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星落秋風五丈原
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少女漫画草創期 モデルの漫画家 何人わかりますか?
 数々の「書き手の業」を描いてきた大島さんが、近松門左衛門の次に選んだのは、なんと漫画家!はい、彼女たちも、確かに業を持っていた。作中では、鵺と表現されている。

 1969年、人類が月面着陸をした年に出版社に就職した辰巳牧子は、経理補助として「週刊デイジー」「別冊デイジー」編集部で働き始める。親分肌の川名編集長が率いる「週デ」は、漫画班・活版班・グラフ班に分かれて編集部員一同、日々忙しく動き回り、「別デ」を率いる小柳編集長は、才能あふれる若い漫画家たちを見出し、次々にデビューさせていた。

 半世紀以上経って、紙媒体から電子媒体に変わるなんて、誰も思っていなかった頃、少女漫画にぽつぽつとスター漫画家が現れ始めていた。昔は紙でしか原稿を渡せなかったため、漫画家も小説家と同じ缶詰目状態。売れっ子漫画家の家には何人もの編集者が押し掛けた。デイジーとは架空の雑誌名だが、「歴史ものの連載で人気になった漫画家」「連れて行ったら演劇に夢中になって演劇ものを書きたくなった漫画家」など、当時の某雑誌読者であれば、今では大御所と言われている漫画家のモデルがすぐわかる。この頃は小説でも雑誌でも、百万尾突破がニュースになり、読者アンケートの結果が連載に反映され、漫画家もかなりシビアな結果を見せられた。読者も漫画によって影響を受け、生き方が変わっていく。のちに毎号付録つき月刊誌も登場するが、二誌のモデルとなった雑誌の売りは、読者全員プレゼント。何号か買ってクーポンを集めると応募できる仕組みだ。こちらも懐かしい。

 男性編集者に並んで漫画を担当したいと願う西口克子や香月美紀、少女漫画という縁のない世界に放り込まれ戸惑う綿貫誠治、暇さえあれば雀荘で麻雀ばかりしている武部俊彦、それぞれが辿る69年から73年までの五年間。少女漫画の雑誌だから、当然担当は女性…と思われたが、もともと少女漫画も手塚治虫のような男性が描いていたように、企画も出す編集は、もっぱら男性の仕事だった。いくら女性が漫画家と組んで何かをやりたいと思っても、最初からは無理な話だった。諦めて去っていく者、残って機会を待つ者、単純に漫画を好きでいる者、漫画家との相性に悩む者など、雑誌を作る側の群像劇でもある。彼らにもそれぞれ業や拘りがあり、最も強い業がぶつかった時に傑作が生まれるから面白い。

大島真寿美さんの著作
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2343 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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