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たけぞう
レビュアー:
弱者が生きるということ。息が詰まりそう。
苦しい物語でした。六百頁の長篇ですが、どんどんと展開が頭に入ってくるので長さは気になりませんでした。むしろ二百頁ぐらいだと消化不良でも起こしそうな、心理的に濃密な作品でした。苦しいのに読み続けるしかなく、気が晴れるわけでもありません。でも読まずにはいられない、そんな一冊です。

書誌情報に満足できず、ネットで検索したら著者インタビューがヒットしました。黄色い家について語ったものです。四人の女性のシスターフッド、細雪に対するカウンター文学と冗談っぽく答えています。

キーワードの一つ目ですが、インタビューでお金のことについて答えています。著者自身がお金に苦労したこと、でも金なんかに大事なことは決めさせないぞという気持ちがあるそうです。
二つ目は、別のインタビュー記事にありました。子どもの頃、スーパーの遊具コーナーにあるロボコンで遊び、外から見たら自分はロボコンに見えるんだ、でもロボコンは出られたけど、身体からは出られないということに気がついたと語っていました。どうしたって自分の身体は脱げないし、外から見れば、わたしはこの身体でしかないという感覚を、著者はとてつもないルールだといいます。

この二つの感覚は、本著の世界観に入るのに大切なものです。そしてなぜ自分がこんなにも川上未映子さんの世界に惹かれるのか、漠然と伝わった気がしました。

第一章はプロローグ的です。むかし一緒に暮らした人が捕まったというネット記事を見つけ、花ちゃんは動揺します。その時の仲間の一人に電話をかけます。物語の背景が徐々に明かされていきます。そして第二章から過去パートに入り、最終章で現代に戻ってくる構成です。
この構成は非常に難しいものだと思っています。他作品でも、こんなことを最初に書いたら駄目じゃんと思ったことがあり、この作品も同じでした。これから読む人は、第一章は流すくらいがちょうどいいとお伝えします。

それにしても、鬼気迫る作品でした。第一章のマイナス分を割り引いても、トータルで迫力のほうがずっと上回っています。表面上は穏やかな人間関係なのに、えげつないことが続いていくので、ざわざわ感が止まりません。
主人公の花ちゃんをはじめ、みんな一生懸命に生きようとしています。助け合いでつながる寄り合い所帯のような関係です。最初は花ちゃんの実の母娘生活から始まるのですが、これすらも一般的な親子関係からは程遠いもので、出発点から普通じゃないことが暗示されています。お金の貧しさが根底にあり、生きていくためにはお金が必要です。そのお金をめぐって争いがおきたり、助け合ったりしています。

主人公の花ちゃんは、生きていこうともがき続ける人です。周りの人は、花ちゃんから見たらあまりにも危機感がなく、落ちるべくして落ちている人なのです。でもその人たちにも自分の価値観があって、人間関係の軋轢が生まれてしまうのです。
どうしようもない人間関係に引きずられていく花ちゃん。さっさと切り離せばいいのに、それができない花ちゃんの姿は、どこかで人間の本質につながっているのかもしれない、そんな風に思えてきます。

生々しい感情が伝わってくるのは、著者だから書けたのでしょうね。こころがきゅっと締めつけられる一冊でした。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1468 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
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よかったらのぞいてみて下さい。

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