてあるのは、そんな一個の人と仕事と人生との形である。
脊椎性筋委縮症(SMA)という病気がある。脊椎の神経細胞がうまく機能せず、脳の命令が筋肉へとスムーズ…




複雑怪奇な構造を持つ迷路館を舞台にした連続殺人事件の真相を、作中作という形式を用いて物語った本格ミステリ小説だ。最後の最後に提示されるこの謎の出口は、読む者を次の綾辻ワールドへと導く入り口ともなろう。
風変わりな設計をすることで知られる建築家中村青司が手がけ、推理小説の大家宮垣葉太郎が隠居生活を送る迷…




冬のムーミン谷は暗くて真っ白で、寒くて静か、そして厳しくて少しよそよそしい。けれどもそんな中だからこそ見えてくる本当のことがあるし、そうした経験はきっと自分を大きくたくましくもしてくれる。
ムーミン谷に冬が訪れる。景色は一面真っ白に染まり、ムーミンたちの暮らす家もまた深い雪の中に閉ざされて…





ヨーロッパ旅行中の村上春樹がその三年にも及ぶ旅の中で感じ、考えたことを思うままにつづった文章スケッチがまとめられている。素朴ではあるがみずみずしく、ほほえましい風景を読むにつけ、旅をしたくなってくる。
本書は作家・村上春樹が一九八六年の秋からのおよそ三年のあいだ、ギリシャやイタリアで過ごした日々のこと…





国境のあちらとこちら、大人と子ども、生と死、〈ぼくら〉は〈ぼくら〉――この小説に書きつづられてある記録は、戦時下の田舎町で双子の〈ぼくら〉が生きたありのままの現実であり、たしかな証である。
戦争が激化する中、〈ぼくら〉はおかあさんに連れられて〈大きな町〉から〈小さな町〉へと旅をし、そこに暮…




思想が投げかけ落とす光と影の混沌の中、真の生き方を見いだそうとする少年の苦悩を描いたヘルマン・ヘッセ著の一冊である。内容は少々かたいかもしれないが、そこからは著者の強い意志の力を感じることができる。
知性や道徳によって明るく照らし出された第一の世界と、暴力や悪徳によって支配された暗い第二の世界――ラ…




魂の不自由に苦悩させられる少年の不幸を描き、人間性を蔑ろにする社会や教育の在り方を糾弾した一冊だ。色彩に乏しく杓子定規な人間社会と美しく豊かな自然の風景とのコントラストが見事であり、かなしくもあった。
自然に親しみ、魚釣りを何よりの楽しみとするハンス少年はしかし、彼の生まれ育ったその町切っての人並み外…




文楽に魅入られ、芸の道に生きるひとりの太夫の姿、そしてその人間関係を通して、文楽という世界や人間というものの奥深さを描いている。文楽と自分とのつながりが見え、少しだけお近づきになれたような気がする。
観客が眼差しを向け、遣い手が人形をあやつるその舞台の横――『床』と呼ばれる盆の上では太夫が語り、三味…




川端康成の作による掌編を全百編以上を収録している。悲哀やぬくもり、おそろしさや美しさ、官能やみずみずしさといったものを感じさせる情景、心情が掌の内に凝縮されており、奥深い味わいを堪能することができる。
本書に収録されているのは、日本を代表する作家・川端康成が四十余年にわたって書き続けたのだという百二十…




孤独な旅人クヌルプを主人公にした、ヘルマン・ヘッセ著の三つの短編が収録されている。そこに描かれてあるのは、孤高などという気高いものではない、あくまでも孤独な魂の旅の物語だ。しかし無性に惹きつけられる。
本作の主人公クヌルプは、魂の孤独を信じ、自由を求めて流浪する旅人だ。 その気になれば優れた職人にな…




農薬、食品添加物、生体濃縮、合成洗剤、排気ガスといったものの毒性についての理解がまだまだ不十分であった時代に、それらが環境や人体へ及ぼす影響について言及した小説だ。時代を越えて訴えかけてくる力がある。
数年前、中国でつくられた農作物に多量の農薬が残留しているというので問題になった。日本のメディアは中国…




ゆるやかな時の流れる町を舞台に、映画とサンドイッチ、そしてスープをめぐる人々の物語が繰り広げられる。人と人との距離感がうまく表現されており、読んでいてほっとあたたかなため息が出てくる一冊だ。
失業中の青年・大里(通称「オーリィ」)が越してきたのは、二両編成の路面電車が走る町、教会の横に建って…




本書に収録されている二十一編はいずれもしみじみとした余韻を与えてくれる素直な物語で、そんな淡い味わいがなんともいえず魅力的である。ふとした瞬間に読み返したくなり、読めば心にじわっと染み入ってくる。
愛犬デュークが死んだその翌日、電車の中で知り合った少年と過ごす一日を描いたお話「デューク」、七歳の少…




身近に潜んでいるかもしれない狂気の人間の恐怖に加え、現代社会が直面しているモラルや他愛、精神的な豊かさといったものの欠如を描いた読み応えのある一冊だ。非常に緻密に計算された感があり、完成度は高い。
生命保険会社で働く若槻は、ある日呼び出されて赴いた先の顧客の家でひとりの少年の首吊り死体を発見するの…




オーソドックスなタイプの本格ミステリ小説ではあるが、舞台や小道具を活かした演出には独自性がみられておもしろい。読みやすい文章は味気ないということもなく、著者の確かな実力を感じさせる一冊となっている。
その敷地内に三つの水車を有する『水車館』を舞台にした本作は、綾辻行人著〈館シリーズ〉の第二弾である。…




津波に流されるがまま、ムーミン一家の運命はあてもなくさまよう。しかしその先に待っているのが必ずしも悲劇であるとは限らないし、仮に悲劇であったとしても、それがその人にとっての不幸せであるとは限らない。
小さな山の上にある火山が噴火して、その灰がムーミン谷に降り注ぐ。地面が震え、次いで鈍いどよめきととも…




地方医療の現場を舞台にしていながら、それを強く意識させないつくりとなっており、およそ純粋に人間ドラマを描いた物語として読むことができる。登場人物もユニークで、読んでいて心あたたまる思いがした。
主人公の栗原一止(いちと)は、信州にある年中無休二十四時間対応の総合病院に勤めて五年目の内科医である…




ひとりの花魁をめぐる不可解な事件の謎とその真相とを描いたミステリ風時代小説である。時代もの・吉原ものに馴染みのない人でも気軽に読むことのできるやさしいつくりとなっている一方、物語としての完成度も高い。
松井今朝子著の本作は、江戸の吉原を舞台にした時代小説である。タイトルに偽りなく、吉原に不案内な読者を…




戦争という巨大な渦の中に呑み込まれたひとりの少女の死と、一冊のノートに書き継がれる少女たちの物語が交錯していく。魅力的な人物造形といい、巧妙な構成といい、たいへんに味わい深い一冊であった。
都立の女学校に通う女学生・阿部欣子(あべきんこ)の綽名は「イブ」――イヴでなく、異分子を表すイブであ…