書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

たけぞう
レビュアー:
大人向けの純文学。テーマは家族。
先行書評の並々ならぬ熱量を感じて読むことにしました。
素晴らしい作品でした。しびれる感覚を久々に味わいました。
満足です。

母をめぐる物語という副題がついています。
第一話の影に対してという作品が、2020年6月に文学館の寄託資料の中から
見つかったことがきっかけで、この本が発行されました。
その他の六篇で、母が登場する発表済みの短篇を収録してあるので、
遠藤周作の母に対する気持ちを推しはかることができます。

研究をしている人に敬意を表します。
発表済みの短篇に、遠藤周作が母のことを小説にするのを
周りの人に止められていたと書いてあり、
きっと逡巡していたのだろうなと想像がつきます。
研究者の間でも、おそらくこの短篇は幻の作品と
言われていたのでしょうね。
習作が残されていたことで、世に出た価値があると思います。

しかし、著者は悩んで発表しなかった作品です。
こうして没後に発表されたことも、この作品の運命ではないかと
思うのです。

烈しすぎた母。
大連に住んでいて、周囲との折り合いがつかなかった人です。
バイオリンの練習に明け暮れて、命を削るように演奏をしていたことが
文章の端々から伝わってきます。
著者は、離婚した母に連れられて日本に帰り、キリスト教に入信します。
母は教会でも一切の妥協がなく、誰よりも深く信仰の世界に入り込み、
遠藤周作の人間形成に深く影響したことが伺えます。

母の最期の場面や、母の没後に父と暮らしたときの感情を知ることで、
著者がどんな精神世界を構築したかの一端が分かるので、
著者の人間像に触れられる作品に仕上がっていると思います。

キリスト教を信じるということは何か、そもそも信じるという意味、
そんなことを感じさせてくれる作品と言えるでしょう。
著者の作品はかなり久しぶりに読みました。
過去に読んだときは理解が進まなかったからです。

作品には読み時があるのだということを、強く感じました。
この作品は大人向けです。理解できたことを嬉しく思います。
いまなら、著者の他の作品世界にも入れるかもしれないという
気にさせてくれる一冊でした。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1468 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。

自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。

参考になる:24票
共感した:1票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. Kurara2022-08-15 07:57

    たけぞうさん♪
    遅くなりましたが拝読しました!紹介した甲斐があります。
    本当、「読み時」ってものを実感できる1冊ですよね。
    むしろ今出版されたことに感謝ですわ。

  2. たけぞう2022-08-15 21:45

    >Kuraraさん
    ご紹介ありがとうございました。深く、ふかーく感謝です。遠藤周作さんの作品から離れて久しかったのですが、こうして大人向けの作品を読めたことで、なんだかとても満足です。あまりに素晴らしかったので、家族にも薦めて読んでもらったら、同じく満足していましたよ。じわじわと広まって欲しい作品ですね。

  3. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『影に対して: 母をめぐる物語』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ