ぱせりさん
レビュアー:
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暗い海に光をかざすために
1972年末、コーンウォールの離島メイデンロックの灯台から三人の灯台守の男たちが消えてしまう。内側から施錠された灯台。いつも通りに片付いた内部は何のトラブルの形跡もなく、ダイニングのテーブルの上には、今まさに食べるばかりの食事が用意されている。なぜか灯台内にある二つの時計はどちらも8時45分を指して止まっていた。
ここでいったい何があったのか、消えた男たちはどうなったのか、謎のままに二十年が過ぎたころ、ある冒険小説家が事件の謎に迫ろうと名乗りをあげる。「……その渦中にいた人々に話をさせてもらって、この謎に新しい光を当てたいと思います」
物語は二つのパートが交互に語られる。
一方のパートは、1992年の物語。作家が訪ねた遺族たち(三人の灯台守がすでに亡くなっていると仮定して)からの聞き書きだ。事件当時のこと、その後の暮らしのこと、そして、ぽつぽつと事件以前のことなどが、当人たちの口から語られる。
もう一方のパートは1972年末の事件までのほぼ一か月ほどの日常の様子やそのときどきの思いを、灯台の三人の男たちが、それぞれに綴っている。
冬の海は暗い。物語は最初から最後までどんよりとした灰色のイメージだ。
一度任務に就けば四十日の間外界からシャットアウトされる灯台守と、その間の留守を耐える妻や恋人。
性格も違えば暮らし方も違う。過ごしてきた過去も違うし、難しい癖もあった。それでも、協力すべきとき、互いは信頼に値するし、誠実に日々を過ごす人たちだったようだ。
ついてまわるのは孤独の影だ。
繰り返す遺族たちのインタビューのなかで、徐々に、彼らがずっと守ってきた秘密が、ちらほらと顔を出す。夫婦であっても今は語りたくない言葉を抱えて、行く者と残されるものと。長い年月の間に一つの秘密は様相を変えていったり、新たな秘密を産んだりしながら、ひとりひとりを幾重もの皮でくるんでいくように思えた。
すぐそばに近しい人がいるのに、語る言葉もあるのに、動くことが出来なくなっていく怖さ。この重たい灰色のイメージはそれなのだ。
真相を知ったときには、そうか、と思った。いいや、そこで別のカードに入れ替わっても、やはりそうか、と思っただろう。それはどうでもいいことなのかもしれない。
ただ、遺された人たちまでも消えてしまわないように。灰色の海に灯す光はあるのだから。
ここでいったい何があったのか、消えた男たちはどうなったのか、謎のままに二十年が過ぎたころ、ある冒険小説家が事件の謎に迫ろうと名乗りをあげる。「……その渦中にいた人々に話をさせてもらって、この謎に新しい光を当てたいと思います」
物語は二つのパートが交互に語られる。
一方のパートは、1992年の物語。作家が訪ねた遺族たち(三人の灯台守がすでに亡くなっていると仮定して)からの聞き書きだ。事件当時のこと、その後の暮らしのこと、そして、ぽつぽつと事件以前のことなどが、当人たちの口から語られる。
もう一方のパートは1972年末の事件までのほぼ一か月ほどの日常の様子やそのときどきの思いを、灯台の三人の男たちが、それぞれに綴っている。
冬の海は暗い。物語は最初から最後までどんよりとした灰色のイメージだ。
一度任務に就けば四十日の間外界からシャットアウトされる灯台守と、その間の留守を耐える妻や恋人。
性格も違えば暮らし方も違う。過ごしてきた過去も違うし、難しい癖もあった。それでも、協力すべきとき、互いは信頼に値するし、誠実に日々を過ごす人たちだったようだ。
ついてまわるのは孤独の影だ。
繰り返す遺族たちのインタビューのなかで、徐々に、彼らがずっと守ってきた秘密が、ちらほらと顔を出す。夫婦であっても今は語りたくない言葉を抱えて、行く者と残されるものと。長い年月の間に一つの秘密は様相を変えていったり、新たな秘密を産んだりしながら、ひとりひとりを幾重もの皮でくるんでいくように思えた。
すぐそばに近しい人がいるのに、語る言葉もあるのに、動くことが出来なくなっていく怖さ。この重たい灰色のイメージはそれなのだ。
真相を知ったときには、そうか、と思った。いいや、そこで別のカードに入れ替わっても、やはりそうか、と思っただろう。それはどうでもいいことなのかもしれない。
ただ、遺された人たちまでも消えてしまわないように。灰色の海に灯す光はあるのだから。
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いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:0
- ISBN:9784105901837
- 発売日:2022年08月25日
- 価格:2640円
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