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145 PV
kon吉 さん
レビュアー:
市井の人々の日々の暮らしを、その中で起こりうる感情を、ただありのままに書かせたとしたらウィリアム・トレヴァーに勝る作家はいないだろう。英語圏最高の短編作家と称されるのも納得の、味わい深い十二の作品群。
英語圏最高の短編作家と称される、ウィリアム・トレヴァーの紡ぐ12の物語。いずれも普通の人びとの普通の日々を描いている。富裕層ではないが、かといって貧困層とも言い切れないような、まさに中流の人たちが登場し、私たち読者が、現実の生活で直面しそうな出来ごとで彼らも同じように悩んでいる。

と、書くと一体それのどこが面白いのだと思われそうだが、読んでみるとすごく面白いところが著者が英語圏最高の短編作家と称される所以だろう。

『聖像』

ヌアラとコリーはお互い31歳。幼なじみの夫婦だ。夫のコリーには聖人の彫像を彫る才能がある。彼の彫る聖人像を見る度にヌアラは夫の才能に驚き、庇護してあげたいと思っている。だが、コリーの才能は生計の手段にはなっておらず現実的な職を探さなければならない。コリーは夫の才能に惚れこんでいるが、お腹に4人目の赤ちゃんがいて働くことが出来ない。幸いコリーは石切場の徒弟の職を見つけたが一年間は見習いで給金は出ない。その一年を何とか乗り越えられないものか・・・。ヌアラは言った。「ねえ、ファロウェイ夫人に頼んでみてくれない?」。・・・・・。

素直な印象の文章で、気むずかしさは感じさせない。それなのに中々意味がつかめないことがある。それでも気にせず読み進めると、物語も後半になり、ある一時点まで達すると、それまで不明瞭に感じた要所要所が突如意を決したようにつながり始め、その内情をさらし出す。著者の意図やら人物たちの悲喜こもごもの感情が波のように押し寄せて来る。

思うにこれは情報の出し方が絶妙なためで、ストーリー自体には大きなうねりは無くとも、日常を謎めいたものとして読ませてしまう著者の緻密な構成力と周到な用意によるものだ。

著者は感情の描写にとても優れたものを持っている。心理ではなく感情なのだ。怒りとか、寂しいだとか、哀しいだとかそういうことの書き方が抜群である。極度に私たちの生活に近い舞台を背景にして、なおかつ感情描写に優れているということは、それだけ読者の心に届いてくるということだ。その一方で、語り口はとても静かで淡々としている。ヌアラからもコリーからもある一定の距離を保っている。物語の風景がセピア色して見えるような、すべて100年前に終わったことのような、そんな哀切を伴っている。

『路上で』

ある女性の視点から、ある男の異常性が少しずつ語られる、回想される、また語られる、そして明らかになっていく。その過程がとてもおもしろい、そしてこわい。本書はどれもすばらしいが、私はこれが一番好きだ。

『ローズは泣いた』

池澤夏樹・世界文学全集の短編コレクションⅡにも収録されており、そこから本書を読むに至りました。著者の数多い短編の中でも傑作の部類に入るものだと思います。

全編を通して小説内の時の流れがゆるやかで読んでいて心地が良い。とても丁寧で浮ついていない誠実な印象を受ける。著者の書く作品はすべて信頼が出来る気がする。・・・例えば昼間、私に不愉快な出来事があったとする。怒りで、悲しみで、不安で、情けなさで、眠れない夜があったとする。そんな時そばにいて話を聞いてほしいと思うのは、トレヴァーの書くヌアラだったり、コリーだったり、ローズだったり、要するに、うまくいかなくてもけなげに生きる普通の人たちだったりするのだ。

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kon吉 さん 本が好き! 1級 (書評数:142 件)

かしこまったものは書けませんが、
マイペースに書いていけたらと思います。

よろしくお願いします.

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素晴らしい洞察: 3票
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