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紅い芥子粒
レビュアー:
祭りには、遠く離れて暮らしている者を、故郷に引き寄せる力がある。
南イタリアの小さな村「ホラ」では、冬には盛大なナターレの祭りが執り行われる。
聖なる赤子の生誕を祝う祭りである。
村の人たちが持ち寄った薪が、教会の前に山のように積み上げられ、火山のように燃え上がる。人々は、歌い、踊り、飲み、食べ、そして祈る。
年に一度のナターレの祭りに合わせて、出稼ぎ移民に行っていた男たちも帰ってくる。父や息子を迎え、村には笑顔があふれる。

13歳の少年マルコの父さんも、ナターレの祭りに合わせて帰って来た。
父さんは、フランスへ出稼ぎ移民に行っている。農業だけでは、三人の子どもたちに教育を受けさせてやれないからだ。姉のエリーザが、大学で勉強できるのも、父さんの仕送りのおかげだ。
春と夏と秋は、フランスの工事現場で働き、仕事がなくなる冬の三か月だけ家族と生活を共にする。そうまでして稼ぐのは、子どもたちの未来のためだ。

マルコは、父さんにはそばにいて欲しいと思っている。未来なんて、あいまいでからっぽなものより、足元にある確かな”いま”のために。

父と息子は、ならんで教会の正面階段にすわり、燃え上がるナターレの炎をながめている。祭りの炎には、胸の中まで照らし出す力があるらしい。
父は、大人への階段を上り始めた息子にビールをすすめ、息子は酔い心地にクラクラしながら、それぞれの思いを、初めて明かす秘密を語りだす……

物語は、少年が語り手の章と、父親が語り手の章とが、絡み合うようにして進んでいく。息子の知らなかった父の物語と、父の知らなかった息子の物語が……

「ホラ」の村は、アルバニア移民の濃密な共同体として描かれる。作者が生まれた南イタリアの村をモデルにしているという。500年前に、オスマン帝国の侵略から逃げてきた人々の子孫。いまでも、アルバニア語を母語としている。学校ではイタリア語を習い、出稼ぎ移民に行っている男たちは、フランス語やドイツ語を持ち帰る。いなかの小さな村でありながら、多言語で多文化だ。
貧しさゆえに、若者は宿命のようにドイツやフランスへ旅立っていく。
異国で暮らす移民の胸に燃えているのは、故郷の祭りの火だ。
それは、大人への階段を上り始めた少年に、旅立ちの決意を固めさせる火でもあった。
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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:561 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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