書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
「幸福なひとだこと!」
「わたしが最後に、あのやさしい、穏やかな顔を見、あの青ざめた、皺だらけの頬にキスし、善良さと愛情がありありと出ているあの青い目に見入ったのは、もうずいぶん前のことです」
このように作者が懐かしむ祖母が、この物語のおばあさんのモデルである。
「あとがき」によれば、おばあさんだけではなく、物語に登場する家族も、村の人びとも、ほとんどが実在の人だったけれど、物語は「やはり小説で、かなりの虚構化、単純化、理想化がおこなわれている」とのことだ。
作者は人生のもっともつらい時期に、この物語を書いた。
「私は少女になりきって、思いも明るく草原や森や木立ちを走り廻り、あの純朴な人びとを残らず訪れて廻りました」
と作者は振り返る。
「懐かしいおばあさんの足もとに逃避しました」
と。
これだけで充分。亡くなって、ずっとあとになっても、おばあさんは、大切な孫娘を助けにやってきてくれたのだと思う。故郷の美しい自然や懐かしい人々を伴って。
わたしは、少女の作者のあとを喜んで走り、森番や粉屋の夫婦に挨拶をする。
川の縁に立ち止まり、薄幸の狂女ヴィクトルカの歌に耳をすます。
おばあさんを見送りながら、侯爵夫人(領主である侯爵夫人までもおばあさんを相談相手として頼りにしていた)が、感に堪えたようにつぶやいた言葉も聞こえる。「幸福なひとだこと!」


村の人たちが、おばあさんを頼り、相談に乗ってほしいと思うのは、例えば、子どもを相手にしても、
「おばあさんは子どもたちの言うことがみな正しいとは思わなかった。しかし心のなかでは「わたしたちだって、子どものときは同じだった」と思っていたのである」
という理由だったのかもしれない。
公爵夫人の「幸福なひとだこと!」に似ている。


人が集まれば、古くから伝わる民話や近隣の村の変わった出来事など、おもしろい話が次々に語られる。
森の悲しい狂女ヴィクトルカの話、伐り倒されたシラカバの話、九つの十字架の話……。
女たちが糸車を持って集まることは、「糸車といっしょにおもしろい昔話と陽気な歌を持ってくる」という意味だ。


ヒツジ飼いのヨーザはどのようにして、いつ雨が降り、いつお天気になるかを知るのか。
森番が、カモシカを射ることができなくなったのはなぜなのか。
おばあさんにとって一番頼りになるカレンダーが、山と空だというのは、どういうことなのか。
四人の孫たちに混ざっておばあさんを始め、村の知恵者たちの話を聞きたくなる。
そして、一章読むごとに、侯爵夫人の呟いた言葉「幸福なひとだこと!」をしみじみと味わう。


掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1743 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

読んで楽しい:6票
参考になる:22票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. かもめ通信2022-05-20 12:30

    以前私が読んだのは、ドイツ語からの重訳の分厚い本でしたが、
    ぱせりさんが紹介してくださったこの本は
    来栖さんの翻訳…ということは、チェコ語から直接訳されているんですね。
    レビューを拝見していたら、また、おばあさんに会いに行きたくなってきました。

  2. hacker2022-05-20 12:45

    この本、私のツンドク山脈に何年も埋もれたままになっています。近いうちに、発掘してきます。

  3. ぱせり2022-05-20 14:06

    かもめ通信さんの書評、読ませていただきました。ほのぼのと嬉しい物語が抱えたいろいろな問題について触れられていて、とても参考になりました。私がさらっと通り過ぎてしまったことにそうだったのか、と初めて気がついたことがたくさんでした。長く理不尽な徴兵制についての若い人たちの苦しみ、心に残っています。

  4. ぱせり2022-05-20 14:02

    hackerさんのツンドク山、あとどのくらい宝が眠っているのでしょう。ツルハシかついで掘りに伺いたいです^^

  5. hacker2022-05-20 15:31

    なんせ山脈ですから...掘りがいがあります。

  6. ぱせり2022-05-20 16:33

    !(^^)!

  7. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『おばあさん』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ