書評でつながる読書コミュニティ
  1. HOME
  2. 書評一覧
  3. 最後の晩餐の作り方 みかん星人さんの 書評
お知らせ:5月18日AM3:00~7:00の間メンテナンスのためサービスを一時停止いたします。

献本書評

書評 最後の晩餐の作り方


最後の晩餐の作り方 最後までリズムがつかめない、というか、「どこかを読み落としていないか?」と緊張仕切りの読書となりました。。。
 世の中にはさまざまな【料理本】がある。私が日々の調理に愛用しているのは、「婦人之友社」から出ている『毎日のお惣菜シリーズ』で、基本的な料理の作り方が懇切丁寧に書かれていて実にありがたい。


 【料理本】と言うと、こういった「実用的な料理本」が一般的だと思うが、「読み物として面白い料理本」も、世の中にはたくさんある。

 この『最後の晩餐の作り方』の中にも何度か出てくるブリア=サヴァラン氏著の『美味礼賛』は、「実用的な料理本」とは言えないけれども、世界的に有名な、名【料理本】と言えるだろう。


 みかん星人が料理好きとなった一因に、小野正吉氏によって書かれた『西洋料理秘訣集』との出逢いがある。昭和44年に出版された、カバーの折り返しに書かれた推薦文は遠藤周作先生だったりするこの本の19版を持っているのだが、例えばこんな素晴らしい事が書かれている。
「西洋料理では砂糖をほとんど使わないので、最後に甘味がほしくなるのです。しかし、甘ければよいというものではありません。デザートはデザインを食べるものなのです。美しいデザインで心ゆくまで満足感を引き出すのです」

 ただし、食後のコーヒーは甘いほど良い。ダブルで注文したエスプレッソに、大きな結晶となった砂糖を飽和状態になるまで入れ、少しばかり攪拌したところを飲むのが、最高。

 小野氏の本もそうなのだが、【料理本】だからといって「料理の仕方」が書かれているとは限りない。我が最愛の【料理本】である『美食の歓び』は最も敬愛する高橋忠之氏の名著であるが、
その扉には、高橋シェフの自筆サインと落款とともに、
「美食学とは食べるという行為にかかわるすべてのことの理論的認識である」

 と、ブリア=サヴァラン氏の言葉が掲げられている。この自筆のサインを氏から直接に頂いたのは、忘れもしない、私が初めて女性と旅行をしたときに逗留したホテルが、あの「志摩観光ホテル」だったからにほかならない。このホテル、今はどうか知らぬが、20年前の当時は世界で最も美味しい「鮑のステーキ」が食べられる場所であった。
 で、この本に書かれている「レシピ」は、例えば、こうだ。
【伊勢海老のムース】
「ファルス・ムースリーヌ・ド・ラングーストを型に入れて湯煎にかける。伊勢海老はクールブイヨンでブランシールし、クーを割り、殻から取り出しトリュフとともに添える。ソースナンテュアをムースに注ぐ。シブレットのアッシェを加えたソースブールブランをクーに注ぎ供する」

・・・これを読んで「美味そう!」と思えたなら、幸せ者だろう。


  閑話休題


 この『最後の晩餐の作り方』も、また見事な【料理本】になっていた。冒頭で紹介される「ブリニ」は、実に丁寧に作り方が書かれている。「煙が出るまでフライパンを熱する」なんて事まで書いてある丁寧さだ。これに添える「キャヴィア」に関する解説は一読の価値あり。これを食する際に飲むべきなのが、ウォッカなのかシャンパンなのかに触れていないのはご愛嬌。


 一人称の主人公・タークィンは、こうして食に関する薀蓄を披露しながら、時に芸術を語り、人の心の繊細なるを描写しながら、人生の重大な問題、もしくは唯一の関心事に収束してゆく。
 つまり、「食べることは、別れを告げることだ」というタークィンの哲学は、かなり変わっているが、実は私もこれに尽きると同感している。


 命を取り込んで命を永らえる。「命」は罪深い存在だ・・・という事を、こんな側面から描写するのも、面白いのかもしれない。
 ある意味で【料理】とは「どれほど美しく、その命を終わらせてやるのか」という行為なのだ。

 年代物のワインを開けるときなどもそうだ。最高のタイミングで、相応しい場所と、最高の料理でマリアージュする。もちろん、その意味を理解できるパートナーも必要だ。こうした「ワインとの別れ」が完璧にできたとき、もしかしたら私もタークィンと同類項になっているのかもしれない。


 ただし。。。この本では、命を取り込むその行為が、見慣れたそれとは違うのが、肝。そしてまた、その取り込んだ命が、血や肉にならず、心の糧となるというその感覚の説得力には、不思議と納得してしまった。
(ブログに2006年9月13日掲載の記事を改訂転載)
レーティング:
掲載日:2010/07/31
ニックネーム: みかん星人 レベル: 本が好き! 1級

分野を問わず、好奇心の赴くまま、同時に数冊を読み進めてしまう、しかしながら、恐ろしく遅読のおぢさん。

読んで楽しい: 1票
素晴らしい洞察: 2票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

 
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

 

『最後の晩餐の作り方』の本が好き!書評

empty
司書つかさ

大のフランス好きのイギリス人。芸術とグルメを愛し、博識多才。 彼が語る、人生と美食の数々。 しかし、どうやら、新婚夫婦を尾行しているらしく…… はたして、その理由と彼の正体は?

empty
tanami

残念ながら私の知識不足で、惑わされたまま読み終えてしまいました。フランス・イギリスの文化や文学がもう少しわかっていたら、良かったのにと思わずにいられません。著者の罠にまんまと嵌ってしまいました。

 |  書評を読む  | 書評者 / tanami
empty
きし

話題作だったというのも頷けます。さして厚い文庫ではないのに、山ほどの文字を読んだ気がしました。いえ、長い話を聴いた感じですね。

 |  書評を読む(901文字)  | 書評者 / きし
empty
みかん星人

最後までリズムがつかめない、というか、「どこかを読み落としていないか?」と緊張仕切りの読書となりました。。。

empty
佐々木

料理をキーとしたヨーロッパ世界のうんちくが、高尚なものも下世話なものもないまぜになって、計算とも思いつきとも受け取れる文体で押し寄せてくる、そんな感じです。

 |  書評を開く | (外部ブログ)  | 書評者 / 佐々木
empty
Roko

この本を書いたランチェスター氏はイギリス人なのだが、とんでもない食通らしい。おまけに頭の中には薀蓄だらけ!おまけに皮肉屋で、自虐的で、自惚れ屋ときている。

 |  書評を読む(480文字)  | 書評者 / Roko
empty
さくらぼん

すいません、これは本当に自分の好みではありませんでした(−−;書評もかなり辛口になってしまいました。

empty
キア

ここまで読むのが大変だった小説は久しぶりです。読み終えた達成感は大きい。

 |  書評を開く | (外部ブログ)  | 書評者 / キア
empty
碧

久しぶりの翻訳推理ものだったのもあり、戸惑いましたが、悪食ものじゃなくてよかったです(苦笑)

 |  書評を開く | (外部ブログ)  | 書評者 /
empty
dada2

【ネタバレ注意!】
深追いしなければ、さくさく読めますよ。深追いするとキリないです。

 |  書評を開く | (外部ブログ)  | 書評者 / dada2
empty
カトキチ

やっと読みました、いやぁヘトヘトです、私向きな本じゃなかった、元々私も本を読んでる方ではないので、初心者にはおすすめできませんな。

平均レーティング

本のカテゴリ

ページトップへ