千世さん
レビュアー:
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「高齢者の運転問題」の取材のため、コンビニに軽トラが突っ込む事故のあった福井県を訪れたジャーナリストの俊藤律。良心に導かれ事故の真相に迫る彼の存在が、閉鎖的な田舎の村と私たち運転者の良心に迫ります。
福井県のコンビニに、突如突っ込んだ軽トラ。運転していたのは86歳の老人。店にいた若い店長がその車に轢き殺されました。フリージャーナリストの俊藤律(しゅんどう りつ)は、隔週誌ホリディの編集長に頼まれ、「高齢者の運転問題」についてルポをまとめるため、東京から原付バイクで福井を訪れます。
しかし取材を進める中で、被害者が生前はどんな人物だったかを知り、加害者に認知症があったとする噂に疑問を抱くようになった律は、これは高齢者のアクセルとブレーキの踏み間違えによる事故ではなく、事件なのではないかと疑い始めます。
加害者が暮らす埜ヶ谷村という福井県の小さな村落は、半年前に大雨による山崩れ災害が起きた地域で、半年後には隣町に吸収合併されることが決まっていました。この村で会った人々を取材するうちに、律は彼らがみな嘘をつき、何かを隠しているという思いをぬぐいきれなくなっていくのです。
ジャーナリストというものは改めて、因果な商売だなと思いました。人のプライベートな空間に、時間を問わず土足で踏み込んでいく。被害者の石橋昇流は死んでも死にきれないような悪人だと思いますし、父親の宏も強欲な人間ですが、律のやっていることもなかなかのものです。仕事とはいえ、あるいは、仕事だからこそ、でしょうか。ただ彼が石橋親子と大きく違うのは、時にそんな自分に迷いを感じ、心を震わせていることです。
律が真相解明に向けて突き進むことは、埜ヶ谷村の人々を恐れさせ、苦しめることです。それでも自分が歩みを止めない理由を彼は「良心」だと言います。しかし私には彼の個人的な「好奇心」だとしか思えませんでした。
やはり「良心」だったのかもしれないと思えるようになったのは、物語の終盤でいよいよ真実が明かされる時になってからでした。埜ヶ谷村の人々を恐れさせ、苦しめた律の出現は、それ以上に埜ヶ谷村の人々を、多少なりとも良心の呵責から救うことになったのかもしれません。
それでも、真相はわからないままです。わかるのは、認知症があるかないかに限らず、高齢者ではなくても、アクセルとブレーキを踏み間違えることはあり得る、ということです。毎日車を運転している私も。
しかし取材を進める中で、被害者が生前はどんな人物だったかを知り、加害者に認知症があったとする噂に疑問を抱くようになった律は、これは高齢者のアクセルとブレーキの踏み間違えによる事故ではなく、事件なのではないかと疑い始めます。
加害者が暮らす埜ヶ谷村という福井県の小さな村落は、半年前に大雨による山崩れ災害が起きた地域で、半年後には隣町に吸収合併されることが決まっていました。この村で会った人々を取材するうちに、律は彼らがみな嘘をつき、何かを隠しているという思いをぬぐいきれなくなっていくのです。
ジャーナリストというものは改めて、因果な商売だなと思いました。人のプライベートな空間に、時間を問わず土足で踏み込んでいく。被害者の石橋昇流は死んでも死にきれないような悪人だと思いますし、父親の宏も強欲な人間ですが、律のやっていることもなかなかのものです。仕事とはいえ、あるいは、仕事だからこそ、でしょうか。ただ彼が石橋親子と大きく違うのは、時にそんな自分に迷いを感じ、心を震わせていることです。
律が真相解明に向けて突き進むことは、埜ヶ谷村の人々を恐れさせ、苦しめることです。それでも自分が歩みを止めない理由を彼は「良心」だと言います。しかし私には彼の個人的な「好奇心」だとしか思えませんでした。
やはり「良心」だったのかもしれないと思えるようになったのは、物語の終盤でいよいよ真実が明かされる時になってからでした。埜ヶ谷村の人々を恐れさせ、苦しめた律の出現は、それ以上に埜ヶ谷村の人々を、多少なりとも良心の呵責から救うことになったのかもしれません。
それでも、真相はわからないままです。わかるのは、認知症があるかないかに限らず、高齢者ではなくても、アクセルとブレーキを踏み間違えることはあり得る、ということです。毎日車を運転している私も。
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国文科出身の介護支援専門員です。
文学を離れて働く今も、読書はライフワークです。
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- ISBN:9784041125380
- 発売日:2022年08月24日
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