書評 花宵道中

-
大変に面白く、なんども行きつ戻りつして読んでしまった。
-
「女による女のためのR-18文学賞」の第5回大賞を受賞した小説。つまりは、官能小説(死語?)なのだが、私には、あまりエロチックには感じられなかった。
一つには、舞台が江戸・吉原なので、絵空事に感じてしまったり、「遊女」に関してエロスというものを感じられなかったという部分があると思う。(まあ、この辺りが「女性が読む官能小説」という事なのか?)
そして、もう一点は、この『花宵道中』という小説の構造が大変に素晴らしく、「官能」という小さい括りを払拭してしまったからだ。そう、この『花宵道中』は、なによりも先ず小説としての完成度が高い。
。。。。以下、本の内容に踏み込んでます。。。。
この『花宵道中』は、表題作の他に四編の物語が収録されていて、総て『花宵道中』のヒロイン・朝霧という遊女に少なからず関わる物語だ。どの物語も同じ「山田屋」という遊郭を舞台とし、同じ人物、同じ出来事が、いろんな側面から描き出される。
もちろん、こういう構造は珍しいものではない。『エレファント』という映画も似たような構造だし、『スター・ウォーズ』のルークの物語とアナキンの物語も、似たようなもの。よく耳にする「スピンアウト、スピンオフ」という作品群もまた、よりそのテーマ(物語)を深く、面白くさせる効果があって、例えば『600万ドルの男』と『バイオニック・ジェミー』とか、それこそ『オズの魔法使い』に対する『ウィキッド』など、枚挙に遑がない。
ただ、一冊の中篇集において、表題作を取り巻くようにして物語が綴られ、それが、表題作が伝えたかったテーマを徐々に浮き上がらせてゆくさまは、大変にドラマチックな読書体験だ。
そのテーマだが、男の私が感じ取っても仕方ないけれど、「恋の魔力」という事だろうと思う。
ヒロインを、吉原、遊郭という社会しか知らない遊女という立場に置いて、「一夜だけの妻になる」ことを日常にしている中に、「特別な貴方」を感じさせてしまう仕組・仕掛を通して、「恋」や「官能」を描き出す。
みかん星人が特に「上手いなぁ」と感じたのは、貧しい村に生まれた娘が、売られてやってきた遊郭で、初めて「米の飯」を食べる事で、遊女という位置に安住するエピソード。それが史実か否かはともかくも、その状況設定は説得力がある。
もちろん、その「史実かどうか」には疑問が残る。殊更に、当時の「郭言葉」というような表現を使って読者を幻惑させるのも、今日的な価値観で「恋愛」を描くのも、どことなく疑問が残ってしまう。が、設定と、きちんと統一された文体のお陰で、とても上手な「まぼろし」が描かれていて、ともかく、いろんな意味で、とても、面白い小説だ。
最後に「官能小説」としての部分だが。。。。
少し前に、とあるブロクで、
「『恋愛映画』ってカテゴリーには意味がない」
という記事を読んで、私は大いに納得した。だって、恋愛を全く描いてない映画なんて、どれほどあるのだろう?。『非恋愛映画』というカテゴリーに入る映画を、みかん星人は思いつかない。
と、脱線したが、この『花宵道中』に描かれる「官能」は、「心の在り様が、肉体にあらわれる様子」として描かれているように感じる。
女性に受け容れられる「官能小説」は、恋愛小説の特異ないちジャンルである、という事なのかもしれない・・・ともかく勉強になった。
(ブログに2007年3月25日掲載の記事を改訂転載)レーティング:


掲載日:2007/03/25
-
コメントするには、ログインしてください。
- 出版社:新潮社
- ページ数:
- ISBN:4103038314
- 発売日:2007年02月21日
- 価格:1470円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『花宵道中』の本が好き!書評
- empty
-
最初の一行を読んで、なんて巧い作家サンなんだ!!と驚きました。 その後はもう怒涛の勢いで一気読み。面白いです!
- empty
-
この小説が暗いのは、江戸吉原の特殊な世界の噺に思えない現実世界に通じるシリアスさがあるからではないか?
- empty
-
時は江戸時代末期、新吉原で遊女として働く女たちの切ない恋物語。遊女、というものがほとんどわからない私でも読んでいるうちになんとなく理解できました。
- empty
-
エロティックな描写も多くありますが、大いに「せつなさ」を感じる作品でした。そして、男性の僕が読んでも大いに楽しんで読むことができました! こんなに素敵な作品を女性だけのものにしておくのはもったいない! ぜひ、多くの女性たちが読んで、周りの男性にも勧めてあげてほしい本だと思います。 R−18文学賞の今…
- empty
-
艶の女行者の哀しき華道物語に涙
- empty
-
【ネタバレ注意!】
大変に面白く、なんども行きつ戻りつして読んでしまった。
- empty
-
「男のために生きる」か「男のために死ぬ」か、自分なら…と結構考えさせられてしまいました。そんな風に思える男に出会いたいものだと…。
- empty
-
きらびやかな少女小説、だと思いました。
- empty
-
人生の悲哀と不条理が全篇に満ち溢れ、圧倒的な切なさに襲われる。そして深い感嘆と感服に満たされる。 「官能小説」のカテゴリーに捉われることなく、純文学作品として、著者の思いを紡いだその物語、多くの方に触れて欲しい秀作!
- empty
-
遊女の身悶える程の官能的表現と切なさ。 久しぶりに切ない恋物語を読みました。
- empty
-
ローマンチック!イメージ豊かな乙女な小説にちょっと赤面しつつ、でも面白かった。
- empty
-
当初予想していたギトギトの官能小説ではありませんでした。確かに官能小説です。でも、もっともっと文学です。高校生・・・卒業後に読みなさい!18禁の映画よりもおすすめできます。
- empty
-
吉原の遊女なエロティックで爛れた日々。女性向けの官能小説を読んでみました。
献本書評













この書評へのコメント