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かもめ通信
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私にとって、目のさめている状態で夢にいちばん近いのは、できることならずっと読み終わりたくないと思うほど惚れ込んだ本のページをめくっているときかもしれない。
豊かな森、広大な牧草地、褐色の砂漠、ミモザの林、遠くに見える山並みゆったりと横切るキリン、獲物を狙うライオン、勢いよく走り抜けるバッファロー群れ、蜃気楼。

ページをめくりはじめて、まず最初に心を奪われるのは美しい自然の描写だ。
刻一刻と変わりゆく空の色を語りあげるその行間にも、かの地に対する著者の深い愛情がにじみ出る。
目のさめている状態で夢にいちばん近いのは、誰も知人のいない大都会ですごす夜か、またはアフリカの夜である。

そう語る著者が著したこの本は、1914年から31年までの18年間、当時イギリスの植民地だったアフリカの高地でコーヒー農園を営んだ体験を基に描かれてはいる。
けれどもこの本は、日記でも紀行文でも自叙伝でもない。
あえて言うならば、回想録の形をとった熱烈なラブレターというところだろうか。
豊かな自然、かの地に住む人々、アフリカに見せられた欧米の人たち、そうしたもろもろを丁寧に描き出して、自らが心の底から愛しんできたものたちへの想いを高らかに歌い上げている。

森林伐採や野生動物の乱獲などの自然破壊に心を痛め、元々その地で暮らしてきた様々な部族とも、人種や宗教を越えて良好な関係を築こうと努力し、彼らの文化を理解したいとも思ってはいるが、ディネセンは間違いなく白人の入植者だ。

自らも開墾をし、狩りを好み、心の痛みを感じながらも森を伐採し、人々の上に君臨する農場の女主人なのだ。
そうではあるが、彼女は書いた。
白人なら、耳ざわりの良いことを言いたいとき、「あなたのことを忘れられません」と書くだろう。アフリカ人はこう言うのだ。「私たちのことを忘れられるようなあなたではないと思っております」

この自然豊かな大地を、愛すべき人々を忘れないで下さいというのではない、私が描き出したため息が出るほど美しいこの光景を忘れられるようなあなたではないでしょうと、ページの合間からたえず彼女のささやきが聞こえてくる。

もちろん日本語に翻訳した横山貞子さんという翻訳者の助力なしに、私はこの物語を堪能することはできなかったのだが、この本の巻末に収録されている訳者による解説がまたすばらしい。
そのすばらしさは共感ボタンを連打するだけではとても言い表すことができないほどだ。
彼女は解説する。
この作品は、なにを書いたかとおなじくらい、なにを書かなかったかによって成りたっているのだと。
物語を読み終えた興奮がさめやらぬうちに、本編をこれほど深く読み込んだ人の訳で読める幸せをもう一度かみしめる。



読み終えた後、ここまで昂揚した気持ちを静めるには、しばらく時間がかかるもの。
にもかかわらず、この本にはもう1作、カップリング作品が収録されてる。
(とても続けて読めやしない…)と思いつつも、さわりだけ…とページをめくって目を見張る?
なんだろうこれ?
これまで400ページほど読みこんできたうっとりするほど美しい『アフリカの日々』とは、全く違う雰囲気なだけではない。
いきなり「です。ます。」調と「である。」調が入り乱れ、なんだか妙にとっちらかった感がある。
思わず首をかしげながら目をこらして読み進めると、10歳の頃からやし酒を飲むことしかしてこなかった男の物語だという。
その男、自分専属の腕の良いやし酒造り名人が死んでしまったために大いに困って、死んだ酒造り名人を探しに旅に出るというのだ。
頭蓋骨にさらわれた美しい娘を命からがら助け出し、その娘と結婚し、今度は夫婦そろって名人を探す旅に出る。
繰り返しになるけれど、名人は既に死んでいるのである。
数々の奇想天外な困難をくぐり抜けて行き着く先は……?!
いやーおどろいたのなんのって?!
『アフリカの日々』の余韻に浸ってしばらくは他の本が読めないのでは…と思っていた私の頭をぶんぶんと振り回し、ページの間から夢から覚めろ!と叫び続けているかのよう?!
これはもう比べようがない。比べても意味がない種類の作品で、思わずスルッと読んでしまった。

『アフリカの日々』には、かの地に言い伝えられた様々な物語が語られるシーンが登場する。
文字を持たない人達の語っていた物語はどんな話だったのだろう?
あるいはこんな奇想天外な面白い話を、あの老人達はしていたのかもしれない。
そんな気がした。

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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:1095 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。

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この書評へのコメント

  1. ef2016-02-29 06:31

    『やし酒飲み』面白かったでしょ~?

  2. かもめ通信2016-02-29 06:37

    efさんお薦めの『やし酒飲み』!なかなか美味しかったですよ~!
    ただねえ。今回私の読み方は、先に読んだ『アフリカの日々』にちょっと引きずられちゃったかな~という気もします。
    数年後、機会があったらこれだけ別に再読する~というのもありかなあとも。

  3. かもめ通信2016-02-29 06:45

    ちなみに『ライ麦畑でつかまえて』でホールデンが間違って図書館で借りた本(野崎訳では『アフリカ便り』)がこの『アフリカの日々』だったりします。

  4. 三太郎2016-02-29 12:58

    ヤシ酒飲みは中央アフリカに昔から伝わったトリックスター神話のバリエーションだと僕は思っているのですが、一方、ディネセンの代表作「バベットの晩さん会」の主人公バベットもトリックスター(神話的ないたずらもの)だと思っているのです。作者のアフリカ体験がバベットの人物設定にも生かされているのかも。バベットはフランス人ながら肌が黒い人物として描かれていました。

  5. かもめ通信2016-02-29 14:56

    そうそう三太郎さん,レビューに書かれておられましたねえ。
    『バベットの晩餐会』私もあれは随分昔に読みましたが,映画を先に観たのでどうしても映像の印象に引きずられてしまった感が。
    いつか再読してみたい1冊です。

  6. 三太郎2016-02-29 20:01

    映画では、小説の最後の方で省略があるんですよ。僕は省略された部分が好きなんですが。アフリカの日々を読んでみたくなりました。

  7. かもめ通信2016-03-01 06:01

    三太郎さん!ぜひぜひ!100年前のアフリカに行ってみてください!

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